EVENT REPORT No.1

人工知能(AI)が生み出す新たな働き方

AIによって、私たちの働き方はどのように変化するのだろうか?
機械学習の学部を世界で初めて設立した、AI研究の世界的権威が未来の「働く」について語る。(基調講演録)

Kunio Ikari 碇 邦生  2017.03.16 (thu)

AIはタスクを自動化し、人の可能性を強化する

直近15年で、ITが社会に与えた影響を考えると、テクノロジーによる変化が如何に劇的で、急速に起こるのかわかるだろう。2002年には、iPhoneはおろか、SkypeもGPSによるカーナビゲーション・システムも世の中には存在していなかったのだ。そのことをふまえて考えると、AIで今後15年、社会に訪れる変化の大きさは計り知れない。具体例を挙げると、自動運転の技術は、タクシーやバスのドライバーを不要にするかもしれない。視覚や聴覚などの人間が持つ身体機能を超えるセンサー技術(Super human vision、 hearing、 smelling & sensing)は、警備員や放射線技師の仕事の在り方を変化させるだろう。

AIが仕事に及ぼす影響を整理すると、仕事そのものを奪うのではなく、正しくはタスクの自動化ということができる。仕事の多くは複数のタスクの組み合わせによって構成される。もし、仕事のすべてがタスクとして自動化できるのならば、その仕事はAIによって代替することができる。しかし、現実には、タスクとして自動化することができない部分が数多くあり、AIでは代替できない仕事として残ることになる。この視点で考えると、仕事に含まれる数多くのタスクが自動化されることになり、同じ質の仕事をこなすためのコストは劇的に下がることになる。また、同じコストをかけることで、より高い質の仕事をこなすことも可能だ。つまり、AIが人々の能力を強化し、生産性が飛躍的に高まることになる。

しかし、テクノロジーによって生産性が高まったとしても、それによって貧富の格差が広がるのであれば、それは望ましい変化とはいえないだろう。残念ながら、米国は先進諸国の中でも群を抜いて貧富の格差が大きい。テクノロジーを使いこなすことのできる人々は、今後、より大きな成功を収め、高収入を得ることができるだろう。逆に、テクノロジーを使いこなすことが困難な人々は、低所得層となってしまう。

このようにテクノロジーによって広がるであろう格差に対して、有効な解決策となり得るのもまたテクノロジーだ。AIは学習のスピードを飛躍的に向上させ、IT技術の発展によって、低コストでいつでもどこでも学ぶことが可能になる。現在でも、無料のオンライン教育サービスであるKhan Academy は、全世界の人々に良質な学びの機会を提供している。ジャストインタイムの教育機会を活かすことで、誰でもテクノロジーを学ぶことができるし、チャンスをつかむことができるようになる。

また、仕事を得ることに対してもAIとITは大きな武器となる。AIとITによって、雇用されるか、フリーランスとして自由な働き方をとるのか、人々は低いリスクで選択肢を持つことができるようになる。また、自分の能力やスキル、経験を活かすことのできる、精度の高いジョブ・マッチングも、AIの活用によって可能になる。

企業や政府は、このようなAIをはじめとしたテクノロジーの進化によって何が起こるのかを理解し、AIによるインパクトを活かし、効果を最大化するように対策を打っていくことが求められる。

碇 邦生

Kunio Ikari

碇 邦生

リクルートワークス研究所 研究員

採用・選抜に関するHR Techやビジネススキルや研修効果の測定など、産業組織心理学の視点から人事へのテクノロジーの活用を研究テーマとする。2015年より現職。

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