人事プロフェッショナルへの道人事制度のグローバル化とは

有識者、実務家による、人事プロフェッショナルを目指すすべての人向けの特別講義。Lesson3では、事業のグローバル展開を支える人事制度をどのように構築するのかを学ぶ。

規模の大小を問わず、多くの日本企業がなんらかの形で海外でもビジネスを展開する現代、「人事制度をグローバル化したい」というニーズが急速に高まっている。現地法人(現法)の従業員の賃金や昇格のルールを決め、自社の人材レベルを知り、さらには全世界の優秀人材の分布を可視化したい。人事制度のグローバル化が急がれる背景にはこうした事情がある。
「気持ちはわかりますが、どの企業にも適応できる"正解"のグローバル人事制度などありません。だからこそ、人事がまずすべきは、自分の目で現地を確認することで、自社のビジネスのグローバル化が今どのような状態であるかを知ることです」と説くのは、カゴメの有沢正人氏だ。有沢氏はHOYA、AIU保険を経てカゴメに入社。同社のグローバル化を支える人事の仕組み構築を牽引している。

事業のグローバル化の段階を定める

「カゴメを含む多くの日本企業のグローバル化の現状は、各国現法がそれぞれローカル最適の事業運営をして、利益が出ていればそれでいい、という段階ではないでしょうか」と有沢氏。この段階なら、人事制度は現法ごとに違っていてよいし、本社(HQ)と現法の人材交流の必要性も低い。
「次にやることは、この先、ビジネスのグローバル化をどこまで進めたいのか、経営トップの思惑を知ることです」(有沢氏)。カゴメの場合は、ローカル主導・ローカル最適の段階を抜け出し、グローバル戦略のもと、HQと現法が一体になって運営される"連邦制"を目指したいというのがトップの明確な意思だった(下記図参照)。「トップが何を実現したいのかを聞き出し、そのために必要な人事戦略を進言する。そしてその実現に、トップからの完全なコミットメントを確保する。変革を起こす人事は、ここをはずしてはなりません」(有沢氏)

"連邦制"のための人事制度を2段階で

ここからがグローバル人事制度構築の本丸だ。「教科書的にいえば、グローバル共通の理念や人事ポリシーをあきらかにし、その理念に基づいて制度を構築するのが美しい。ですが私は、理念やポリシーの前に、まずは制度や仕組みを整備したほうがいいと考えます」(有沢氏)

これまで自由な運営を許されてきた現法に、いきなり理念や人事ポリシーというつかみどころのないものを押し付けても、それを具現化する手段がなければ変化は起こせない。人事評価は年に何回、どのような項目をどんな基準で評価するのか、昇格の基準は何か。こうした枠組みとしての制度があって初めて、その運用を通じて理念やポリシーを現実化できるというのだ。

実際に有沢氏は、カゴメにおいてここ数年で、ジョブグレーディングの共通化、評価・報酬制度の共通化、コアポジションのサクセッションプラン導入を実施。これからは、これらの制度の運用を通じて、自社が求める人材、すなわち、自社の理念やポリシーを体現する人材を特定し、彼らを戦略的なポジションに配置することができる。「そこまでいってようやく、"連邦制"を支援するグローバル人事制度ができたといえることになるでしょう」(有沢氏)

Text=Works編集部 Photo=平山諭

有沢正人氏
Arisawa Masato カゴメ 執行役員 経営企画本部 人事総部長