COLUMN No.3

仕事相手はAI。働き方をどう変える?
―生産性向上の鍵を握るAIを使う人―

AIが同僚や仕事相手になる未来。AIを創る人ではなく、使う人に注目し、
今後、仕事の生産性をいかに高め、キャリアをどう築いていくかについて考える。

Ko Ishiyama 石山 洸  2017.02.09 (thu)

また、データサイエンティストであった従業員も同ツールを活用することで働き方に大きな変化が生じた。従来、データのクリーニングや予測モデルの選定、パラメーターチューニングに必要としていた時間が全作業時間の80%もかかり、新しい問題を解くための問題の定式化に割ける時間は20%しかなかった。この時間の構成比が、DataRobotを活用することで、前者に20%、後者に80%の時間をかけられるように逆転し、かつ、実際に一定の時間内に作成できる予測モデルの数は5倍程度に上昇した。その結果、残業が最も多かったデータサイエンティストのあるメンバーは、チームの中でも一番に早く帰れるようになった。それだけでなく、新しい問題を吸い上げるためにさまざまな事業部の人間と議論する時間が増加し、業務推進上のより本質的な課題を見つけ解決することに注力できるようになった。

このように、データサイエンティストの現場におけるDataRobotの導入は、

  1. データサイエンティストの供給不足である労働市場のギャップ解消
  2. 非データサイエンティストでもデータサイエンティストになれるという雇用機会の向上
  3. 非データサイエンティストとデータサイエンティストの両者にとっての生産性の向上
  4. データサイエンティストにとっての新しい価値を創造するクリエイティブな時間の増加
  5. データサイエンティストのコミュニケーション総量の増加

という5つのポジティブな効果が、AIによってもたらされる結果となった。

使う人が増えることにより生産性が向上

この事例のポイントは、AIを活用するためのインフラを創る人が使う人の視点にたってAIを活用できるアプリケーションを創り、それによってAIを使える人が多く増えている点だ。これはAIを創る人だけでなく使う人の働き方を劇的に変化させる可能性を秘めている。Recruit Institute of TechnologyのアドバイザーであるAlon Halevy氏は以下の説明をしている。

「世界に2つの企業があったとしよう。A社は一部の研究者がAIの研究開発に従事しており、1年間に10個のAIを開発しているとする。B社は誰でもAIが開発可能なインフラを整備しており、全従業員がAIの開発に従事できるため、1年間に100個のAIを開発することができる。このとき、どちらの企業の生産性が高いであろうか」

もちろん答えはB社である。これは企業を例にした話ではあるが、当然、社会全体で見た場合もいち早くBの体制へと変化していくことが重要だ。データサイエンティストの事例では、DataRobot社がインフラを整備し、非データサイエンティストがそのインフラを活用することで飛躍的な生産性向上を実現した。

このようにインフラを創る人、使う人の役割がうまく機能した場合に社会はAIの活用を成功へと導く。つまり、AIの研究者は技術を独占するのではなく、有償・無償のオプションをうまく使い分けながら、社会インフラとして技術をオープンに提供していくことで、マクロ全体のパイの広がりやAI技術によって享受される所得の格差是正を実現することができる。現状では、AIを創る人にばかりフォーカスがあたり、使う人の役割が見落としがちである。我々は働き方やキャリアの観点からAIを使える人を増やす方策を考えなくてはいけない時代に来ている。

石山 洸

Ko Ishiyama

石山 洸

Recruit Institute of Technology 推進室 室長

2006年リクルート入社。デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引し、新規事業を3年でバイアウト。IT専門の執行役員やメディアテクノロジーラボ責任者を経て現職。

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