Opinion:学びたくなる職場はどのようか【Opinion.6】中長期の学習こそ必要な理由とは

大人の学び研究の視点から  辰巳哲子(リクルートワークス研究所)

本プロジェクトでは、個人が行う学びを、仕事にすぐに役立つ「仕事直結学び」と中長期の個人のキャリア形成に役立つ「キャリア形成学び」に分類し、それぞれの学び行動に影響する組織の支援策を明らかにしてきた。近年、仕事に直結するインプットを中心とした学びは、知識やスキルを手軽に吸収できる環境が整ってきたこともあり、企業としての導入も増加傾向がみられている。仕事にすぐに役立つスキルを社員に身につけさせることで、その後のパフォーマンスに期待する企業も多い。

図表1 仕事直結学びとキャリア形成学び
仕事直結学びとキャリア形成学びでは、仕事にすぐに直結はしないものの、中長期的な個人のキャリアを考えたときに必要な、背後にある物の見方を学ぶことや(キャリア熟達型の学び)、自分の考え方に固執せず他者との対話を通じて柔軟に変化していける学び(自己変革型の学び)を企業はなぜ支援する必要があるのだろうか。

学び行動がその後のキャリア・学びに与える影響

分析の結果からは、企業がキャリア形成学びを支援する合理的な理由が示されている。図表2は、学んだことが、仕事・キャリア、およびその後の学びにどうつながっているのかを分析したものだ。結果からは以下のことが明らかになった。

仕事拡張(仕事の効率化やレベルアップ)には、仕事直結学びの影響が大きいのは自明だが、自己変革型の学び、ソリューション共創型の学びなど、対話型の学びが影響していたのは興味深い。キャリアイメージ明確化(次に学びたいことや将来のイメージを持つ)にも、キャリア形成学びに加え、ソリューション共創型の学び、自己変革型の学びといった、対話型の学びが影響している。この2つの学びの仕事・キャリアへの影響は、他者との対話が自分に足りない視点や考えに気づく機会や、自分だけではみえない将来イメージについての視座を得る機会につながっていると考えられる。

また、学び意欲(もっと詳しく理解したい)には、仕事直結学び、課題解決型・自己変革型の学びが影響していた。日々の仕事の中で気づいた知識や経験の不足を補ったり、変化し続けていくことの必要性を感じたりする機会が、学び意欲を高めることが示唆された。

自主的な学習行動(この1年間で自主的な学習時間が長くなった、自分の意思で仕事に関わる知識や技術の向上のための取り組みをした)に最も影響していたのは、キャリア形成学びだった。次に影響していたのは仕事直結学びであり、他者とアイデアを持ち寄って議論するソリューション共創型学び、独学で行う中長期のキャリア熟達型の学びの影響もみられた。目前の課題を題材にした対話型の学びは、各自のアウトプットが求められることもあって、自主的な学びにはつながりやすいのだと考えられる。キャリア熟達型の学習も中長期の個人の成長を目的に行われることから、自主的な学習につながりやすいのだろう。

仕事に直結する学びを進めることで、目の前の仕事はレベルアップできる。しかし、中長期のキャリア形成を見据えた学びの効果は、将来イメージを持つだけでなく、目前の仕事のレベルアップにも影響している。個人が自分の中長期のキャリア導線を踏まえたうえで、目の前の課題に向かうことは、今の仕事のレベルを上げることにもつながっていると考えられる。

図表2 学び型別、仕事・キャリアや学びに与える影響
学び型別、仕事・キャリアや学びに与える影響※学び型の測定は5件法(1.あてはまらない、2.あまりあてはまらない、3.どちらでもない、4.ややあてはまる、5.あてはまる)。数値は重回帰分析における標準化回帰係数(5%水準以上で有意な係数のみを記載。太字は1%水準で有意)

キャリア形成につながる学びを促進する組織づくりのために

キャリア形成学びは、キャリアイメージ明確化のみならず、仕事拡張にも影響していることが示された。ではどのようにキャリア形成学びを進める組織を作るのか。実は組織のタイプによってキャリア形成学びの促進要因は異なっていた(図表3)。組織タイプ別に解説しよう。

制度充実タイプ自律的なキャリア形成支援の制度取り入れているでは、仕事要因では、仕事を通じた社内協働・社外協働の機会がある、明確な専門性があることが、キャリア形成学びを促進する。
個別対応タイプ(制度がかなり少なく、日々のマネジメントで個別対応)では、職場要因では、長期的な成長に必要なアドバイスが得られる、何を学ぶべきかアドバイスしてくれる、仕事要因では、仕事を通じた社内協働があることが、キャリア形成学びを促進する。
日本的雇用タイプ(年功的な賃金や昇進制度。日本的雇用を守る)では、職場要因では、上司と将来のキャリアイメージを共有している、仕事要因では、社内との協働機会、明確な専門性があることが、キャリア形成学びを促進する。
現場支援タイプ(育成に上司が積極的に関与、現場での仕事を通じたキャリア支援)では、仕事要因として明確な専門性があること、社外との協働機会があることが、キャリア形成学びを促進する。そしてキャリア形成学びが促進されることが、自主的な学習行動を促進しているのだ。
さらにどの組織においても共通していたこととしては、上司とキャリアイメージを共有できていること、社外と協働する仕事があるほど、自主的な学習行動が促進されるということだ。
この一連の結果からは、組織タイプ別に自主的な学習行動を促進するための職場支援のあり方は異なっていることが明らかだ。ぜひ自社の組織タイプにあわせて必要な学びの環境づくりを行ってほしい。

図表3 自主的な学習につながる、職場・仕事要因とキャリア形成学び
自主的な学習につながる、職場・仕事要因とキャリア形成学び※1.全体標本を対象とし、キャリア形成学びを目的変数に職場変数と仕事変数を説明変数とする重回帰分析を実施し、変数選択法を用いて、有意となる変数を特定。次に1で有意となった変数を用いて、組織タイプを集団とする多母集団同時分析を実施した。第1水準に職場変数と仕事変数、第2水準にキャリア形成学びの実施状況、第3水準に自主的な学習を投入し、修正指標に基づき、第1水準から第3水準へのパスとして、「上司とのキャリアイメージの共有」および社外との協働機会を仮定し、再度分析を実施した。

注)4つの組織タイプ
各制度の導入状況をもとにしたクラス分析を行い、組織タイプを以下の4つに分類した。
詳細は、4つのタイプとその特徴を参照のこと。

文責:辰巳哲子