Work Model 2030におけるキャリアコンセプトである、プロデューサーとテクノロジストとは、どういう人たちなのか。それぞれがテクノロジーとどう関わるのか。以下で見てみよう。

プロデューサー

複数の専門領域に詳しく、テクノロジストらを活かして、新しい価値を生み出す人である。自身のアイデアをコンセプトにするために、GlobalでもLocalでも活躍する。それが、経済全体の活性化と所得増加をもたらす。 雇用ステージでは、事業目的のために、資金調達、事業投資、人材投資など、組織能力を最大化して、経営資源を効率的に活用し、その成果を組織知化する。一方、フリーランス/起業ステージでは、組織にはない価値をもたらすコンセプター(コンセプト創出者)となる。 現状では、組織内外の人の組み合わせでイノベーションを起こそうとしても、組織の重層的な意思決定や雇用契約に基づく強い拘束等により、プロデューサーの創造性が十分に発揮されていない。これを解き放つのがテクノロジーである。情報通信技術(ICT)が担保する自由で創発性を促す働き方(VRやAIを組み込んだ遠隔会議、SNSによるアイデア共有など)で組織内外を行き来したり、ツール(プログラミング言語、3D-CADなどの共通言語)を用いたりして、クリエイション活動が支えられる。いつでもどこでも誰とでも、新しいコンセプトを生み出せるようになる。

テクノロジスト

特定の専門性を狭く深く持った高度な専門職であり、テクノロジーを生み出し活用して、仕事の付加価値を高める人である。ソフトウェアを開発するイノベーター、定型業務を自動化して非定型業務を執行する事務職、テクノロジーを自在に駆使する現業職、心の機微に優しく触れる対人サービス職等、高度に専門化した知識・スキルを有する。 雇用ステージでは、テクノロジーを駆使して、組織内の業務を標準化し、水平展開して、組織活動の効率性向上に貢献する。一方、フリーランス/起業ステージでは、属人的かつ汎用的な専門性によって、組織から切り出された仕事を請け負って、シェアリングエコノミー、オンデマンドエコノミーを牽引する。 ルーティンワーク、雑多な業務やクリエイティブもどきの仕事に忙殺されている現状に対して、AI・ビッグデータによってこれらの仕事を自動化することで、判断業務に専心して、高度な判断の経験値を積むことができるようになる。テクノロジーそのものや補完的な職務の開発が、付加価値のより高い仕事を生み、現場の非言語情報をデジタル化することで、現場の生産性をさらに高められるだろう。

Work Model 2030のプロフェッショナル(テクノロジーを活かす働き方)

フリーランス/起業という働き方

Work Model 2030は、4つのプロフェッショナルの領域を自由に行き来して極める働き方として、雇用だけでなく、フリーランス/起業を強調している。これが意味するところは何か。 仕事の付加価値の源泉は、専門性と地域性の組み合わせにあるが、その選択に際しては、自らの競争優位性を相対化したり、組み替えたりする必要が出てくる。その内省機会となり、転換点となるのが、フリーランス/起業のステージである。 たとえば、将来の起業を見据えた場合、会社との固定的な雇用契約関係にとらわれないフリーランサーの立場は、起業に必要な知見や人脈の獲得に有利に働くだろう。高度な専門職型の副業の機会が増えれば、転職を余儀なくされた際のセーフティネットとしても機能するだろう。また、テクノロジーを活用して、複数の仕事と働き手を束ねることで、スモールビジネスに発展することもありうる。これらは、「雇われない働き方」に、多様なキャリアの道が開かれることを意味している。

テクノロジーとワークモデルが生み出す相乗効果

テクノロジーによって強化された働き方が実現して、プロデューサーやテクノロジストが活躍する世界では、個人の所得確保・キャリア継続と、企業の収益力向上・生産性改善を同時に達成しうる。 グローバル化などの影響によって、労働生産性の上昇ほどには、実質賃金が伸びていない現状に対して、テクノロジーの活用と分配の見直しは、その突破口となるだろう。 テクノロジーの進化が、ワークモデルを進化させる。そのワークモデルの進化がさらなるテクノロジーの進化をもたらして、個人の所得増加と企業の生産性向上を連動させていく。Work Model 2030は、テクノロジーとワークモデルとの相乗効果を誰もが享受できる世界を目指している。

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Koichi Kume

久米 功一

リクルートワークス研究所
主任研究員・主任アナリスト

機械メーカー、官庁等を経て、2013年より現職。専門は労働経済学(博士)。(独)経済産業研究所や科学技術振興機構社会技術研究開発センターの研究委員等を務める。

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