SPECIAL REPORT

テクノロジーと「働く」をめぐる5つの論点
―10人の識者インタビューとWork Model 2030―

なくなる仕事、生まれる仕事、能力の獲得など5つの論点について、識者の意見をまじえ今後の行方を探る。

Akie Nakamura 中村 天江  2017.03.31 (fri)

論点2 人間だからこその仕事は何か?

AIやロボットが普及する今後、新たに生まれる仕事や、人間ならではの仕事は何かということに、非常に多くの人が関心を持っている。

たとえば、情報技術経営学者として著名なトーマス・ダベンポート氏は、AIが普及しても人が担う仕事として、「新システムを生み出す仕事」「ビジネスと技術をつなぐ仕事」「自動システムの上を行く仕事」「自動化されない仕事」「機械にできない仕事」を挙げている。「新システムを生み出す仕事」はいわずもがなで、手先の器用さが求められる仕事は自動化されにくいし、交渉やコンサルティングも人間のほうが得意だろう。経営や商品企画、ビジネスモデルの変革を促す上流工程の仕事や、高度なコンサルティング、IT業務などが増加するとの、経済産業省「新産業構造ビジョン」の試算もある。

リクルートワークス研究所では、テクノロジー全盛時代には、専門性の軸と地域の軸の2×2からなる4つの「プロフェッショナル」が求められるようにと考えている。詳細は「提案 Work Model 2030 ―Techで実現する新たな働き方―」を参照いただき、ここでは、新たな専門性の軸である「プロデューサー」と「テクノロジスト」だけご紹介したい。

AIやIoTなど今後拡大が進むICTは、重厚長大産業の技術に比べ、変化のスピードが圧倒的に速い。そこで求められる人材は、ずっと同じ仕事をし続ける専門家ではなく、自らテクノロジーを開発・活用し、さらには自身の専門性や仕事の領域も開発していけるような創造的な専門家だ。従来のスペシャリストと区別するために、このようなプロフェッショナルを「テクノロジスト」と名付けた。

このテクノロジストと両輪となるのが「プロデューサー」だ。技術の進歩が速く、様々な技術の組み合わせが求められる今後、ひとりですべてを理解することは不可能だ。重要なのは、それらに精通した社内外の「テクノロジスト」とチームを組み、技術とビジネスをつなぎ、新たなサービスを創り、生産性を高めていくことである。社内人脈や調整能力だけでなく、収益や付加価値を生み出す役割ということで、従来のジェネラリストではなく「プロデューサー」とした。

「プロデューサー」と「テクノロジスト」

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テクノロジー全盛時代に「テクノロジスト」が求められるのは、極めて自然である。より強調したいのは、「テクノロジスト」とは異なる「プロデューサー」への期待もまた同様に高まっていくということだ。

AI研究者として著名な東京大学大学院の松尾豊准教授は、Work Model 2030のコンセプトに対し、「テクノロジスト・プロデューサーと分けているのが面白い。ふつうはテクノロジーのある人、ない人と分けると思う。ただ、ない人というのは、仕事がなくなるという気がしてしまう。確かにプロデューサーというとらえ方をすると、テクノロジーや専門性がない人でも、世の中のニーズを見つけたり、アイデアを思いついたりできれば、プロデューサーということになる」と評す。

また、このように役割を明確にすることで、キャリアの転換や将来像もより明確になる。たとえば、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグ氏は、事業の拡大にともない、テクノロジストからプロデューサーになっていった。データサイエンティストのコミュニティを運営するグラフの原田博植氏は、「データサイエンスや分析の先端にいる人たちは、今後の国を引っ張る人そのものだと思う。皆さんがリーダーなのです」と述べえている。このようにテクノロジストがプロデューサーになったり、プロデューサーがテクノロジストになったりということも十分に予想される。

テクノロジストは技術を、プロデューサーはビジネスを生み出す人材だ。テクノロジストとプロデューサーは、AIやロボットの可能性を最大限に活かし、新たな仕事を生み出す役目を担っている。

論点3 新たな能力をどう身に着けるのか?

テクノロジーによってタスクが変わり、仕事の中身が変わる。そうなると、求められる能力も変わっていく。「学び」や教育訓練は、今後、より一層重要になっていくだろう。実際、イベントでも、教育関係者のテクノロジーの影響ヘの関心の高さがうかがえた。

マイクロソフトの元社長であり、STEAM(Science, Technology, Engineering, Art and Mathematics)教育の充実を唱える成毛眞氏は、「常に勉強し続けなければならない時代が来たのです。自分を奮い立たせて、無理やりにでも、科学に関していつも情報を得ようという態度を貫かなければならない」と言い切る。

雇われる力(エンプロイアビリティ)の研究者である青山学院大学の山本寛教授も、「これからの変化のためには、一人ひとりがずっと学び続けなければいけない」と言う。山本教授は、「テクノロジーの進化によって、専門性を身につけるのに長年かかってきたのが短くなる。専門性を身につけるための学習は、場所と時間を選ばなくなり、睡眠学習なども可能になる」と予想する。

山本教授が述べるように、今後はテクノロジーによって学習の手法そのものが進化していくだろう。個人の能力や志向にあった学習プログラムを、スピーディに学べるようになることは、テクノロジーがもたらす大きな福音だ。

職業能力を獲得するには、自身で行う学習に加えて、仕事経験を通じて身につくスキルや知識も非常に重要だ。Work Model 2030では、企業に「雇われて働く」に加えて、フリーランスや起業など「雇われない働き方」もまた重要だと位置づけている(参考:「提案 Work Model 2030 ―Techで実現する新たな働き方―」)。働き方が2ステージになれば、副業・複業を通じた「越境学習」も行いやすくなる。

Techで実現する新たな働き方

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