Column

「忍耐力」という会社員のスキルの是非
中村天江

会社員がフリーランスに勝るスキル
研究者という仕事柄、講演など、人前で話をすることがあります。最近、そのような場で、盛り上がる調査データがあるのです。
それは、会社員とフリーランスそれぞれに「現在の働き方を続ける/成功させる上で重要だと思うもの」を尋ねた下記の調査結果です。

現在の働き方を続ける/成功させる上で重要だと思うもの

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出所:フリーランス協会「フリーランス白書2018( 値は%)

まず、一見してわかることは、ほぼ全ての項目で、会社員よりフリーランスの値が大きいということです。例えば、「顧客/市場ニーズの把握力」は、会社員17.1%に対しフリーランス51.6%と、30ポイント以上の差、「成果に結びつく専門性・能力・経験」は、会社員39.9%に対しフリーランス60.6%と、20ポイント以上の差があります。労働者ではなく事業者の一種であるフリーランスは、営業から納品、料金の回収まで、ひとりでしなければならないため、全般的に高い能力が求められるからでしょう。

そんな中、唯一、会社員の方がフリーランスよりも値が大きいのが、「忍耐力」です。「忍耐力」は会社員35.9%に対し、フリーランスは28.7%となっています。ここでたいてい、うなずきや苦笑いが起こり、質疑応答でコメントする方が出てきます。

給料にはガマン代が含まれている!?
仕事をしていれば、いいことも、悪いこともあります。人事評価や給与や賞与の額、役割分担に納得できず、怒りを感じることも、時にはあるでしょう。

そんな時に、「給料はガマン代だから」と言われ、理不尽さを飲み込むことがあります。定年まで一つの企業で働き続けることを考えると、一時的な感情で周囲と軋轢を起こすのは得策ではないからです。このような現象は、ハーシュマンの“Voice or Exit”の理論、「組織から離脱(Exit)する選択肢をもっている人は声(Voice)をあげられるが、離脱の選択肢をもたない人は声をあげることができない」で説明できます (※1)。

また、キャリア形成において、一時的に困難な状況に向き合い、それを乗り越える努力をする、いわゆる「修羅場体験」が重要なこともよく知られています (※2)。米国のCCL(Center for Creative Leadership)が行った次世代リーダーの育成研究では、事業の失敗や降格、問題のある部下のマネジメントといった修羅場経験が、人材の成長を促すことが明らかになっています。

このように会社員に求められる忍耐には、中長期的なキャリア形成において、プラス面を促すものも、マイナス面を抑えるものがあります。本人の希望と合致している限りにおいては、このような忍耐には一定の正当性があります。

前向きな意図のある忍耐かどうか?
ところが、個人のキャリア形成の希望と合致しない状況で、忍耐を強要されるとなると、話は一転します。将来への見通しも本人の意向もない社員を、過酷で理不尽な状況に追い込めば、ひとつ間違えれば、本人はつぶれてしまいます。忍耐を一方的に課す悪質なものは、パワーハラスメントでしかありません。忍耐には、将来につながる前向きな意図が必要なのです。

いまや、世代や性別、価値観などの違いにより、働き方に求めるものの個人差は大きくなる一方です。生涯にわたる終身雇用とそこでの出世を求めるかどうかは、個人によって随分違います(※3) 。残業や休日出勤によって上司の覚えをめでたくするよりも、家族と一緒に過ごす時間を優先したい人は沢山います。

終身雇用のもと出世を目標に、忍耐力によってキャリアを形成してきた人にとっては、忍耐力は仕事をするうえで必須のスキルです。しかし、働くことに対するそもそもの前提が違う人は、忍耐が必要だと思うとは限りません。求める働き方が多様になるにつれ、忍耐を求める前提の言語化が必要になり始めています。

「忍耐が忍耐を呼ぶ」負の連鎖を断ち切る
これまで忍耐をしてきた人にとっては、「忍耐力にもとづくキャリア形成」は成功体験となっています。忍耐により、仕事の成果をあげ、組織に貢献し、自身も成長してきた。そうなると、忍耐を前提としない働き方が甘えに映るだけでなく、成長スピードを遅らせ、本人のためにならないとも感じます。

つまり、成功体験にもとづき、よかれと思って、忍耐を再強要するという連鎖が、今いろいろな職場で起きています。しかし、働く人が多様になるにつれ、労働時間にしても、プレッシャーにしても、求めるレベルの個人差がとても大きくなっており、かつての成功体験の再強要は通用しません。今や、働き方の前提を確認し、その前提に合った頑張り方を探る時期に来ています。

かつての成功体験や、自身が努力してきたことをなかったことにするのは容易ではありません。ですが、忍耐を再強要する方法では、今求められている多様な働き方を実現することもできません。
これまで自分がしてきた忍耐を捨てる。そんな忍耐が、多様な働き方を創っていくために求められています。

 

※1)アルバート・O・ハーシュマン(2005)『離脱・発言・忠誠 ――企業・組織・国家における衰退への反応』ミネルヴァ書房
※2)モーガン・マッコール(2002)『ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法』プレジデント社
※3)人材サービス産業協議会(2018)『雇用区分の呼称に関する求職者調査』

 

中村天江


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2018年08月24日