COLUMN No.4

未来のキャリアの可視化
<ライフシミュレーション>が個人を自由にする

今後、ライフシミュレーションにより、将来のキャリアを楽しく考えられるようになる。
AR等により学習スピードも劇的にあがる。個人を自由にするテクノロジーとは何か。

Ryuichiro Nakao 中尾 隆一郎  2017.02.16 (thu)

テクノロジーの進化がもたらす シミュレーションの進化

今後、様々なデータの蓄積、計算速度の向上に加えAIの進化により、シミュレーションも長足の進化を遂げることが想像できる。進化の方向は2つ。ひとつはキャリアにマネーの情報を加えてシミュレーションができるライフシミュレーションへの進化、もうひとつは新しいスキル取得時間の短縮化という進化だ。先ほど紹介した事例はキャリアにマネー情報を加えることで態度変容が促された事例だ。ただし、家計の収支に影響を及ぼすものは、仕事だけではない。収入から考えると、将来の年金はとても重要。金融資産や不動産資産などからの収入も影響が大きい。親からの補助や遺産なども考えられる。支出から考えると、どこに住むのかという住宅の相場情報、子供たちの教育にかかる費用情報、子育てのための保育園や幼稚園、介護関連にかかる費用情報、生命保険などの保障情報や、家族の病気にかかる費用なども影響がある。

仕事を選ぶとき、転職を考えるときに加えて、結婚・出産するときに「退職するのか転職するのか」考えるとき、引っ越しするとき、子供の学校を選ぶときなど、様々なタイミングでこのライフシミュレーションが活躍する可能性が高い。現在のところ、これらのデータは、散在していたり、整備されていなかったり、個人情報の取り扱いなど、データの活用に制限があったりと各種制約がある。また変数が多いので、技術的にシミュレーションが難しい部分も残っている。しかし、今後の各種テクノロジーの進化、官民による利用ルールの整備などにより、これらの制約は解消されるはずだ。

テクノロジーの進化は、専門家になるためのスキル取得時間を大幅に短縮する。現在でもその兆しがある。適性テストの受検時間は、マークシートで受検していた時代から、デジタルで受検する時代になって大幅に短縮した。これは、受検者の回答の正誤に合わせて設問を変化させるようにテクノロジーが進歩したからだ。加えて、現在では脳科学や行動科学などの知見を活かして、最小限の時間でスキル取得できる技術が、受験勉強や語学学習などの分野で生まれてきている。スキル取得のコンテンツもデジタル化されている。世界中の様々なノウハウを映像で入手することも可能。飲食の分野でも、寿司職人の修業期間や、ラーメン店の開業までの期間などについて、従来の数年ベースから、数カ月、数週間という劇的な変化が起きつつある。現状、まだまだその到達レベルが低いという意見もあるが、様々な分野で専門家になるための時間が短くなることが期待される。

私たちの健康寿命は延び、働ける期間が長くなる。 そしてテクノロジーの進化により、スキル取得の時間が劇的に短くなる。すると、何度も様々な専門家になれる可能性が高まる。 ひとつのコアキャリアを中心に周辺の専門性を高めることもできる。また、今までのキャリアを捨て、全く新しい専門家になることもできる。スキル取得の時間が劇的に短縮することで、何度でもやり直しができる世界になるのだ。 その際に有効なのが、ライフシミュレーションだ。これからの人生をどのように過ごすのか楽しくシミュレーションでき、それが短時間に実現できる時代が来る。これをいち早く実現するには、官民が協力して、関連データを使えるようにルールを整備し、誰でも簡単に各種シミュレーションができる世の中にしていく必要がある。

中尾 隆一郎

Ryuichiro Nakao

中尾 隆一郎

(株)リクルートホールディングス HR研究機構 企画統括室長

1989年リクルート入社、通信事業部門でシステム開発や業務改善に従事。新規事業執行役員を経て、13年リクルートテクノロジーズ代表取締役社長。16年より現職。工学修士。

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