学生記者が日本中から発掘&突撃取材“イケてるゼミ”を探せ!ディベートで負けない「コバゼミ」ってなんやねん!?【Vol.2関西学院大学経済学部小林ゼミ】

イケてるゼミ第2弾は、キャンパスの美しさで知られる関西学院大学の経済学部長である小林伸生教授のゼミ。しかし、記事にはゼミでの研究活動の話はほとんど出てこない。出てこないけれど、ステキな学習コミュニティであることがきっと伝わるはず。学生記者たちは、どんなところにフォーカスし、心を動かされたのか? 想いのこもった記事をご一読いただきたい。

取材・文 佐藤千優(東京女子大学3年)
 取材   谷本智海(東京女子大学3年)
矢野綾乃(湘南工科大学3年)

Seminar Data
・ゼミ概要:テーマは日本産業の構造と競争力。
2年生の6月に選考が行われ、9月からゼミナール活動が始まる。4年生までの2年半の活動となる。主な活動は3年生の共同研究、4年生の卒業論文の執筆。定期的に行われる経済学部内や商学部の個別ゼミとのディベート大会に参加している。
(現3年生までは2年半の活動。現2年生以降はカリキュラムの変更により、3年生からゼミ活動が開始される)
・ゼミ教員:小林伸生(こばやし のぶお)
関西学院大学経済学部長 専門:産業構造論、地域産業・経済論、中小企業論
・ゼミ開設年:2004年
・ゼミ構成員:3年生 28名・4年生 26名
・ゼミの位置付け:選択式の専門ゼミ
・単位数:3年生 4単位・4年生 卒業論文と合わせて8単位
・卒業研究:卒業論文あり
過去の卒業論文テーマ
「産業の空洞化の実態と要因分解~オープンイノベーション促進への期待~」
「日本の製造業における多角化についての実証分析」

ディスカッションとは異なり、議論に勝敗をつけるディベート。ただ言い負かすのではなく、ディベートでは入念に分析されたデータや根拠を基にして審査(勝敗をつける審判)を説得しなければならない。コバゼミ(小林ゼミの略称。以下コバゼミとする)は学部内の3ゼミ対抗戦などのディベートに参加している。なんとこれらのディベート大会で8割強の勝率を上げているそうだ。ここまで結果を残せているのはなぜか。どのような学生がコバゼミにいて、どのような環境で学んでいるのか。今回は兵庫県西宮にあるキャンパスを訪ね、小林先生、ゼミの学生7名にインタビューを行った。

今回取材に応じてくださったコバゼミの皆さん【今回取材に応じてくださったコバゼミの皆さん】
前列左から 佐藤千優(学生記者)、小林伸生教授、谷本智海(学生記者)
後列左から 作本育海さん(4年生)、北奥優芽さん(4年生)、和田彩希さん(4年生)、
家城来美さん(3年生)、齋木菜桜さん(3年生)、中野悠紀さん(3年生)、得津克将さん(3年生)

個々の化学反応

コバゼミでのメインの活動は、3年生の共同研究と4年生の卒業論文の執筆。共同研究では「外食産業競争力強化」や「対内直接投資と対外直接投資の適切な割合」などをテーマにし、6〜7人で研究を行う。コバゼミのもう一つの活動のウリは、他ゼミとのディベート。経済学部内の3ゼミ対抗戦や、ライバルゼミでもある商学部の個別ゼミとの対抗戦が行われる。対戦相手はコバゼミとは全く異なる分野を扱うゼミのため、「高校授業料無償化の是非」や「ガソリン価格に対して国は支援すべきか」などコバゼミの研究テーマとは異なるものを扱うこともあるそうだ。以上のようにコバゼミは研究と定期的に行われるディベートを並行しながら進めていく形になっている。このゼミにはどのような学生が集まっているのだろうか。

コバゼミは入る前に選考があり、先生と直接面接を行う。ゼミ担当教員である小林先生が大切にしていることは「どれだけ学生生活に問題・課題意識を持っているか」ということ。いかにゼミに熱くコミットしてくれるかをジャッジするそうだ。コバゼミの学生にこのゼミに入ったきっかけを尋ねると「コバゼミはめちゃくちゃ忙しいと聞いていた。コロナ禍で新しいことができなかったから、頑張れることがないことがもったいないと思っていた(齋木さん)」「勉強に対して、機会を提供してもらっているからしっかりと向き合いたいという意志があった。自分の意志とコバゼミが合致していると思った(和田さん)」と返ってきた。筆者も大学でゼミに所属しているが、自分も周りもコバゼミの学生ほどゼミに入った目的は明白ではない。多くの学生はある程度自分のやりたい分野がゼミと合致していれば、そのゼミに入ることを決めるのではないだろうか。小林先生が意図したように、現状の問題意識であったり、その後自分がゼミでどうやっていきたいのかというビジョンを一人ひとり明確に持っていることが伝わってきた。

そんなコバゼミには様々な個性を持った学生が揃っている。ゼミ長という大役をこなし、チームをまとめる和田さん。リーダーを支え、皆の意見を共有するよう努める北奥さん。パワーポイントのスキルを活かして資料づくりに励んだ作本さん。積極的にゼミ時間外でデータ収集や自身のスキルアップに励む家城さん。「個々の化学反応が起こることを期待して」と小林先生が願う通り、ゼミ生各自の持ち前の性格やスキルを活かし、一つの全体の目標に向かうアプローチが体現されているようだった。

小林ゼミ14期生(現4年生)インスタグラム小林ゼミ14期生(現4年生)インスタグラム
小林ゼミ15期生(現3年生)インスタグラム小林ゼミ15期生(現3年生)インスタグラム
そんな個性溢れる学生が運営しているインスタグラム。この記事では語り切れないゼミ生たちの表情を見ることができる。

先生の役割は修羅場を提供すること!?

小林先生はゼミ活動のコンテンツとしてディベートをとっているのかをこう語る。「ディベートは勝敗をつけるため、本気にさせやすい。また、ディベートでは猛烈な反論が返ってくる。予定調和がないため、ものすごく準備をしなければならない。この準備力やデータの分析力は共同研究や卒業論文につながっているだろう」。先生はゼミを「学生が本気になれる場」にするよう意識している。そのために先生が行っていることは修羅場をくぐらせる材料を提供すること。共同研究やディベートのチームは仲良しグループで組まないように、あえてくじ引きで決める。ゼミ内でディベートを行う際はテーマを学生に与え、それ以降は学生に任せる。行き詰まっている様子だったら、一歩進めるヒントを与えたり、視点の切り替えをさせてみたりするそうだ。「与えすぎてしまっては学生は何も発見できず、逆に与えなさすぎると暗中模索してしまう」ため、先生は絶妙な伴走をすることを工夫していると真剣な面持ちで語った。そして、先生が対戦相手側の立場に立って学生とディベートを行う「ぶつかりげいこ」がディベート大会本番2週間前に催される。「ぶつかりげいこ」で先生は学生をボコボコに負かす。これによって学生たちに今一度自分たちの足りない点を認識させ、危機感をもたせる。学生も小林先生との「ぶつかりげいこ」では歯が立たないと苦笑いした。

ゼミの環境づくりについて語る小林先生ゼミの環境づくりについて語る小林先生

切磋琢磨できる環境

先生が与えるこうした環境に対して学生たちはどう乗っかり、コミットしているのだろうか。

ディベートや共同研究を行う上で衝突は避けられないという。様々な案が出て、互いに意見をぶつけ合う。そのため自然とゼミの空気はピリッとするそうだ。作成した資料の詰めが甘いのではないかという危機感や、共同研究の提出締め切り、歴代の先輩方のディベートの勝率などのプレッシャーの下、ゼミに臨む。こうした危機感やプレッシャーから各自次の1週間後のゼミまでデータや資料を必死に集めたり、ゼミの時間外にZoomで議論を行うなど自分たちで課題を設定し、実行する。中野さんはこう語った。「いいものを作っていこうとすると忙しくなっていく。切磋琢磨できる環境だからこそ自分の意見を言えて、それを受け入れてもらえる」。学生の共通意識は、質の高いゼミを自分たちで作ること。ゼミの時間が終われば皆、気のいい仲間だそうだ。実際にゼミの話をする時は真剣な空気感でインタビューが行われたが、終わると、筆者ともプライベートなお話をしてくれるようなフランクな空気感に切り替わった。真摯に打ち込む姿勢だけではなく、この切り替えもコバゼミの一つのキーポイントだろう。

愛し、愛される

基礎的な環境を小林先生が与え、学生がその環境に乗じ、色を加えていく。では、小林先生と学生はどのような関係を築いているのだろうか。

学生にとって小林先生はどのような存在か伺った。「小林先生は『教師』やなぁと思ってて……」得津さんはそう口にした。大学の教授には自身の研究に力を注ぐ方が多く、学生との関係はそれほど密接ではないイメージがある。しかし、小林先生は学生との距離が近く、一人ひとりのことを細かく見てくれているという。「経済学部長をやられているんで、すごく忙しいはずなのに、質問や聞きたいことがあるとすぐに答えてくれたり、調べて送ってきたり。忙しい中自分たちに時間をかけてくださる(齋木さん)」「面接で話した内容を一人ひとり覚えてて、すごいなって思った。記憶力もそうですけど、人を見てくれてるんやなって……(作本さん)」「私たちも先生のこと大好きなんですけど、先生からの愛情もすごくて(笑)。イベントの時に1枚目と2枚目の写真何が違うのってくらい細かく、たくさん個々や全員の写真を撮ってくれるんです(家城さん)」など、小林先生とのエピソードを照れ笑いしながら語った。「先生が自分たちに真摯に向き合ってくれるからこそ、自分たちも頑張らなければならない」と思えるそうだ。

一方で「自分は学生に恵まれすぎた」と小林先生。学生が100%以上に一生懸命打ち込む姿を見て、先生も本気で彼らと向き合い、愛情をたくさん注ぐと語った。
先生と学生たちの間に深い絆が生まれたのは互いが本気で向き合い、その姿に感化されたからだろう。学生と先生が相互に高め合う様子が垣間見えた。

インタビューの様子インタビューの様子

卒業してもコバゼミは続く……

小林ゼミは年に2回OBOGと交流する機会がある(コロナ禍以前)。一つは現役生と卒業生を交えた「大同窓会」で、毎年ゴールデンウィーク中に催される。なんと卒業生が総幹事を担い、現役生が実働部隊として動く。人を集めるのは先生の役目だそうだが、それ以外の企画運営などは卒業生と現役生が担う。12月には様々な業界で活躍するOBOGの話を現役の3年生が聞く「就活対策ミーティング」が行われる。同じ修羅場をくぐってきた過去の先輩たちがどのように就職活動を乗り越えたのか聞けるのは現役生にとって大きな刺激となるそうだ。

また、就職後全国各地に広がったOBOGをエリアごとにまとめたLINEのグループがあるそうだ。グループ名は「コバゼミ関東支部」「コバゼミ関西支部」など。先生が出張関係で各地に行く際に呼びかけると学年の枠を超えて卒業生が集まってくれると嬉しそうに話した。

コバゼミでは大学の間だけではなく、卒業した後も学年関係なく交流がある。ここで得られるものはディベートや共同研究で身に付けられる知識やスキルだけではなく、困難をともに乗り越えてきた一生ものの仲間があるだろう。これらは社会に出てからも大きな強みとなるのではないだろうか。

筆者の目に映ったコバゼミ

筆者がコバゼミを知ったのはゼミの情報収集をした際に、学生記者の一人、谷本とつながりを持ったコバゼミの学生の一人から情報をもらったことがきっかけだった。そこから過去のコバゼミ生のブログを見て、様々な個性を持った学生たちが一つになって本気で活動に取り組んでいるという点に興味を抱き、今回の取材に発展した。筆者が探していたゼミは「一人ひとりが自身の性質やスキルを認識し、チーム全体のゴールにアプローチできる」ゼミ。「個々の化学反応」でも触れたが、コバゼミの学生は各自が「自分はこういうタイプ・キャラだからこうしていこう」としているのがインタビュー、学生が運営しているインスタグラムから見えた。

一つのチームとして共同研究やディベートに必死で取り組むコバゼミの皆さん。ディベートの結果には、こだわりを持ち、質の高いゼミ活動にしようという意識が実を結んだものだろう。コバゼミは単に「優秀な学生が選考で選ばれたレベルの高いグループによるゼミ」というだけではない。「高い課題意識、意欲を持った学生がチームになって互いに高め合えるゼミ」がコバゼミの姿なのではないだろうか。熱心にこれまでの活動を語り、自分の成長を期待する彼らは筆者の目にはキラキラして見えた。

【Student’s Eyes】
■取材当日私たちを校門まで送り迎えしてくれ、関東からきたことを労ってくださった温かいコバゼミの皆さん。事前アンケートからストイックで厳しいゼミという印象を持っていましたが、ギャップを感じました。懸命に活動に取り組む話を聞いていて、応援したくなるゼミだなぁと思いました。(佐藤)
■「『2:6:2の法則』における中間層をいかに活性化させるかで組織の充実度が違ってくる」という小林先生の言葉が印象的でした。学生たちが自身の持ち味を存分に発揮することで「組織の中の自分」が際立ち、自信を持ってゼミに参加できるような環境へつながるのではないかと感じます。(谷本)
■先生が学生との面談で重要視する「大学生活に対する問題意識がどのくらい明確か、また将来のビジョンに対して今の大学生活がどのように位置付けされているか」という言葉に私自身がはっとさせられました。これを面談で確認するからこそ小林ゼミには行動力のある活発なメンバーが集まるのだと思いました。(矢野)