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地方の人手不足を救う、短期的解決策と長期的解決策
古屋星斗

人手不足が叫ばれるようになって久しい。「人手不足倒産」なるものも発生しているとされ、事業承継、技術継承を含めた経営上の大きな問題となっている。他方、地域によって状況には大きな違いがあるとされる。例えば、首都圏では底堅いインバウンド需要を受けて、観光産業の時給単価が過去最高水準で上昇しており(例としてホテルフロント職1162円、前年同月比+4.3% (※1))、他方東海エリアでは、好調な製造業の企業業績を背景として全業種から製造業に人材が集まっているという声が聞かれ、結果として地域の人材供給を吸収し高い有効求人倍率となっている(例として、岐阜県は2.01倍、愛知県は1.93倍。ともに全国平均の1.63倍より著しく高い)。今回はこうした人手不足における地域間の相違について、特に地方部における人材確保難の質的な特徴について最新のデータを元に明らかにしたい。

地方の採用の特徴①中途採用重視
地方部の大きな特徴として挙げられる第一に、中途採用の重視がある。図表1(※2)に整理したとおり、三大都市圏(首都圏、中部・東海、京阪神)は正社員の新卒採用比率が5割~6割程度となっている。他方、その他の地域は4割以下であり、特に東北や九州エリアでは1~2割程度と新卒比率は極めて低い。「日本企業はプロパー、生え抜き社員中心」であると感じられがちであるが、それは都市部の一部大企業のみの文化である。

図表1:正規社員の採用に占める新卒比率

では、地方では中途採用で人員を確保できているのであろうか。図表2(※3)をご覧頂きたい。中途比率が高い北海道、東北、北関東、九州といったエリアでも、中途で人員を確保できた企業割合は3割程度であり、多くの企業は中途採用に依存するが、その中途でも採用が目標に到達していない状況がわかる。

図表2:中途採用で人員を確保できた企業比率(%)(2018年上半期)

 

地方の採用の特徴②シニアの活用
第二のポイントとして、採用の内実の面での差が存在している。大きなポイントが“シニアの活用”である。自社の内と外、つまり社内のシニア活用と中途採用でのシニア採用といった両面で、60歳以上社員の活用を進めている企業の割合(※4)を整理したのが図表3である。地方でも特に従業員100人未満の中小企業においては、8.7%と他の企業群よりシニアを活用している企業の割合が高い。若手人材が新卒・中途ともに採用できないなかで、自社のシニアに再雇用などで引き続き働いて貰う、もしくは技能さえあれば年齢にかかわらず採用するといった、“年齢を問わない”人材活用が広がりつつあるといえよう。ここではシニアを例として取り上げているが、シニアや女性といった現在すでに地方にいる「埋蔵人材」の活用が、地方・中小企業の人手不足のなかでの短期的解決策となっている。こうした「短期的な解決策」の一層の推進のためには、既存の業務の細分化や、職種の開発などが必要となる。
例えば、営業職において、早朝からの短時間ワークのシニアを、フレックスタイム(つまり出勤時間が遅くてもOK)の若手人材と組み合わせれば、シニアにとっても若手にとっても魅力的な働き方の職種が開発できる。(なお、シニアの活用が広がるなかで、なんとか若手を入れるべく、逆に「若ければ経歴、学歴など一切問わない」という、“年齢だけで採用する”ケースも存在している。これに伴い地方、特に中小企業における“高卒ニーズ”が高まりを見せており、大学・大学院卒以上に高卒に力を入れる企業が増加しているのも特徴である(図表4 )(※5))

図表3:”シニア活用企業”の割合

図表4:100人未満企業の学歴別採用ニーズ

 

地方の採用の特徴③IT等の設備投資を進めている企業は採用力が高い
採用力が高い地方・中小企業を分析すると様々な特徴が見えてくる。その大きな特徴のひとつが人材不足への対応に当たって「ITや機械化投資を行っている」という点であった(図表5(※6))。企業規模別、地域別で整理したのが図表4である。100人未満、地方部ともにIT投資の有無によって新卒採用の結果が大きく異なることがわかる。例えば、IT・機械化投資を行っていない100人未満企業においては、新卒採用で早期に確保できている企業は11.1%に過ぎないが、IT投資を行っている100人未満企業においては、26.5%まで上昇する。

図表5:【IT・機械化投資の有無別】新卒を早期に確保できている企業の割合

 

IT・機械化投資が可能な企業は経営状況が比較的良い、などの要因が背景に含まれることが考えられるが、企業の人材不足に対する経営姿勢として、「現状を放置せず、若手含め社員が避けたいと思っている単純な仕事などを機械で代替していこう」とする姿勢が特に地方・中小企業の採用市場において好感触を得ている可能性が示唆される。設備投資は当然、人材採用の問題ではなく、経営戦略の問題である。すぐに転換することは難しい面があるものの、それだけに採用力の差別化に繋がる長期的なキーポイントであり、「長期的な解決策」となる。

このように、地方における正規社員の採用については三大都市圏と比較して、大きな特徴が存在しているが、シニアなど「埋蔵人材」の活用という“短期的解決策”と、IT・機械化による省力化投資といった“長期的解決策”を組み合わせることが、採用力の向上に繋がっている像が見えてきた。また、こうした取組は採用力の向上のみに留まらず、そのプロセスを通じて自社の業務のムダをなくし、本質的な価値は何かを見直す機会となる。地方における採用力の向上が、実は地方の産業の生産性、競争力の向上に繋がる、本質的な問題へのアプローチとなるのではないだろうか。

 

(※1)リクルートジョブズ,「2018年12月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査」
(※2)2017年度の正規社員採用実績(新卒+中途)に占める新卒採用者の割合。リクルートワークス研究所,2018,「ワークス採用見通し調査」より。従業員規模・業種によりウェイトバックしたもの。以下のデータの出所もすべて同様。
(※3)無回答を除く。このため合計が100%とならないエリアがある。
(※4)「2018年度上半期に60歳以上を中途採用した実績あり」×「自社の60歳以上社員の積極活用を既に行っている」と回答した企業の割合
(※5)新卒採用が前年(2018年卒)と比べて「増える」と回答した企業割合-「減る」と回答した企業割合のポイント(%ポイント)。
(※6)新卒採用をしている企業ベース、通年採用実施企業を除いたうち、翌年の新卒を9月末の段階で確保できている企業の割合を算出したもの。IT・機械化投資については、「人手不足への対応策として投資を行ったか、今後行う予定はあるか」に対する回答を集計。

 

古屋星斗


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2019年03月01日