EVENT REPORT No.3

Technologyがフリーランサーとして働く機会を増加する

パネルディスカッション『Work Model 2030 変革への課題と方策』Part 2
シリコンバレーを中心として、テクノロジーがフリーランサーとして働く機会を増やしている。雇用されない働き方が日本の社会にどのような影響を与えるのか?

Kunio Ikari 碇 邦生  2017.03.27 (mon)

Q. 会場からのご質問

フリーランサーや複業が日本よりも普及している米国では、どのような背景があって発展してきたのでしょうか?

A. 海部氏による回答

日本では雇用とフリーランスは対立した働き方でとらえられるのかもしれませんが、米国では対立構造では考えられていないと思います。雇用とフリーランスは一続きのグラデーションになっているという印象があります。雇用とフリーランスの間に、いくつものレベルがあるのです。そのため、ひとりのキャリアの中で雇用されたりフリーランサーとして働いたりと行ったり来たりすることも多いです。

当然、米国でも雇用されている状態がよいという認識はありますし、雇用されている人が絶対数としては多いです。ですが、解雇されることもあれば、上司と喧嘩をして辞めてしまう人も多いです。そういったときに、転職だけではなく、フリーランスも選択肢として当たり前に考えられてきているというのが米国の現状なのだと思います。

また、複業に関しては、日本ではなぜ複業が禁止されているのかという背景を知る必要があると考えています。理由のひとつとしては情報漏洩への対策があるでしょう。また、もう1つの理由として、従業員がどれくらいの仕事をしているのかという管理方法が時間しかなかったということがあります。ここに、複業やフリーランスを許可してしまうと、評価システムや情報漏洩に対して、新しいシステムを作っていかなくてはなりません。

米国ではどうしているかというと、基本的には会社ごとに違うのですが、複業が本業に害を及ぼしていない状態、要するにちゃんと本業やっていますよという状態を成果で評価するように雇用関係が考えられています。そのため、複業に関してはあまりうるさくありません。決まった成果を上げればそれで問題ないとしている会社が多いということはいえると思います。

A. ミッチェル氏による回答

フリーランサーとして安心して働けるようにならなくては、なかなか普及していくことは困難です。そのために、セーフティネットは重要になります。それでは、フリーランサーにとって、何がセーフティネットになるのでしょう?

たとえば、あるUberのドライバーと話をしたときのことです。彼は、フロリダのマイアミからテキサスのオースティンにやってきたばかりだという話でした。友人にオースティンは住みやすい街だと進められて移住してくるとき、彼はUberがあるので収入に対する不安がなかったというのです。Uberがあれば、どこでも仕事を始められるのだと。この場合、彼にとってのセーフティネットはUberになります。

変化を起こすために安心感は重要です。安心感があるからこそ、失敗してもやり直せると挑戦し、次の段階へと移行していくことができるのです。そのための、挑戦をしたときにやり直せると安心感を与えるための環境作りをしていくことが重要となるでしょう。

イベントのまとめ

大久保

イベントを通して、テクノロジーによって新たなワークモデルが実現していくにはどうすべきか考えてきました。その中で、新たなビジネスを生み出すプロデューサーがテクノロジーを活用して変革を行い、かつ、テクノロジストを育成しているという事例を最後にご紹介します。

神奈川県の鶴巻温泉にテクノロジーを活用して改革を行った旅館があります。この旅館では元エンジニアの跡継ぎが、ITやAIを活用して旅館の在り方を大きく変えました。マネジメントソフトや、顧客管理システム、営業支援システムを導入することで仕事を効率化し、AIを活用して部屋の割り当てを行うシステムなどを導入しました。1万3000円だった客単価を3万5000円にまで引き上げ、従業員の働き方も週休3日にしました。これらの改革の結果、売り上げを倍近く上げることに成功しました。30%を超えていた離職率も1桁にまで下げ、社員の人数を変えずに給与も38%以上上げることができました。パートは人数が減ったのですが、経営状況は大きく上向きになったのです。

この跡継ぎはまさしくプロデューサーであり、従業員の研修を充実させることで専門性を上げテクノロジストを育成しています。一見すると、パートの職が奪われているようにも思えるかもしれませんが、温泉街全体の視点で考えれば、旅館業界は人手不足であり、マーケットに人材を流出したともいえます。

ワークモデルの変化は、当事者である社員一人ひとりにとっては憂鬱であったと思われます。ですが、このような変化は技術と雇用と経営戦略が密接に関わり合うことで進んでいき、大きなチャンスとなるのです。どうやったらこの変化を、うまい変化にできるのかということを考え続けていきたいと思っていますし、またその議論に今日来てくださった皆さんに是非ご参加いただきたいなと思います。

碇 邦生

Kunio Ikari

碇 邦生

リクルートワークス研究所 研究員

採用・選抜に関するHR Techやビジネススキルや研修効果の測定など、産業組織心理学の視点から人事へのテクノロジーの活用を研究テーマとする。2015年より現職。

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