Column

英国におけるインターンシップは、2000年前後に米国から輸入された新しい概念だった。ところがこの5年間で急速な普及を遂げ、いまや英国は米国と並ぶインターンシップ先進国となっている。インターンシップの急速な普及の社会的背景と、それが雇用主、学生、大学にもたらした変化をレポートする。

いまや就職に不可欠なステップに
「昨今の学生の“インターンシップ”に対する執着ぶりは歴史的に例を見ません」と言うのはケンブリッジ大学キャリアセンター副所長アインスコフ氏である。英国では60年代より“プレイスメント(placement)”と呼ばれる就業体験プログラムがポリテクニック※1 において行われていたものの、米国発の“インターンシップ”は、少しずつ知名度を上げてきた比較的新しい概念に過ぎない。しかしいまや英国において、インターンシップが新卒者として採用されるために絶対不可欠なステップという。英国の『新卒者雇用企業トップ100』(タイムズ紙、2014年)は、37%もの新卒者採用枠につき、「自社にてインターンシップを行った学生のみ採用し、他の学生は選考しない」とし、新卒者雇用企業協会(Association of Graduate Recruiters、AGR)は、「インターンシップ経験が無い学生は新卒者として採用しない、と言い切る企業の割合は遂に100%に達した」(2014年、団体ホームページ)と発表するなど、数字もその新しい傾向を裏付けている。

2010年の授業料引き上げにより、卒業直後の就職先確保が最優先事項となる
2008年の経済危機前におけるインターンシップは主に、シティ(金融)セクターがトップ大学の優秀な学生を囲い込むために実施するものであった。しかし2010年、インターンシップを取り巻く英国新卒者採用市場環境を抜本的に変える出来事が起きた。イングランド全大学の授業料引き上げ である※2。英国では、政府からの奨学金で大学に通い、卒業後収入が一定レベルに達した時点から返済を開始する。すなわち、授業料の大幅引き上げは、英国の学生たちにとって人生の方向性をも変えうる一大事であった。就職先をいち早く確保し、ローン返済の見通しを立てることが、学生たちの最優先事項の一つとなったのである。

企業側も、優秀な学生を低リスク/コストで採用する方法として注目
その一方で、経済危機に続く景気後退により、各企業は低リスク・低コストの新卒者採用方法を模索していた。大企業のみならず中小企業も、インターンシップを提供することが優秀な学生を低リスク・低コストで雇用する最適な手法であると気づき、次々にインターンシップ※3 を提供し始めた※4 。また当時、新卒者採用基準として定着したエンプロイアビリティ※5 を審査することができるため、学生の能力ではなくポテンシャルを見る手法としても、ますます新卒採用の不可欠な部分となっていった。冒頭で触れたように、ほぼ全ての新卒者採用企業が、インターンシップ経験が無い学生は採用選考外とする、すなわち、「ジョブアプリケーションに、インターンシップ経験の記載がない場合は書類審査落ち」(AGR調べ、2014年ホームページ)と断言するまでになった。このような変化の中で、インターンシップ枠獲得にしのぎを削る学生数が急激に増加したことは当然の帰結である。

daigakuインターンシップが短期化し、夏期休暇に4~8週間が一般的に
さらに、「英国のインターンシップの形態が急速に変容しました」と今回調査した各大学キャリアセンター責任者たち※6 は声を揃える。経済危機以前のインターンシップは、主に大企業が行っていたこともあり、数ヵ月から1年間という長期のものも多く存在した。しかし、“インターンシップの一般化”の必要性が高まるにつれ、“プログラムの短期化”が始まったのである。英国の大学、特にトップ・中堅大学での学位取得は極めて厳しいものであり、学生たちは3年間(※英国の大多数の大学は3年制)、一瞬も学業を疎かにすることは許されない。その条件に最適な就業形態は、彼らの長い夏期休暇を利用することであった。2009年以降、企業は「2年生の夏期休暇における4~8週間の有給インターンシップ」をこぞって提供するようになった。「現在これが英国のインターンシップの平均的形態であり、今後も変わらないでしょう」とLSE※7 キャリアのディレクター、マクファゼアン氏は語る。英国ではここ5年という短期間で、“英国型インターンシップモデル”が確立し、定着してきたと言えよう。

入学直後から就活イベントに参加する英国の大学生
また、英国型モデルが確立するに従い、学生の大学生活3年間のリズムがそれを中心とする様相を呈し始めた。新卒者雇用企業は、提供するプログラムを紹介し、より優秀な学生を絞り込むためのキャンパスイベント※8 の対象を入学直後の1年生に前倒しした。学生たちは入学直後に息をつく間もなく数々のイベントに参加し、「CV(履歴書)やカバーレターを書く、ネットワーキングする、リクルーターと長期的関係を築く、キャリアカウンセリングを受ける、などあたかも就職活動をしているかのような1年を過ごしています」(オックスフォード大学ホワイトハウス博士)。2年生の新学期(9~12月)から翌年4月頃までにはインターンシップ採用活動が行われ、それを勝ち抜いた学生が夏期休暇に4~8週間のインターンシップ勤務を行う。彼らはその経験を携えて最終学年を開始し、従来と同様に就職活動を行うが、トップ大学ではインターンシップ経験のある学生の97%前後(ケンブリッジ大学)が確実に進路を決めていくという ※9。

大学のキャリアセンターも主体的にインターンシップ機会を創出
「企業も学生も変わったが、5年間で一番変わったのは大学のキャリアセンターでしょう」と言うのはエクセター大学のウォラーズ氏である。経済危機前の大学のキャリアセンターは、企業からのインターン生募集の案内を学生に伝える程度の活動に留まるところが多く、学生からも「時代錯誤だ」「一辺倒のアドバイスしかしない」「業界見識が浅い」など、評判の悪い存在であった。しかし、経済危機後の新卒者採用市場の劇的な変化を前に、各大学が元来、主体的でなかったキャリアセンターの機能と役割を根本から見直さざるを得なくなったことは想像に難くない。人員は倍増され、民間企業出身者が雇用され、オフィスやウェブサイトが一新された。しかし、その中でも注目すべき最大の変化は「キャリアセンターが主体的にインターンシップ枠を獲得し、ひいては大学独自のプログラムを創出する」ようになった点である。次稿では、その調査結果を述べる。

 


12_profile島田 歌氏
社会学博士(英国ケンブリッジ大学、2009年)
2000年慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、三菱商事株式会社入社。2003年英国 London School of Economics理学修士修了ののち、現地企業に勤めながら2009年ケンブリッジ大学博士課程修了。ヤギエウォ大学(クラクフ大学)哲学学部客員教授。スウェーデン人の夫と4歳の長女、2歳の長男とともにポーランドはワルシャワに在住、日本文化を現地のこども達に伝えるNPO法人「ちびっこワルシャワ(ちびワル)」を設立、主宰。

 

脚注
※1 実務中心の高等教育機関。30校以上存在したが、1992年に全校が大学として再編されている。
※2 授業料上限を年間3290ポンドから6000ポンド、例外的な場合には9000ポンドまでの引き上げを認めるもの。
※3 英国のインターンシップは有給であることがほとんどである。各大学キャリアセンターは概して、無給インターンシップや国定最低賃金以下の有給インターンシップの安全性に不安を認め、独自プログラムに加えることはしないという。
※4 2013-14年度には、新卒者採用企業トップ100(タイムズ紙)の5分の4により11,819枠の有給インターンシップが提供された。
※5 積極性・協調性・自己管理能力・コミュニケーション能力・創造性など、現場で発揮される能力やスキルの総称。
※6 オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、エクセター大学、ロイヤルホロウェイの5大学。
※7 London School of Economics and Political Science(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)の略。
※8 「インサイトウィーク」「オープンデイ」などと呼ばれることが多い。
※9 今回調査した各大学には、インターンシップを行った企業自体に就職する学生数・割合に関するデータは存在しなかった。キャリアセンターを通さないインターンシップに参加する学生にその報告が義務付けられていないことが、データがまとめられていない理由と考えられる。ケンブリッジ大学アインスコフ氏によると、インターンシップを成功させ、就業した企業に就職していく学生は約半数という。

2015年11月11日