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30年で4倍「シニア起業」の潜在力

 

30年間で4倍に増えた65歳以上の起業

シニアの活用の必要性が盛んに議論されている。多くの日本の企業では、60歳で定年となるが、再雇用などにより65歳まで雇用し続ける。そのため、65歳以降も働き続けること、特に希望する仕事で働き続けることは難しい。それだけでなく、60歳から65歳の従業員に対して企業は査定などもしないため、彼らはモチベーションが高い状態で働いているとはいえない。そうした状況は60歳台前半だけでなく、昇進競争で自分が負けたと思っている40代、50代にも当てはまるかもしれない。

そうしたなかで、今シニアの独立・起業が増えている。起業家に占める65歳以上の割合が、1982年に8.1%だったのが2012年には、32.4%と30年で割合が4倍となるまで増加している ※1。シニアの独立・起業の特徴を把握し、100年キャリア時代においてシニアが独立・起業しやすい社会にするにはどうすればよいかを考えたい。

 

自分の経験を生かし社会に役に立つために起業するシニア

シニアの起業の動向についてまず見ておきたい。図表1は年齢別の自営業者の業種であるが、60歳以上においては「サービス業(他に分類されないもの)」での独立・起業が最も高いのが特徴的である。それまでの職歴を活かした経営コンサルタントや営業代行などが多い。

図表1 自営業者の業種


出所:総務省「平成24年就業構造基本調査」より作成

起業家の動機について調査した結果である図表2を見ても、55歳以上で回答割合が高いのは「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」「社会の役に立つ仕事がしたかった」などである。一方、「収入を増やしたかった」と考えている人はそれほど多くない。そういう意味では、社会に貢献するなどのやりがいを重視し、自身の経験やアイデアを基に“身の丈にあった起業”を目指している方が多いといえる。著者もシニアで起業されている方に何名かお会いしたが、全ての方に共通しているのは自身の経験に裏打ちされたプロフェッショナル精神をもっていることだ。職人のように、自分のやっていることについて恥をかかないよう、丹念に仕事に取り組んでいる。そうした自身の経験に対する自信や誇りをもっていることが、モチベーションを長い期間持って働き続けることになるのだろう。

図表2 起業の動機


出所:日本政策金融公庫「シニア起業家の開業~2012年度『新規開業実態調査』」より作成

 

シニア起業の最大の壁は資金管理

シニアの独立・起業ではいろいろな課題が挙げられているが、そのなかでも特に重要な点について触れておきたい。1つは健康面である。シニアの働き方は、一般的に長時間がむしゃらに働くというよりも、適度な時間働いて余暇を楽しむ状況にある。健康である限り働き続けるが、健康を害してしまって引退する場合も見られる。生涯現役で働きたいと思っていても健康を害し引退を余儀なくされるという研究結果もある※2

それだけでなく、ほかの年齢層にも当てはまるが、よりシニアに当てはまることにやはり資金繰りの問題がある。スモールビジネスでは資金管理をどうするかは重要な課題であるが、シニアの場合は本業の仕事の経験が豊富である一方で、資金管理については大企業で勤務していると財務部門にいない限りあまり実感がないため、資金管理で困難な状況に陥ってしまい起業をあきらめてしまう場面も見られる。

 

副業から起業へのキャリアパスの整備が必要

シニアが独立・起業しやすい社会をつくるためにはどうすればよいだろうか。政策的には既に開業支援のパッケージがいくつか用意されている。今後さらに求められることとして、起業支援のサービスに関する周知を進めていくことがある。中小企業庁や国民生活金融公庫などで融資や相談サービスを提供していくだけでなく、民間企業でもシニア起業のためにサービスを提供するなど、社会には多くの企業支援ツールがある。また、ウェブサービスでもフリーランサーや起業を支援するツールがどんどん登場している。しかしこうしたサービスは、必ずしも必要な人の手に届いているわけではない。こうしたサービスの周知が必要であろう。

また、シニアになる前に独立・起業を経験できる時期をつくることも重要だ。そのためにも、会社を定年になる前から副業を通じて、フリーランサーとして活躍する経験や起業をする経験をもつべきであろう。いきなり独立・起業することが難しいとしても、本業をもちながら、小さいサイズで起業をして試してみるといった経験が必要だ。

モデル就業規則で例外を除き副業を認めるなど、副業や兼業は認められる方向に進んでいる。副業や兼業によって、個人の成長実感が高まるという調査結果もある ※3。しかし、起業に向けての経験機会としては、これだけでは十分ではない。たとえば副業・兼業で独立・起業をした場合には所得税を優遇するなど、独立・起業に向けたインセンティブをつける工夫が求められる。

 

※1  総務省「就業構造基本調査」
※2 (「中高年の就業意欲と実際の就業状況の決定要因に関する分析」『経済分析』(内閣府)No.191: pp.165-182(2016))
※3  リクルートワークス研究所 「全国就業実態パネル調査」

 

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2018年02月22日