Column

 

「転職」をとりまく4つの問題

一方で、100年キャリア時代にあるべき「転職」の姿を前提とした場合、転職をとりまく現状には見逃せない問題が存在する。

その第1が、転職をすると賃金が低下する問題である。転職によって賃金が増えたという人は、日本では22.7%にとどまり、G7とBRICSなどをあわせた13カ国平均の56.6%を大きく下回る ※1。多くの国において賃金が上昇する人が半数を超えている状況と比べ、日本だけが転職で賃金が上がらない状況にある。
転職によって賃金が下がる労働市場では、キャリアトランジションを重ねるほど、処遇は低下することになる。この状況のままでは、転職は好循環のチャンスとはならない。転職で賃金が低下する状況を変えることが、人生100年時代におけるあるべき転職を実現するための大前提といえる。

第2に、「転職者=即戦力」と考えられているにもかかわらず、メンバーシップ型の日本の組織では、転職者が必ずしも活躍できていない問題がある。長期の人間関係を重視する組織において、外部労働市場を通じて異なる組織での経験や知識を持ってやってくる転職者のソフトランディングとその後の活躍を可能にする条件は整っていない。

なかでも近年、転職者が若い世代から次第に中高年に広がりを見せるなかで、入社後の「適応」に関わる問題が浮上している。人材サービス産業協議会が2013年に行った調査では、企業が中高年採用を敬遠する理由を尋ねている。これによると、企業が中高年採用を敬遠する第一の理由は「給与の高さ」(37.6%)であるが、第二位以降は「新しい仕事を覚えるのに時間がかかるから」(27.0%)、「自分のやり方を押し通そうとするから」(23.2%)など、新しい職場への適応に関わる不安要素が続いている。「転職者=即戦力」という幻想が、我が国における転職者のソフトランディングとその後の活躍を困難にしていると考えられる。

第3に、転職の増える時代に企業が人材の能力開発を継続的に行っていけるのかという問題である。

企業は自社に資する人材を育成しているが、個人が業務を越えて自身の活動を広げていくための自己啓発活動でさえ、今日その支援の大きな主体は企業である。正社員の95.4%、正社員以外でも87.5%が勤務先の会社からの費用など補助を受けて自己啓発活動を行っている ※2。転職が一般化する社会は、こうした能力開発投資を行った企業が損をする構造を生み出すこととなりはしないだろうか。能力開発の対象となった個人が転職をしてしまい転職前の企業にリターンが望めなければ、そもそもの投資を行う意味が失われる。長期雇用を前提として設計されてきた能力開発の意義が、転職が一般化するなかで再度問われている。

第4に、日本の税・社会保障をはじめとする制度が、個人が人生のなかで何度も転職を経験することと整合的な設計となっていない問題である。たとえば、所得税制上の退職金税制はその典型である。退職金への所得控除は、勤続年数に応じて控除額が拡大する設計となっており、勤続年数が20年を超えると所得控除額が大幅に拡大し、長期勤続を税制面からサポートしている。しかし、退職金税制以外にも、日本の働き方との関わりにより転職のコストを高めている制度が存在する。社会のなかに埋め込まれた諸制度が転職というトランジションにどのような影響を与えているのかを総点検する必要がある。

 

「転職」を個人にとって最大の「機会」にするために

100年キャリア時代の就業システムが好循環を起こしていくためには、転職というキャリアトランジションが、個人のキャリアと組織のイノベーションをつなぐ「機会」として機能することが必要である。しかしながら、これまで見てきたように、現状の転職はそのような機能を果たせていない。

そこで次回以降は、本稿で取り上げてきた4つの問題
①転職が経済的損失につながる問題
②メンバーシップ型の組織で転職者の適応が難しい問題
③能力開発が転職を前提とした仕組みになっていない問題
④税・社会保障などの制度が必ずしも転職を支える設計となっていない問題
に焦点をあてる。

それぞれの問題点をより掘り下げた議論を行うとともに、その解消に向けた糸口を示し、100年キャリア時代の就業システムにおいてあるべき「転職」の姿を指し示していきたい。

 

※1:リクルートワークス研究所・BCG(2015)「求職トレンド調査2015
※2:厚生労働省(2016)「能力開発基本調査 平成28年度」

 

ご意見・ご感想はこちらから

労働政策センター

中村天江
大嶋寧子
戸田淳仁
古屋星斗(文責)

次回 「賃金ダウンありきの転職」を乗り越える  12/14公開

2017年12月14日