対話型学びの効果をさぐるアウトプットの効果を測定する ―職場実験

本コラム連載1本目の「学び方はどのように変わったのか」でも取り上げたように、対話型社会の学び方で重要なのは、アウトプットだ。
職場での「アウトプット」の機会が増えると、組織にどのような変化があるか。ワークス研究所では2種類の実験をおこなった。今回は、ある職場での発言によるアウトプット実験を通じた、8名のメンバーの変容を報告する。

実験概要

管理職には、「会議の場での発言の影響を見るための実験」とだけ伝え、実験参加者である管理職より、参加者に対して「会議での発言を増やしていきたい」との意向について、告知をしてもらった。毎回の会議中に名の発言機会を設け、「仕事の中で最近気づいたこと、気になっていること」について3分ほどで発言をしてもらい、各発言のあとで、自ら発言に対するフィードバックを求めた。会議終了後にメンバーの行動や意識、組織の状態について、5分程度の調査を実施した。
会議は、2019年8月から9月にかけて、会議室において1週おきに対面でおこなわれた。Pre調査からPost調査までの期間は20日間である。

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■想定される変数間の関係性

この実験では、発言の機会を持つことが、個人の発言に対する態度と組織に対する認知に及ぼす影響を検証した。

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■仮説

<自分の発言に対する態度>
①発言に対する効力感が高まり、発言頻度が増える
②仕事や会社に対する興味関心が高まる、その結果、「知りたい気持ち」が高まり、学習行動が促進される
<組織に対する認知>
職場に対する態度(心理的安全性など)が向上する

調査内容(抜粋)

会議での発言機会があることが、以下の行動や効力感、学び方、組織の状態にどのような影響を与えるのかを調査した。

図表3.jpg

調査結果

対人型の学び行動、発言の効力感、学び方、組織の状態に対する変化の有無を平均値の比較(t検定)によって分析した。統計的に有意な結果は、以下のとおりである。

対人型の学び行動

*事前事後の得点について、統計的に有意な変化がみられたのは以下の項目である。
・同僚と仕事にまつわる情報や意見・感想を共有する
・同僚と仕事の問題点や解決策を相談する
・直属の上司と仕事にまつわる情報や意見・感想を共有する
・直属の上司と世間話やプライベートに関する雑談をする
・自分の考えを同僚に対して発言する
・自分の考えを上司に対して発言する

*変化が確認されなかった項目は以下の項目である。
・同僚と職場や会社の将来に対する意見交換
・同僚とプライベートに関する雑談
・直属の上司と仕事の問題点や解決策を相談する
・直属の上司と職場や会社の将来に対する意見交換をする

・これらの結果からは、個人の考えの発信や日常的な仕事の意見交換が活発化したことが示されている
・一方で、より長期的(会社の将来)で、踏み込んだ内容(プライベートの雑談)について会話内容の変化がみられていないことが示された。

発言の効力感

*事前事後の得点について、変化がみられた項目
・堂々と自分の考えを発言する
・周囲の反応を見ながら話の進め方を調整できる

*事前事後の変化が確認されなかった項目
・自分の考えを発言して、周囲にわかってもらえる自信がある
・発言する際は、場違いなことを言わないか気になる
・相手に合わせてわかりやすく話をすることができる
・話をしているうちに何が言いたいのかを見失うことがある

効力感に関しては、「組織の中で自分の意見が言える」ということに対する効力感は上昇したが、その一方で、内容の理解を促すような発言方法や、場を捉えた発言の効果はみられていない。

学び方

・決定したことは、結果が出るまでやりきっている
・過去の失敗や成功を振り返って検証し、次に活かしている
・これまでのやり方にとらわれることなく、新たなやり方や考え方を取り入れている
など、学び方については変化がみられていない。

組織の状態

・職場では、故意に他のメンバーの努力を損ねるようなことはしない
について、統計的に有意な変化がみられた。

心理的安全性では、もっとも浅いレベルでの安全項目が変化している

アウトプットの効果として見えてきたこと

今回の職場実験では、会議で自分の意見を発言するというアウトプットの機会を通じて、個人または職場にどのような効果があるのか、検証した。
その結果、会議における「自分の意見の発言」は、発言に対する効力感が高まり、会議以外の場での日常的な仕事の意見交換をする頻度が増えることが明らかになった。
2種類目の実験では、実験規模を拡大し、「アウトプット行為」の単純効果を報告する。

※実験協力 組織行動研究所 主幹研究員 今城志保