AIのお手並み拝見クリエイティビティ

AIに創作はできるのか

クリエイティビティは、AIに代替できない人間特有の能力の1つといわれてきた。しかし最近では、絵画や音楽などAIによる創作物も続々と生まれてきている。
公立はこだて未来大学の松原仁氏は、2012年からAIによる小説創作のプロジェクトを率いてきた。チームで研究を重ね、2016年にはその作品が、短編文学賞である「星新一賞」の一次審査を通過するという成果をあげている。

AIはまだ長い文章を書けない

「ただし、現時点での役割分担は人間8割、AIが2割くらいです。実際にはまだAIがクリエイティビティを持ったとは言い難いですね」
AIによる小説創作が難しいのは、そもそもAIは長い文章が書けないからだ。近年、人間が使う自然言語をコンピュータで処理する「自然言語処理」の研究が進み、チャットボットのような短文を生成することはできるようになった。しかし前後の文がつながりを持ち、展開が必要になる長文を作るとなると、難度が一気に上がる。
「AIに長文を書かせると、一文ごとの意味は通っても、文を連ねるうちにズレが生じ、途中で書き手が変わったかのような違和感を覚えてしまうのです。スポーツの結果を伝える記事や天気予報の原稿など、定型的な文章であれば比較的簡単に書けますが、小説のように決まった型がない文章を、ズレを生じさせることなく作るのは極めて難しいのです」

ランダムな組み合わせを作るのが得意

そこで松原氏らのチームでは、人間が構造を指定するという方法を採用し、AIに意味の通る長文を書かせることに成功した。たとえば「導入は天気の話」、「次に登場人物の説明」といった大まかな構成を人間が作り、それに合わせてAIが「曇り」か「晴れ」かの設定を決め、さらに「どんよりした」「薄曇りの」など適切な表現を選び出して描写していく、という仕組みだ。
同じ構成でも、どんな設定や表現を選ぶかによって無数のバリエーションが生まれてくる。しかもAIは人間と違って、飽きたり疲れたりすることなく、同じ品質で書き続けることができるので、何万パターンもの組み合わせを実際に作品の形にすることができる。その多くが使い物にならなくても、なかには目を見張るような作品も生まれてくる。
現在は1000点以上におよぶ星新一の作品をAIに読み込ませ、ありそうでなかった星新一風の新作を書くことを目指している。
「お手本をもとに作品を量産するAIはクリエイティブではないという人もいますが、知見や経験のデータベースから、さまざまな組み合わせを考えて取捨選択しているという点では、人間も同じではないでしょうか。人はすべてを形にすることが物理的に難しいので、アイデア段階で見切りをつけてしまう。でも、早々に捨てた選択肢から、斬新な作品が生まれた可能性もあるはずです」

当たり前を疑うことからオリジナリティが生まれる

むしろランダムな組み合わせを無数に作れることこそ、AIのクリエイティビティといえよう。研究し尽くされた囲碁や将棋の世界で、AIの指す「独創的な一手」とは、これまでに存在しなかった手をAIが発明したわけではなく、人間が気付かなかった特定のパターンの重要性を、AIが初めて見いだしたということだ。創造力や独創性は、組み合わせの妙から生まれることも多い。
「クリエイティビティは何も特別な能力ではなく、人は誰もが日々発揮しているもの。ビジネスの場でも、企画や商品開発ばかりではなくて、『A→B→C』が当たり前と思われていた業務プロセスを『A→C→B』という新しい順番に変えてみるというのも、十分にクリエイティブな仕事だと思います」
そう考えると、クリエイティビティはAIと競い合うものではない。AIの作品に創造力を刺激され、人間の作家がさらに新しい小説を生み出すなど、それぞれの特性を活かし、共に進化していくことができれば、創作の可能性はさらに広がっていくだろう。

Text=瀬戸友子 Photo=刑部友康 Illustration=山下アキ

松原 仁氏
公立はこだて未来大学副理事長。
Matsubara Hitoshi 東京大学理学部情報科学科卒業、同大学院工学系研究科博士課程修了。通商産業省工業技術院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)を経て、2000年より公立はこだて未来大学教授。2014~2016年には第15代人工知能学会会長を務めた。近著に『AIに心は宿るのか』(集英社インターナショナル)など。