統計が物申す逼迫する大卒労働市場

「学校基本調査」

学校教育行政上の基礎資料を得ることを目的とした調査。全国の各種学校に対して、学校数、在学者数、教職員数、卒業後の進路状況などを全数調査で把握している。調査開始年は1948年。

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今回は文部科学省「学校基本調査」によって、多くの企業で採用戦略の中核となる大卒労働市場の現況を概観してみたい。同調査の大学卒業者数の動向をみると、大学進学率の上昇から、2019年度には57万3000人と緩やかに増加している。
このように大卒者数は安定した推移を続けているが、学部別に卒業者数を確認すると、その構成にはいくつかの変化が認められる。
まず、「社会科学」や「人文科学」、「工学」など、これまで大宗を占めてきた学部の多くで卒業者数が減少傾向にあることがわかる。一方で、大きく増加している学部もある。たとえば「保健」系の学部は2000年度から2019年度にかけて2.6万人から6.4万人にまで増えた。さらに、「そのほか」の学部も伸びが著しい。その内訳をみると、国際関係の関連学科、人間科学や健康科学、スポーツ科学などの人間関係科学、心理学や社会学関係の学科などの専攻がある。こうした学部や学科が新設されたりすることで、学生の数が増えているものと考えられる。
大卒者の就職率の動向をみると、2019年度には78.0%まで上昇している。2000年代後半の景気拡張期のピークが69.9%であったことから、足元では近年に類をみないほどの高水準で推移している。さらに、国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口」によると、22歳人口は2030年に110.9万人、2040年に97.8万人まで減ることが予想されている。新卒マーケットが本当に逼迫するのはむしろこれからだと覚悟したほうがいい。
文系学部の入試で数学が必修化されたり、情報系の学びがより広範に行われるようになるなど、従来の文系・理系の区別に基づいた採用はますます難しくなっている。単に工学系の人材が何人ほしいというレベルの設計では採用戦略は行き詰まってしまうだろう。人事は学生がどこで何を学んでいるのかをより深く理解して、人材のポートフォリオを組む必要性が生じているのである。若手労働者の争奪戦が起こる未来に向けて、大学で行われている多様な学びを理解したうえで、時代に即した採用戦略を組み立てたいものだ。

Text=坂本貴志