COLUMN No.1
テクノロジーの進化は目覚ましく、今後、個人の寿命は延び、企業の寿命は短くなる。
テクノロジーによる恩恵を受け、キャリアを築いていくための課題をまとめた。
Akihito Toda 戸田 淳仁 2017.01.26 (thu)
時代の変化に対応できない今の働き方
リクルートワークス研究所が行った調査からデータをいくつか紹介したい。「5カ国マネジャー調査」では、各国において自律的なキャリア形成が半数を超えるのに対し、日本は組織依存的なキャリア形成が中心となっている。「全国就業実態パネル調査」(2016年)によると、働き方の質を決める各種指標では「学習」に関するスコアが傑出して低い。また、「Global Career Survey」によると、キャリアチェンジによって賃金が下がる可能性は日本において諸外国よりも高い。
キャリア自律は、会社員以外の選択肢が少ないために、キャリアについて考える機会が少なく、また終身雇用を前提とした雇用システムのもとでは、職務ではなく職能で評価され、異動や出向など会社の事情に応えることが求められる中では、なかなか育ちにくい。学習は、職務に直結した内容だけでなく、視野を広げるものもある。長時間労働や、仕事を早く切り上げて学校に行くことを良しとしない職場風土のもとでは、自己学習もおぼつかない。キャリアトランジションは、他社ではスキルがきちんと評価されないことに起因しており、また求められるスキルが異なっている状況にどう対応するかが課題となっている。
ソフトウェアエンジニアなど一部の職種では「キャリアの自律」「継続的なスキル向上」「円滑なキャリアトランジション」が実現している世界もある。しかし日本では一部の職種にとどまっているのが現状だ。ソフトウェアエンジニアが日本の典型的なキャリアを作るような勢いでいかないと「職業寿命50年、企業寿命25年」の世界でテクノロジーの「光」を増やしていくことができないだろう。
テクノロジーの使い方次第で我々の働き方は変わる
実はこうした課題は、これまでも言われてきたが解決することが難しく、未解決のままだ。しかしテクノロジーをうまく活用することにより、この課題をようやく解決できるのではないか。たとえば、モバイルやクラウドに代表されるように、場所の制約を受けずに仕事を行うことができ、リモートワークが広がる。このことによって多様な事情を抱えた人が不自由なく働くことができる。さらに、AIを活用することにより、より正確な予測が可能となり、正確な意思決定を容易に行い、仕事の生産性向上が期待される。また人間だからこそできる仕事により多くの時間を使うことができる。VRやAIをスキルトレーニングの様々な分野で活用することにより、今まで以上に素早く技術習得ができ、自分の持っていないスキルを簡単に身につけ、転職が容易になる社会が実現するかもしれない。
こうした動きはすでに現実となっている部分もある。テクノロジーの進化により、より安価に活用することができ、誰もがテクノロジーの恩恵を受けることができるようになる。また、ネットワークの進展だけでなく、ロボットやIoT(モノのインターネット)を支えるセンサーなどが活用されるようになり、データの蓄積が爆発的に進み、テクノロジーがもたらす「光」がさらに増える世界が見えている。
我々がテクノロジーとどのように向き合い、どう活用してくかによって仕事や働き方を変革することができる。雇用喪失やキャリア断絶といったテクノロジーがもたらす「闇」をできるだけ小さくし、一人ひとりが生き生きと生活できる社会ができるのではないか。テクノロジーと「働く」に関するいくつかの切り口で、この問いに向き合ってみたいと思う。
COLUMN No.1
職業寿命50年・企業25年のキャリアづくり
戸田 淳仁 2017.01.26 (thu)
COLUMN No.2
米国にみるフリーランスが生き生き働く条件
海部 美知 2017.02.02 (thu)
COLUMN No.3
仕事相手はAI。働き方をどう変える?
石山 洸 2017.02.09 (thu)
COLUMN No.4
未来のキャリアの可視化が個人を自由にする
中尾 隆一郎 2017.02.16 (thu)
COLUMN No.5
Work Model 2030 ―Tech時代の働き方―
久米 功一 2017.02.23 (thu)
COLUMN No.6
個人と企業の原動力となるWork Model 2030
久米 功一 2017.03.02 (thu)
Akihito Toda
戸田 淳仁
リクルートワークス研究所 主任研究員・主任アナリスト
2008年より現研究所。ITエンジニアのキャリアやIT業界の動向を研究対象とし、2014年「IT業界の突出人材を生むメカニズム」をまとめる。専門は計量経済学(博士)。
報告書「Work Model 2030」のダウンロードはこちらから
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