SPECIAL REPORT

テクノロジーと「働く」をめぐる5つの論点
―10人の識者インタビューとWork Model 2030―

なくなる仕事、生まれる仕事、能力の獲得など5つの論点について、識者の意見をまじえ今後の行方を探る。

Akie Nakamura 中村 天江  2017.03.31 (fri)

はじめに

AIやロボット、第4次産業革命など、テクノロジーが「働く」に与える影響について、大きな関心が集まっている。テクノロジーと「働く」の未来に関しては、大きな論点がいくつもあり、それぞれに多様な見解がある。たとえば下記だ。

テクノロジーと「働く」に関する論点

  1. テクノロジーによって雇用は奪われるのか?
  2. 人間だからこその仕事は何か?
  3. 新たな能力をどう身につけるのか?
  4. 個人はキャリアをいかに構築していくのか?
  5. テクノロジーを活かすための変化をどう起こすのか?

そこで、リクルートワークス研究所では、「Work Model 2030 ―テクノロジーが日本の『働く』を変革する」を取りまとめ、2016年11月に発表した。さらに、雇用やテクノロジーに見識のある10人の方へのインタビューや、AI研究の世界的権威であるトム・ミッチェル氏やシリコンバレー在住の経営コンサルタントである海部美知氏を招いて、2017年2月28日にイベントを行った。イベントでは、参加者の皆さんにアンケートでご質問やご意見もいただいた。テクノロジーと「働く」をめぐる5つの論点に対し、現在、どのような意見があるのか、一連のプロジェクト活動の総集編として、ご紹介しておきたい。

論点1 テクノロジーによって雇用は奪われるのか?

この論点ほど、繰り返し話題になり、人々の不安をあおるものはない。しかし、世界で初めて機械学習の学部を設立したカーネギーメロン大学教授のトム・ミッチェル氏は、「失われるのはタスクであり、仕事ではない」と断言する(イベントレポート①)。日本でも、ヤフーのチーフストラテジーオフィサー安宅和人氏が、インタビューの開口一番、「仕事はなくならない。幅広くいろいろな業務が自動化されるが、それと仕事がまるごとなくなることが混同されている」と述べる。

実際に議論を追うと、海外でも「何十パーセントの雇用が奪われる」という意見は当初の勢いを失い、「何十パーセントの仕事がテクノロジーの影響を受ける」に論調が変わってきている。「45%の仕事が自動化の影響を受けるが、なくなる仕事は5%に満たない」というマッキンゼーのレポートもある(参考:「テクノロジーとともに進化するWork Model」)。

にもかかわらず、「仕事が奪われる」という不安をぬぐえないのはなぜだろう。その原因はおそらくこうだ。テクノロジーによって多くの仕事でタスクの組み換えや、効率化が起こる。その変化についていけるかに対する自信は、スキルやこれまでの経験、性格などによって、かなり個人差がある。今後は、自動運転が普及すればタクシードライバーが、AIが高度化すればコールセンターで必要な人員が減少する。失業が、ある会社の仕事がなくなった、という形ではなく、特定の業態全体で起こるため、「A社がつぶれたらB社へ」という転職が通用せず、異なる職種に転職することを余儀なくされる。一般的に異職種へのキャリアチェンジは、同じ職種での転職よりも難しいため、不安がぬぐえないのだろう。テクノロジーの普及にともない、データサイエンティストなど、新たな仕事も数多く生まれるが、誰もが高度な専門知識を必要とする仕事に就くことができるわけではないことが背景にある。

だが、現実には、失業リスクに直面する前に、タスクの組み換えによる仕事や役割の変化に直面する人の方が圧倒的に多い。テクノロジーによって失われる仕事を心配する前に、テクノロジーとどう共存し、ビジネスやキャリアに活かし、新しい能力を獲得していくかのほうが、遥かに喫緊の課題だろう。では、テクノロジーによって生まれる仕事は何だろうか?それについては、論点2で見てみよう。