学生記者が日本中から発掘&突撃取材“イケてるゼミ”を探せ!大手出版社と共同で開発した「方言チャート」の裏側とは!?【Vol.4東京女子大学 現代教養学部 篠崎ゼミ】

イケてるゼミ第4弾は、「方言」の研究を通じて社会とつながる篠崎ゼミ。
企業と共同開発したWebアプリケーション「方言チャート」は公開以来のべ1000万人以上に利用され、ゼミ生は継続的なデータ分析に取り組んでいる。今回の取材では、長野県出身の学生記者が「え~っ!? この言葉って方言なんですか!?」と驚く一幕も。日本各地に広がる方言の研究では、人の輪が不可欠。それを重視する篠崎ゼミは、まさに「輪」になって研究を進めていた。

取材・文  矢野綾乃 (湘南工科大学3年)
取材  谷本智海 (東京女子大学3年)
   佐藤千優 (東京女子大学3年)

Seminar Data
・教員:篠崎 晃一(シノザキ コウイチ)教授
東京女子大学 現代教養学部 人文学科 日本文学専攻
研究分野 社会言語学 方言学
・開設年:2006年
・構成員:3年生13名・4年生8名
学外の協力機関(「方言チャート」アプリケーション運営)4名 
・位置づけ:必修のゼミ
・単位数:3・4年で計8単位

今回の取材先である篠崎ゼミでは、社会言語学や方言も含めた日本語の多様性や、各地の言語変動の動向について研究を行っている。筆者がこのゼミに魅力を感じたのは、方言の調査結果を、大手出版社と共同開発した「出身地鑑定!! 方言チャート」というWebアプリケーションに反映し、誰でも楽しめる形で世の中に公開している点である。そのアプリケーションの更新というゴールに向かって、ゼミ生が一丸となって取り組む「共同プロジェクト」。今回は、篠崎先生、ゼミ長の野辺さん、ゼミ生の小林さんにオンラインでインタビューに答えていただいた。

篠崎ゼミへのインタビューの一コマ篠崎ゼミへのインタビューの一コマ
上段左から:矢野綾乃(学生記者)、谷本智海(学生記者)、小林千紘さん(3年生)
下段左から:佐藤千優(学生記者)、野辺有桜さん(3年生)

言葉の魅力を再発見!共通語では表せない方言学

篠崎ゼミが手がけている「出身地鑑定!! 方言チャート」(以下、方言チャート)は、いくつかの質問に回答することで出身地を予測し判定を行うWebアプリケーションである。2008年、篠崎教授が「現在でも幅広い世代で使われている方言を掘り起こしてその地理的分布を捉えると共に、集めた調査データを社会に還元」するものとして開発を発表した。構想から5年を経て「方言チャート」が完成。篠崎ゼミではこのアプリケーションの的中率を上げるため、Webの回答から収集したデータを表計算ソフトで分析している。また、ゼミ生はゆかりのある地域を担当し、出身者への聞き取り調査を行うことによって出身地鑑定の精度を高めている。
たくさんの人の情報提供からなる研究成果は、論文など学術的な場で発表されるだけでなく、Webアプリケーションという形で一般にも公開され、誰もが身近に楽しめるものになっている。
「自分の地元にも方言があるので、それを研究するのも面白いのでは?」と思いこのゼミを選択をしたと話すのは、ゼミ長で宮崎県出身の野辺さん。「共通語では言い表せないからこそ、方言は残り続ける」と篠崎教授。日本各地に残る方言には共通語にはない豊かなニュアンスがあり、言葉としての存在価値も大きい。方言の研究では、各自が出身地で使ってきた言葉の持つ価値に着目し、共有し、認め合い、深めていく。方言学は、言葉の魅力を再発見できる学問と言えるだろう。

ぜひ一度、方言チャートに挑戦してみていただきたい。
あなたの出身地、ズバリ当てちゃいます!東京女子大学篠崎ゼミが開発した「出身地鑑定!!方言チャート」

「リンゴが“ぼける”って」知っていますか??

リンゴ長野県出身の筆者には、篠崎教授に取材するまで方言だと知らずに使っていた言葉がある。それは「リンゴがぼける」である。この方言は長野県や東北地方などのリンゴ産地で使われ、リンゴの水分が抜け、スカスカして美味しくない状態を意味する。このように話者が方言と自覚せずに言葉を使っているパターンは多く存在する。地方出身の学生が何気なく発した言葉からも、方言の研究における新たな気づきが生まれることもあるという。

篠崎ゼミの「誰にとっても居心地のよい空間」づくり

ゼミでは各自の調査結果の発表を、机を円形に並べて行っている。その輪の中に篠崎教授も加わり、上下関係のない空間が作られている。「“先生”という漢字は、“先”に“生”まれると書きますよね。先生だから偉いということはないんです。私もゼミの構成員の一人です」と篠崎教授。その考えを象徴する空間づくりによって、ゼミ生は臆することなく発言できているのではないだろうか。

輪になるように机を並べた空間輪になるように机を並べた空間
篠崎教授がゼミで大切にされていることは協調性。ゼミ選択の前に行われる面談でも、長期間に及ぶ言語調査を粘り強く周囲と協力して行えるかを確認するという。だからこそ、円滑にコミュニケーションを取り、同じ目標に向かってプロジェクトを進められる学生が集まる。「真面目な学生が多く、非協力的な人はいない」と小林さん。「方言チャート」のための言語分析では、回答者の年齢、設問項目、回答内容、出身地などのデータを表計算ソフトで取り扱う。「設問に今はあまり使われていない方言があれば、相談しながら設問の差し替えを行います」と野辺さん。差し替えを検討する方言に対して「隣接県ではこんなデータがあります」など、各自の担当県の情報を共有しながら「方言チャート」の鑑定精度を高めている。日本文学専攻の学生は表計算ソフトウェアを授業で使用する機会が少なく、最初は操作方法に戸惑うことも多いようだ。しかし、不慣れなことも互いに協力し合って分析を行っている。篠崎ゼミでは輪になってフラットに発言でき、情報をきめ細かく共有することによって、難しい分析作業にチームで取り組んでいる。「方言チャート」のような長期的なプロジェクトを成功させている背景には、この「誰にとっても居心地のよい」空間が存在する。

情報の共有をするゼミ生の姿情報の共有をするゼミ生の姿

学生のアイディアで発信!YouTubeチャンネル

篠崎ゼミでは、YouTubeのチャンネルも開設している。ゼミ生による「方言チャート」の制作秘話やお題のセリフを各地域の方言で次々とつなぐ「方言リレー」などの動画が公開されている。たとえば、「瞼が腫れている友達に一言」編や「告白する時の一言」編などでは、各地域の出身者がテンポよく、楽しそうに方言を話す姿が続く。2016年には熊本地震で被災した方々への応援メッセージの「方言リレー」をアップしている。これらはゼミ生が企画したもので、随所にゼミ生の遊び心がちりばめられている。自分のアイディアが発信できる場所があり、ゼミ生は個性を活かしながらイキイキと活動している。
【方言リレー】
女子大生・篠崎ゼミJr.が集めてみた!方言リレー(方言チャート番外編)
【「出身地鑑定!!方言チャート」YouTubeチャンネル】
出身地鑑定!! 方言チャート - YouTube

方言リレーのウェブサイト画面方言リレーのウェブサイト画面

学生の個性を伸ばすゼミの在り方

篠崎教授は、ゼミ生には「人との接し方」を大切にしてほしいという。ゼミ生は教授が大切にされている“想い”をゼミでの活動の中で感じるという。「学生とのコミュニケーションに重きを置いてくださっている」と小林さん。卒業研究では、アニメやドラマなどゼミ生の好きなものについての言語調査を行うことも多く、ゼミ生一人ひとりの個性を大切にされている。また、ゼミ長の役職は先生から指名されて決まるという。「ゼミ長という役割には向き不向きがあるため毎年、学生の性格を見たうえで指名する」と篠崎教授。共同でのプロジェクトであるからこそ人との関わりを大切にされ、ゼミ生一人ひとりのことを気にかけている様子があった。

ゼミ生の話を楽しそうに聞く篠崎教授ゼミ生の話を楽しそうに聞く篠崎教授

「方言チャート」で社会とつながる!チャレンジングなクエスト性

篠崎ゼミでは、フィールドワークとして日本全国様々な場所で言語調査を行う。これまでに合宿として訪れたのは、山形県や富山県などの地域だ。また、言語調査をするうえでフィールドワークを含め、たくさんの人たちの情報提供が必要不可欠になるという。情報提供に協力していただいた人への結果報告に用いているのが、誰もが使えるWebアプリケーション”という形の「方言チャート」である。「フィールドワークなどを通して、自分たちが取り組んだことが一つの形となって社会へ出ていく達成感を味わってほしい」と篠崎教授。実社会とつながる共同プロジェクトであるからこそ、ゼミ生は担当した地域の言語調査を責任を持って行うのであろう。篠崎ゼミで言語調査にチャレンジした経験は、社会に出てからもきっと役に立つだろう。

今後の展望~方言から広がる世界~

社会言語学の中で世間的に注目を集める方言。それに伴い、方言チャートの更新も約2年に1度の頻度で行っている。現在は方言のみを調査しているが、今後は方言のみならず文化や風習の調査も行っていく予定だ。また形を変え「全国方言サミット」などの開催も考えているという。コロナ禍により改めて日本国内の旅行が人気を集めている。その中で地方の風習などを含めた方言チャートは、今後さらに注目されるであろう。日本各地に残る方言や風習を掘り起こし、その魅力を現代人に楽しく伝える役割は、ますます大きくなっていきそうだ。

【Student’s Eyes】
■チームでの活動が多いゼミであり、協調性のある学生が集まっているのが印象的でした。「一人ひとり、誰にとっても居心地のよい空間」を大切にしている篠崎先生。インタビューからも穏やかな雰囲気がわかるような素敵なゼミでした。(矢野)
■ゼミ中にもかかわらず「今度、物産店巡りしようよ」「吉祥寺の中華料理屋にみんなで行こうか」などの提案を先生がしていました。学生もそれにのっていて、楽しそうな雰囲気でした。この空気感が、学生が共有したい情報を自由に口にできる環境づくりに影響しているのではないでしょうか。(佐藤)
■コンピュータを活用し、それまで経験したことのなかった言語情報処理に戸惑いつつも活き活きと活動する学生から、ほんわかとした雰囲気に隠れた熱意が透けて見えました。一人ひとりがコンピュータと向き合って作業しつつ、机を円状に並べて話し合うゼミの形態も面白いなと感じました。(谷本)