若者の時代東出風馬氏(開発者・起業家)

みんなが自分のプロジェクトを持って助け合って生きていく。そんな未来の働き方をつくりたい

Higashide Fuma1999年生まれ。シュタイナー学園高等部3年。2016年秋、高校2年のときに東京都主催の「TOKYO STARTUP GATEWAY」に応募。テーマ「能動的かつ直感的なロボットで今までの情報端末の限界を超える。」で優秀賞を受賞。獲得賞金で、2017年2月、パーソナルロボット開発の会社、Yokiを設立。孫正義育英財団準会員。

子どものころからものづくりが大好きだったという東出風馬氏。中学2年のときに能動的に動くロボットの開発を志し、3年後、ビジネスコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」で優秀賞を受賞。その賞金を資本に高校2年で会社を設立した若き起業家だ。これからの時代を担う世代がつくり出すビジネススタイル、そしてその目が見る未来の働き方とは?

聞き手=清瀬一善(本誌編集長)

― 2017年2月に設立したYokiではパーソナルロボットの開発をされているそうですね。

僕が中学 2年のときに考えた「能動的に動くロボット」というものを、この会社でつくり出したいと思っています。たとえば、「おなかがすいた」と話しかけると「ピザをとりましょうか」と提案してくれる。人が考えることを先回りしてくれるようなロボットです。その第一段階としてパーソナルロボットの「HACO」を現在開発中です。

― 最近ソニーからaiboの新型が登場するなど、大手企業がパーソナルロボットに力を入れ始めています。「HACO」にはどのような特徴があるのでしょうか。

Yokiが現在開発中のパーソナルロボット「HACO」。大手企業が発売するメカニカルなロボットとまったく異なる、愛嬌のあるおもちゃのような雰囲気。部品の組み立て、着色、仕上げ工程まですべて手作業だ。

ソフトバンクグループのPepperやシャープのRoBoHoNといったパーソナルロボットが既に発売されていますが、15万〜20万円超ととても高価です。それに、企業側が決めた使い方しかできません。まだまだロボットの使い方は十分に開拓されていないし、そもそも、どうして人がパーソナルロボットを買うのかというと、ちょっとかわいいし、近未来的な感じがするから、という理由が今はすごく多いんです。
そういうニーズを満たすためなら、もっと安くて自由度の高いものがいい の で は な い か と 考 え ま し た。「HACO」は、3万円くらいの気軽に買える価格帯にします。そして外側のパーツや内側の部品は汎用的なものを使い、ソフトウェアもオープンソースで設計し、いろんな人を開発に巻き込めるようなものを目指しています。また、高機能で役に立つことよりも、少し頭が悪くてもいいけど、より話しかけたくなるデザインや愛嬌が大切。「HACO」もこのコンセプトに沿って、ユーザーが愛着を持てるロボットにするつもりです。

ビジネスコンテストから人脈が一気に広がる

― 東出さんは高校生ですが、なぜ趣味や課外活動ではなく、起業しようと思ったのですか?

中学生のときに今つくっているようなロボットを思いついてから、自分ひとりでつくってみたこともありました。ですがうまくいかなくて、一度はあきらめたんです。でもそのときにスティーブ・ジョブズの「自分の好きなことを事業にする」という生き方を知り、すごく共感しました。そこで自分が発想したロボットづくりでいつか起業しようと心に決めたんです。
最初は学校でものづくりクラブをつくってプログラミングや機械工作に取り組みました。そのときは2020年に起業すると学校で宣言していたのですが、高校2年のときにビジネスコンテストの「TOKYO STARTUP GATEWAY」で優秀賞をもらって資金ができた。それまでにPepperやRoBoHoNが登場していて、これは早く起業したほうがいいと考えたこともあって、会社を設立することにしました。

― 会社の開発メンバーは9人ほどと聞きました。どのようなメンバーで開発を進めているのですか?

年齢は高校生から40歳まで。基盤ハード、ソフトウェア、サーバーソフトウェア、Webサービスといった開発をリモートワークでお願いしています。自分は全体のマネジメントと本体デザインを担当していますが、まだ力不足の部分も多いので、できる人たちに手伝ってもらっています。

― そんな幅広いスキルを持った人たちを、高校生の東出さんがどのように集めたのでしょうか。

ビジネスコンテストや起業家のイベントで知り合った人たちが多いですね。フェイスブックでのメンバー募集で参加してくれた方もいます。Yoki副代表の三渕優太くんはリクルーティング能力が高く、優秀な人を連れてきてくれます。全員ほかの仕事を持ちつつ、かけもちで手伝ってくれています。
実は僕はパソコンを初めて買ったのもフェイスブックやツイッターのアカウントをつくったのも、2016年の高校2年のとき。エンジニアなどの知り合いはまったくいませんでした。ロボットのコンセプト設計からビジネスプランづくりまで、すべて1人でやっていて、逆にいえば何をどうやっていいのかまったくわからない状況でした。シード投資家の存在も全然知りませんでしたし。でも「TOKYO STARTUP GATEWAY」に出場し、メンターといわれる人たちが付いてくれて、そこから一気に多くの人脈ができたんです。いろんなアドバイスももらって、こういう事業のやり方があるんだということを初めて知りました。

― 高校生で起業、というと気になるのは学業との両立です。学校と会社、時間はどのように配分しているのですか?

学校は普通に通っていて、放課後と土日が会社活動の時間です。会社のメンバーとは主にビジネスチャットサービスのSlack(スラック)で連絡をとっています。年齢が離れているメンバーもいますが、コミュニケーションに悩んだことはないですね。

― もう1つ気になるのは資金。開発費用などもかかりますよね。

実はそれほどかかっていません。ロボットの筐体は金型をつくるとお金がかかります。3Dプリンターの利用も考えましたが、完成度がいまひとつ。そこで、木材をレーザーカッターで切って組み立てるものにすることでコストを抑えています。それがかえってロボットのぬくもりにつながったかなと思います。費用は月に3万円も使ったら、結構かかったな、という感じですね(笑)。
現在開発中の「HACO」は理想のロボットの第一段階。これを早く製品化して、クラウドファンディングで先行発売をし、その後一般販売をしていく予定です。

世の中が少しでも楽しくなることに貢献していきたい

― やはり、私たち「大人世代」から見ると、東出さんのような生き方は、とても勇気がいるし、踏み出せない人が多いのではないかと思ってしまいます。

僕のように「生活のお金を稼ぐことに直結しないけどやりたいこと」のプロジェクトに時間を割く働き方は、これから普通になっていくんじゃないかと思っています。生活のためにひたすら働くのではなく、たとえば、週2日は生きていくためのお金を稼ぎ、残りの時間を自己実現のためのプロジェクトに使う。そして、各自のプロジェクトをお互いに助け合う、というような。
実は、そういった生き方、働き方を支援するためのプロジェクトも2016年から始めました。1つは、起業前のプロジェクトレベルのアイデアの広報をサポートする「SEEDTREE」というニュースメディア。もう1つはプロジェクトのメンバーや資金集めをサポートするフェイスブックグループ「IdeaSHARING」です。
これらの活動も、いろんな人脈のなかで同じ考えを持った仲間と出会って、立ち上げたものです。

― ロボット開発以外にも活動を広げているんですね。東出さんをそのように突き動かすものはなんですか。

ロボットの開発で起業を考え始めたころから、資本主義のなかで格差が広がっていることが気になり始めていました。その格差は金銭的な面だけじゃなく、モチベーションにも広がってきていると思ったんです。
でも、小さくてもいいから、自分がやりたいプロジェクトを立ち上げる人がたくさん現れたら、まずモチベーションの問題は解決できるんじゃないかと。自分もそうですが、何かを始めようとするとき、誰だって「いいことをしよう」と思って始めますよね。だから小さなプロジェクトがたくさん生まれればちょっとずつ世の中も良くなっていくと思っています。今、大学進学も視野に入れていて、未来の働き方を研究する学部に進学したいと考えています。微力ですが、自分の力でちょっとだけ世の中を楽しくしていけたらと思っています。

Text=木原昌子(ハイキックス)  Photo=相澤裕明

After Interview

「技術にはあまり明るくない」そう明言する18歳が、ロボット開発プロジェクト全体をマネジメントしている。それを実現できる背景には、起業家を支援する仕組みや、安価になったビジネスインフラの有効活用がある。ビジネスコンテストに無償のシェアオフィス、そして、SNSのフル活用だ。起業の壁がかつてないほど低くなった現代社会に、東出氏は悠々と漕ぎ出しているのだ。
そして、彼が世に送り出そうとしている商品は、オープンソースとオープンイノベーションを前提としている。ユーザーやほかのベンダーとともに「使い方」を一緒に考える必要のある商品、いわば半完成品であることがウリになる時代でもあると、彼は敏感に見抜いている。
このような現代の変化を、自在に我がものにして生きているのが東出氏である。氏によれば、現代は、稼ぐためにではなく、世の中をより良くするための活動が重要であり、それがかつてなくしやすくなっている時代でもあるという。
私たちには見えないものが、彼には確かに見えている。私たちは、無数に存在する彼のような若者たちに、現代というものを謙虚に教わる必要があるのかもしれない。