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地域移動とその意味 三輪哲

結婚、転勤、住宅取得など、人々はライフコースにおけるさまざまなイベントに伴い、住む地域を変えることがある。これを、地域移動と呼ぶことにしよう。「全国就業実態パネル調査2017」(リクルートワークス研究所)のデータは、日本全国の幅広い年齢層を対象としており、2016年の第1回調査データと合わせて分析することで、人々の地域移動の実態と、その意味内容、さらには余波までを統一的に検討することのできる非常に貴重なデータである。同データを用いて、2016年から2017年にかけての地域移動に迫ると、何がみえてくるだろうか。

図1は、男性の年代別にみた地域移動率である。図2はその女性版である。ここでいうブロック間移動とは、北海道・東北・南関東・北関東甲信・北陸・東海・近畿・中国・四国・九州・沖縄・海外という12カテゴリーに地域ブロックを分けたときに、そのブロックを超えた地域移動を2016年から2017年にかけておこなったことを指す。県間(ブロック内)移動とは、同一ブロック内での県をまたいだ移動のことである。そして県内移動とは、同一県内に居住している者のなかで「この1年間に引っ越しをした」と回答したことにより操作的に定義している。

地域移動の起きやすさが、年代によって異なることは一目瞭然である。男性の場合は20代後半に、女性では20代後半から30代前半にかけてピークがあり、およそ2割の人が、1年のあいだに地域移動を経験する傾向にある。その主たる内容は県内移動である。ただし男性においては、概ね半分程度は、都道府県を超えた地域移動である。40代後半以降となると、男女ともに、年間での地域移動率は5%を下回る水準になる。やはり地域移動は、壮年期までに起きやすいことがうかがえる。

図3 男性の地域移動に伴うイベント発生率

図4 女性の地域移動に伴うイベント発生率

次に、地域移動の起きやすい青年期(18歳以上29歳以下)および壮年期(30歳以上44歳以下)に絞って、移動の意味を特定してみよう。1年のあいだに地域移動を経験した人のなかで、家族形成(結婚、妊娠、出産など)、就職/転職(離職含む)、異動(同一企業内の転勤や昇進など)、住宅取得をした人の割合を縦棒グラフで示した。同時に、移動をしなかった人に比べてそれらがどれほど起きやすかったのかを相対的に示すために、オッズ比の値を折れ線グラフで表示した。図3は男性サンプルによる計算結果、図4は女性サンプルによる計算結果である。

青年期の男性では、地域移動に伴って、就職/転職をする確率が4割弱と最も高い。壮年期となると、異動をする確率がとりわけ県間移動のときに高くなることがわかる。なお、青年期の男性だと県間の地域移動に伴い家族形成イベントが生じがちで、他方で壮年期では県内の地域移動に伴い家族形成が生じがちのようだ。

女性は男性のパターンとはある程度類似するものの、細部に違いがみられる。女性で県間移動と職場内異動の同時発生確率が高いのは、男性の場合は壮年期だったが女性は青年期である。また、県内移動に伴う家族形成イベントの発生率は、女性では青年期のほうが高い。結婚のタイミングやキャリアの男女差が反映されて、男性よりも女性のほうが早めにその種の地域移動が起こりやすくなっているのだろう。

図5 地域移動によるストレスの変化

最後に、地域移動によって、ストレスに関する回答がどのように変わるかを、図5に示した。図5の横軸は身体的ストレス(「ひどく疲れている」状態の頻度)の平均値、縦軸は精神的ストレス(「ゆううつだ」とする状態の頻度)の平均値である。5件尺度の回答を、ストレスが全くない状態を0点、いつもある状態を100点となるように変換した数値を用いている。なお、図中のシンボルは2017年の値であり、線によって2016年からの変化量を表している(線の起点が2016年の値)。実線は男性サンプル、点線は女性サンプルからの計算結果である。▲は青年層(18-29歳)で、●は壮年層(30-44歳)を示す。青色は地域移動なし、橙色は県内移動者、灰色は県間移動者の結果であることを表す。

全体的にみると、点線で表示されるデータが右上に、実線のデータが左下に位置する傾向がうかがえる。要するに、女性のほうが平均的にみるとストレスが高めということだ。しかしながら、地域移動によるストレスの変化に注目すると、異なる様相が浮かびあがる。はっきりとした変化は、灰色の実線で表示されたデータにおいて観察できる。すなわち、男性の県間移動者に関して、身体的、精神的ともにストレスの著しい増加がみられるのである。単に職場や部署が変わるだけでなく、それに長距離の地域移動が付随するときには、働き盛りの男性にとってストレスフルなイベントとなりうるのかもしれない。

地域移動の量的把握にとどまらず、その内実と余波にまで迫れるところに、「全国就業実態パネル調査」データの価値がある。人々の生き方や働き方の実相を、広く深く探りうるこの貴重な調査データを資料として、政策的示唆にみちた優れた成果が生まれゆくことを期待したい。

 

三輪哲(東京大学社会科学研究所教授)

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・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

 

2017年12月14日