Column

女性活躍の風は誰に向かって吹いているのか
大嶋寧子

「正社員になると、子どものインフルエンザでも授業参観でも会社を休めず、家族としての愛情のある生活が送れなくなってしまう」
「一部の先進企業を除いて、地域内で女性が育児休業を取得できる雰囲気はまだない」
「夫の扶養を外れようとすると夫などの家族に止められるとの声がある」
「離職期間が長い女性が過去の経験や育児を通じたスキルを評価できず、働く自信を持てずにいる」

これらはこの1、2年の間に、地方で女性活躍支援に取り組む方・団体への取材で、筆者が耳にした「声」だ。育児と両立しにくい正社員の働き方、育児休業を取得しづらい職場の現状や取得できても復職後の両立の見通しが立たない状況、女性の就業に中立的でない税・社会保障制度、離職期間が長期化することによる自信喪失などの問題が、今なお女性の「はたらく」の前に立ちふさがる状況が示唆される。

一方で、女性雇用に関わるデータはこれと異なる状況を示す(図表1)。総務省「労働力調査」によれば、過去15年間(2002~2016年)に女性雇用者は380万人増加した。その中心は25~59歳及び60歳以上の年齢ゾーンの女性である。同じ期間の男性雇用者の状況を確認すると、全体で71万人の増加にとどまった。これは60歳以上で203万人増加したものの、25歳以下と25~59歳の雇用者が計132万人減少したことによる。このように、女性では高齢期だけでなく、現役世代の雇用が急速に拡大していることが特徴的だ。
このほか厚生労働省「雇用均等基本調査」によれば、30人以上の企業のうちポジティブ・アクションに取り組む割合は2013年度の21%から2014年度の57%へ大幅に上昇している。これらデータが示すのは、企業で雇用される女性が増え、同時に企業の女性活躍に向けた取り組みもハイペースで拡大する状況である。冒頭で述べた現場発の女性就業の実態と、データが示す女性活躍の現状の、どちらが本当の姿なのだろうか。

図表1 女性雇用者数の推移

(注)1.2002年をゼロとした場合の、15歳以上の女性人口・女性雇用者数の動向。
2.ここでの雇用者は役員を除く。
(出所)総務省「労働力調査」

 

女性雇用拡大の約半数が年収50~149万円のアルバイト・パートに集中
前述のように過去15年間に女性雇用者が拡大してきた背景として、女性が働く必要と働く機会がともに拡大してきたことがある。2人以上の勤労者世帯の世帯主が勤め先から受け取る収入は1990年代後半から減少に転じており、その傾向は2010年頃まで続いてきた(総務省「家計調査」)。その結果として既婚女性が働いて収入を得る必要が高まる一方、景気は2002年1月を底に回復に向かい、雇用情勢の改善により女性の就業機会は拡大した。

一方で、どの雇用形態、どの年収ゾーン別で女性雇用者が増えてきたのかを確認すると、寄与が大きいのは年収100~149万円のアルバイト・パート(111万人増、雇用拡大への寄与は30%)、年収50~99万円のパート・アルバイト(55万人増、同15%)であった(図表2)。実に過去15年間の女性雇用拡大の45%が「年収50~149万円以下のアルバイト・パート」という働き方に集中したことになる。
雇用者(役員を除く)全体に占める割合で見れば、「年収50~149万円以下のアルバイト・パート」は16%である(総務省「労働力調査・詳細集計」2016年)。雇用者全体から見れば少数派であるこの働き方に女性雇用拡大の約半数が集中する状況は、女性の就業に中立的でない制度(所得税の配偶者控除、企業の配偶者手当、社会保険の被扶養配偶者制度)、家事・育児の負担が女性に集中する状況、子育て期の女性の再就職先としてハードルが高い正社員の働き方を初め、様々な要因が今なお女性の「はたらく」選択肢を狭めている可能性を示している。

なお、パートなど非正規雇用者として働く女性の多くは、自ら希望して今の仕事を選んでいるという指摘もある。しかしこの点もより詳細な検討が必要だ。21世紀職業財団「多様な就業形態のあり方に関する調査」2001年によれば、30~50歳代のパート女性の大半が「自ら進んで非正社員になった」と回答している。しかし、そのように回答した女性のうち30~34歳、35~39歳、40~44歳の約半数は、「育児・家事・介護がなければ正社員を希望した」と回答している。パートとして働く女性のなかには、育児等の有無にかかわらず現在の働き方を選んだ人もいれば、育児等と両立できる働き方という選択肢のなかで、最終的にパートを選んだ人も少なくないと考えるべきだろう。

図表2 過去15年間の女性雇用者増加の内訳

(注)2002~2016年の女性雇用者(役員を除く)数の変化について、雇用形態別の内訳を示したもの。
(出所)総務省「労働力調査」2016年

 

正社員女性に限れば年収が高い層で雇用が拡大
一方、過去15年間に正規雇用の女性の数は26万人増加している。ただしより低い年収ゾーン(年収99万円以下、同100~149万円、同150~199万円以下)で計60万人減少する一方、より高い年収ゾーン(年収300~399万円、同400~499万円、同500~699万円)で計75万人増加している。
年収300~699万円の年収ゾーンで増えた正社員(75万人)の内訳を月末1週間の就業時間別にみると、休業者と週就業時間34時間以下の人が合計で26万人(正規雇用拡大への寄与は44%)、週就業時間が35~39時間の人が16万人(同21%)と、休業や短時間勤務、残業なしのフルタイム就業に相当する働き方の女性の増加が、この年収ゾーンの正社員女性の増加を支えている。2000年代以降、仕事と育児の両立支援に関わる法律・制度が充実されてきたが(2005年4月の次世代育成支援対策推進法施行、2000年代以降の育児・介護休業法の相次ぐ改正等)、これらの法律・制度が育児と両立しやすい働き方の正社員女性の増加の背景にある可能性がある。ただし、年収199万円以下では休業者・週就業時間34時間以下の正社員女性の増減はみられず、少なくとも柔軟な働き方を選択する女性はこの年収ゾーンで増加していないことにも注意が必要である。

女性活躍政策は新たな展開が必要
これまで見てきたように、今日においても女性の「はたらく」選択が狭められている状況が伺える一方で、より年収が高いゾーンの正規雇用では、柔軟な働き方を活用する女性の雇用が拡大している。女性活躍の風は吹き始めたとはいえ、まだ全ての女性の上に吹く状況ではないように思われる。より多くの女性が「活躍」できる社会に向けて、配偶者控除や社会保険の被扶養配偶者制度の見直し、男性の育児推進策の強化、全国津々浦々で育児休業を当たり前のものとして利用できる環境整備、正社員の働き方改革の拡充、地域の事情に即した女性の再就職・キャリアアップ支援の拡充、そして時間制約があっても活躍できる就業機会の促進など、女性活躍政策の次なる展開が求められている。
なお、本稿で見たようなマクロの統計から分かることは限られる。女性の「はたらく」についてどこで望ましい変化が起きており、どのような状況の女性がどのような問題を抱えているのか、現場の声に耳を傾けながら丁寧に探っていきたい。

 

大嶋寧子

2017年07月28日