Next Issues of HR フェイクニュースにどう向き合うか第2回 「情報生態系」の仕組みを理解する

前号では、フェイクニュースをめぐる問題が、今、いかに深刻な状態に陥りつつあるかをお伝えしました。この問題は、単に「どこかの悪い人間がウソの情報を流している」ととらえるだけでは本質を理解できません。さまざまな要素が密接に絡み合った「情報生態系」という概念によって理解する必要があるのです。

情報生態系は次の3つの要素で構成されています。1つは、情報の発信者・受信者であり、それぞれが認知バイアスや社会的影響力などをもった「人間」。もう1つが、マスメディアやSNSなど情報拡散の舞台となる「プラットフォーム(媒介者)」。そしてもう1つが、情報拡散のスピードや規模を飛躍的に増大させる「デジタルテクノロジー」です。これらが相互にどのように関わり合っているのかを示したのが下の図です。

情報の発信者(人間)の意図はさまざまです。単に人々の注目を集めたいだけという場合もあれば、政治的なプロパガンダや陰謀論の拡散を目的としている場合もあります。

そして、発信された情報を拡散するのがメディアなどの媒介者です。ここでは、媒介者が経済的利益などの意図をもって拡散する情報を取捨選択している場合もあれば、SNSでつながった同類性の高い集団内で同じような意見が拡大していくエコーチェンバーという現象が起きている場合などもあります。ここにAIなどのデジタルテクノロジーが関わると、自動的にフェイクニュースが拡散する仕組みができあがります。

情報の受信者(人間)は、情報過多のなかで、感情や認知バイアスに左右されて情報を受け取ります。ここでリテラシーが働くかどうかは確かに重要です。しかし、1人の人間が溢れかえる情報のすべてに関して真偽を確かめることは事実上不可能です。

情報生態系という言葉が示すように、フェイクニュースをめぐる問題は、一種の環境問題としてとらえることができます。環境問題に政治、経済、産業、科学、立場の違う国家や人々の多様な思惑が関わり合っているように、フェイクニュースも情報生態系の複雑なネットワークを科学的に解き明かし、情報の流れを構造的に変えることが求められています。

このようなフェイクニュースの科学的な分析に貢献しているのが計算社会科学です。人の心なども対象とした社会科学の問題意識と、データサイエンスや機械学習などの情報技術、さらに統計科学、経済・社会物理学などの数理手法を組み合わせたこの新しい学問により、フェイクニュース拡散の仕組みが徐々に解き明かされてきています。その成果をどう具体的な施策や対策に反映させていくかが、現在の大きなテーマです。

w173_fake_main.jpg

w172_fake_01.jpg笹原和俊氏
東京工業大学 環境・社会理工学院 技術経営専門職 学位課程 准教授

名古屋大学大学院情報学研究科講師などを経て現職。専門は計算社会科学。主著は『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(化学同人)。

Text=伊藤敬太郎 Photo=笹原氏提供