Column

アラン・アンドレ氏
職場における健康・安全・クオリティライフ部門部長、新しい社会契約担当
マルチーヌ・ボルドネ氏
デジタル・プロジェクト&新しい働き方部門部長、テレワーク推進事業担当

2008~2009年に従業員35人が自殺するという事態(※1)に陥り、後に大きな改革を経て見事に蘇った旧フランス・テレコムの例は、企業の組織改革分野での成功例とされているが、今回は危機後に人事課内部に設置された「職場における健康・安全・クオリティライフ」部門の部長を務めるアラン・アンドレ氏と、人事課の「新しい働き方」部門の部長でテレワーク推進を主に担当するマルチーヌ・ボルドネ氏に、新しい取り組みについて話を伺った。


様々な企業ランキングで常に上位をキープする現在のオレンジ

アンドレ氏(以下敬称略):社内アンケート結果では「93%の従業員がオレンジの社員であることを誇りに思っている」また「87%の従業員がオレンジを労働環境のよい企業として推薦する」という結果(※2)が出たと聞き、嬉しく思っています。私たちにとって、過去の事件は大きな傷として残っていますが、約10年間、本当に多大な努力が行われてきました。私は「職場における従業員の健康・安全・クオリティライフ」部門部長という役職ですが、このような役職が特設されている企業をほかに知りません。

ボルドネ氏(以下敬称略):今年発表された、「雇用における男女の均等な機会と待遇に関するランキング」でもオレンジはトップでした。


労働環境向上のためのテレワーク導入

ボルドネ:従業員の労働環境改善のためにテレワークの導入は必須でした。会社に活気をもたらすツールとして利用していますが、軌道に乗せるには時間がかかりました。2009年にテレワークに関する最初の企業内労使合意が結ばれた時点では、まだ技術的にも、管理職側の意識も十分な準備が整っておらず、テレワークを希望した従業員も700人のみでした。

テレワークが急速に広まったのは、試行錯誤が繰り返された後、テレワークについて本格的な合意が締結された2013年以降のことです。世間一般でもテレワークが話題に上っていた時期と重なり、管理職、従業員の間でも需要が高まっていました。

現在、「週2回は出社する」というルールのもと、7000人が定期的にテレワークを行っており、また必要に応じてテレワークを行っている社員も5000人に上ります。今年中にも新たな企業合意が締結される予定ですが、テレワークに関してはすでに順調に機能しているので、微調整のみとなる予定です。


社内テレワークSNS「Plazza」の立ち上げ

ボルドネ:2013年以降は社内でも様々な推進活動が行われています。2015年には「テレワーク・デー」が開催され、全国レベルで活発な議論がなされました。同時期に始動した、社員限定のソーシャルネットワーク「Plazza(プラッツァ)」は、テレワークを日頃から行う1400人の社員が中心メンバーとなり、ネット上で日々アドバイスを与えたり、レクチャーを行っています。管理職レベルでは、様々な業種から選ばれた30人のマネジャー(労働医を含む)がテレワーク推進チームを結成し、部下にテレワーカーを持つマネジャーたちの育成に日々励んでいます。

また、最近ではテレワークに必要な社内連絡ツールを統括したイントラネット・システムを構築し、近くモバイルでも利用できるようになります。


生産性の向上とコスト削減を実現

アンドレ: 2年おきにテレワーカーとそのマネジャーに対してアンケート調査を行っていますが、生産性が平均10%上昇したほか、モチベーションも同時に上がったという結果を得ています。出勤に時間とエネルギーを費やさないので、疲労が軽減されることが大きい。テレワークの適用が難しいとされていたコールセンター業務でも、テレワークのほうがより生産性が上がっているとの結果が出たほどです。コミュニケーションにおいては、「空間的な距離ができたことで、かえって相手への配慮が増して、積極的に対話を行う努力がなされ、新たな関係を築くことができた」という報告を受けています。

ボルドネ:テレワークについては、コスト面でも有効性が明らかになっています。オレンジはフランスだけでも従業員が10万人規模の巨大な組織です。職場であり資産でもあるオフィスの管理・維持コスト、また、全国に持つオフィスビルや不動産の管理コストは莫大です。テレワークを通じて使用しなくなったオフィスを閉鎖し、複数のオフィスを統合するなどして効率的に利用できるようになりました。従業員への通勤・交通手当も軽減されました。こうして浮いたコストは、インターネット費、パソコンなど必要なツールに対する手当とは別に、「テレワーク特別手当」として年間100ユーロをテレワーカーに還元しています。


「リモート・マネジメント」という新しい領域

ボルドネ:テレワークを導入する際、有益なシステムを使って社内の連絡手続きを統一・共有化できるかが成功の秘訣であると確信していました。オレンジのような巨大な組織で、各部署によって申請依頼や承認方法がバラバラなのでは長期的な成功にはつながらないことは明白でした。そこで、テレワーク時に発生する手続きを一つのインターフェイス上にまとめ、イントラネット上で申請や承認ができるようにし、さらには、誰がいつどこでテレワークを行っているのかなどの情報を共有できるシステムを開発・構築しました。

こうしたシステムを通じて全体を把握できるようになりました。何より、マネジャー・従業員両者にとって、テレワークがより身近に、手軽にできるようになったことで大きな前進となりました。システムは近日中にモバイル版も稼働することが決定しています。

アンドレ:テレワーク導入時に、主にマネジャーに対して行われる視覚・認識体験があります。テレコム分野の最先端技術を売りにするオレンジらしいと言われますが、ほかの企業でも導入を勧めたいです。これは、直接対話して得られる情報と、イヤホンを通して得られる情報との間では、各個人の間に理解レベルの違いがあることを学ぶのが目的です。そして、視覚性がない場面ではどのような努力がなされるべきなのか、またテレワーカーを含め関係者同士がより強い信頼関係を構築するには相互理解が必要であることを学びます。このようなオレンジのメソッドは、将来的に「リモート・マネジメント」という新しい領域のレファレンスになると自負しています。

ボルドネ:バーチャル化されたコールセンター、インスタントメッセージ、ビデオ会議システムなど、様々なデジタルツールが開発され、テレワークを取り巻く環境がよりスムーズに進むよう日々改善が重ねられています。


自宅でも職場でもない第3の場所、Stop & Work

ボルドネ:自宅の環境がテレワークに向かないなどの理由でテレワーク導入を断念したケースや、テレワークを行いたいが仕事とプライベートの環境を分けたい、などの様々な要求が上がり、その代替手段として「自宅でも職場でもない第3の場所」が浮かび上がりました。その名も「Stop & Work(プロジェクト名および会社名でもある)」です。

これは、Regus(企業向けのファシリティマネジメント)とCDC(預金供託金庫)とオレンジが、自治体と協力して共同展開するテレワーク向けのコワーキングスペースです。幹線道路に近い住宅街に設置される予定で、面積は平均で1000平方メートル程度。2016年3月の時点では、首都圏内のフォンテーヌブロー(セーヌエマルヌ県)、セルジー(バルドワーズ県)、ボーベ(オワーズ県)、モントロー(セーヌエマルヌ県)の4カ所ですでに稼働しています。2016年末までに、パリ首都圏を中心に15カ所程度のコワーキングスペースが設置され、将来的にはフランス国内で50カ所を目指しています。

「Stop & Work」社にはRegusが過半数出資を行い、ファシリティマネジメントで培ったノウハウを持ち寄ります。オレンジはこうしたコワーキングスペースの通信ネットワーク整備を行い、CDCは自治体との関係を取り持つということです。

アンドレ:2014年に開所したパリ10区の「ビラ・ボンヌーベル」は単なるコワークスペースという概念を超えて、イノベーティブなプロジェクトを推進するために作られました。オレンジのプロジェクトチームが半年から1年間入居したり、革新的なスタートアップなどが入居するなど、クリエイティブな思考が向上するようなシナジー効果を狙った実験的なコワークスペースとなっています。


フランス版シリコンバレーの「オレンジ・ガーデン」

アンドレ:昨年6月、パリの近郊シャティヨンにおいて「オレンジ・ガーデン」のオープニング式典がオランド大統領出席のもと行われました。このプロジェクトの目標は「労働環境の改善」と「革新的技術が生まれるエコシステムの構築」ですが、私自身が発案し4年の歳月をかけて実現させました。パリ近郊に点在していた「オレンジ・ラブズ(Orange Labs)」のアトリエで勤務していた3500人の従業員を7万2000平方メートルにおよぶ広大なスペースに集結させました。

「オレンジ・ラブズ(Orange Labs)」は、オレンジの成長を支えるイノベーション・ネットワークで、世界5大陸に拠点があり、エンジニアや研究者を中心に5000人以上の従業員が参加しています。スタートアップ企業の支援も行い、社内のイノベーション・チームと交流させて、新しい企業文化を創造しようとしています。シャティヨンの「オレンジ・ガーデン」の構内は、電気自転車で移動するなどシリコンバレーにあるグーグル社のキャンパスをイメージして構想されており自由な雰囲気が特徴です。「第3の場所」として様々なスタートアップや研究機関などにも開放されており、人々が交流し合う中で、様々なアイディアが生まれ、多くの革新的技術が発信されていくことでしょう。


※1 オレンジはフランス最大手の電話会社、旧フランス・テレコムである。もともと国営の独占企業であったが、民営化を機に世界的な激しい競争にさらされた上、従業員は週35時間制の導入で短縮された就労時間内で成果を出すことを求められるという過酷な就労環境が形成された。その結果、ストレスが原因で2008〜2009年に従業員35人が自殺し、同社はモラル・ハラスメントの疑いで捜査を受けた。大手企業がこうした捜査を受けるのは、フランスでは初めてであった。この事件をきっかけにフランス・テレコムは、リシャール新CEOを迎え、抜本的な組織改革を推し進めることとなった。


※2  http://www.bipiz.org/recherche-avancee/apres-la-crise-de-2009-orange-investit-massivement-dans-le-bien-etre-de-ses-salaries.html

2018年02月01日