はじめに

ここまで見てきた萌芽的な事例(第3回第4回)は、テクノロジーの活用によって、私たちの働き方を変革できる可能性を示唆していた。テクノロジーによって働き方を強化できれば、個人の所得増加やキャリア継続が可能になる。それが、消費者層の維持・拡大、ひいては、企業の収益増加と生産性向上をもたらす。こう見れば、テクノロジーによる働き方の変革は、個人と企業の双方にとっての必然的な帰結といえる。

ならば、次に問うべきは、その方向性だ。これからの働き方は、テクノロジーとともにどう進化していくのか。その一つの提案が「Work Model 2030」である。

Work Modelの全体像―4プロフェッショナル×2ステージ

Work Model 2030は、テクノロジーの活用によって実現される未来の働き方のモデルである。このワークモデルは、4タイプのプロフェッショナルと2つのステージから構成される。

Work Model 2030

4つのプロフェッショナルとは、何を強みとして、どこで稼ぐのか、つまり、専門性開発と専門性活用、Global型とLocal型、これらの組み合わせからなる。このいずれかを極めることが、テクノロジーを体現化した、その人ならではの仕事の付加価値を高めることにつながる。専門性活用型人材をプロデューサー、専門性開発型人材をテクノロジストと呼ぶ。

2つのステージは、雇用されているか否かで分けられる。雇用ステージの個人は、組織能力を高めることで、価値創造に貢献する。組織に蓄積された知識は、組織文化となって、個人を超えた組織の競争優位をもたらす。一方、フリーランス/起業ステージの個人は、組織にはできない、その人なりの流儀や新しい知によって、組織変革することが期待される。

従来のワークモデルでは、ある企業に就職して、その企業の中でのキャリアのはしごを上がるキャリアパターンが想定されていた。しかし、これからは、キャリアのはしご自体が変化し、もはや企業に閉じたものではなくなる。私たちは、テクノロジーを活用しながら、キャリアパターンそのものを主体的に作り出さなければならなくなった。4つのプロフェッショナルと2つのステージは、その動的なプロセスの場を示している。

ここで、なぜWork Model 2030は4プロフェッショナル×2ステージの構造を持つのか。その背景を説明しよう。

何を強みとするか―専門性を活用/開発する

テクノロジーが進んだ社会では、タスクの一部を機械化して、人は人にしかできない仕事の価値を高める。人やテクノロジーの持つ専門性を組み合わせて、最大限に活用したり、人がテクノロジーに働きかけて、個別の専門領域を深く掘り下げたりすることが大切となる。テクノロジーと人との協働において、私たち一人ひとりが、専門性の活用と開発のどちらを強みとするのかを選択する時が来ている。

どこで稼ぐか―Global/Local

テクノロジーの発達によって、国・企業・業態・タスク、あらゆる境界が曖昧になっている。普遍的な価値を持つものを生み出せれば、これらの境界を乗り越えて、あらゆる世界で貢献できる。同時に、対人サービスのような人間同士の個別の接点で価値を生む仕事の価値も高まる。どこにいる誰に、どのような代替不可能な価値を提供したいのかが問われている。

どう働くか―雇われる/雇われない

現在の私たちの多くは、企業と雇用契約を結び、企業が所有する資源(生産設備や店舗)を使って製品・サービスを提供している。しかし、今や、私たちはテクノロジーによってエンパワーされつつあり、どこでも誰とでも働くことができる。個としての強みを発揮できるようになれば、会社に「雇われない働き方」にも自然と目が向くだろう。そうすることで、個の可能性を拓いて、よりバラエティに富んだ人生を手に入れられるからだ。

テクノロジーの時代に、私たちが「何を強みとして、どこで、どう働くか」を考えることで、ワークモデルの方向性も自ずと見えてくる。それが、テクノロジーの進化によってリスクを解消し、テクノロジーとともに生き生きと働くためのモデル、Work Model 2030である。

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