いま問われている、「集まる意味」をどう考えるか「集まる意味」とは何だったのか リアル/リモートの二元論を超えて

「オフィスに戻る」理由は何か

働き方改革、それに続くように訪れたコロナ禍によって、職場の集まり方は大きく変わった。コロナ下で各社から寄せられた報告では、テレワークによって個人の生産性が上がり、従業員のウェルビーイングが向上したことが報告されている。

テレワークはもはや「対面に代わる一時的な手段」ではなく、テレワークでないとできない、「効率的な情報伝達」や「集中した思考」の場として機能している。

一方で、テレワークの弊害として職場の一体感やエンゲージメントの低下を挙げる管理職は多く、その要因は「対面」や「会う」機会の減少にあると捉えられている。
2022年3月末時点の調査においてテレワークで働く個人にコロナ収束後の出社方針を尋ねたところ、テレワークとオフィス出社のハイブリッドと回答したのは65.8%であり、テレワークの廃止が検討されているとの回答が23.2%に上るのも、「対面」や「会う」機会の減少を危惧してのことだろう(図表1)。

図表1 コロナが収束した後の会社の出社方針
コロナが収束した後の会社の出社方針

職場の一体感やエンゲージメントの低下に対する対策として、定例会を増やしたり、オフィスでの対面ミーティングを強行したりして、「対面」や「会う」機会を捻出しようとしている企業も多く存在するが、こうした対応にはメンバーからの不満の声も聞かれている。テレワークでもできていた仕事を、なぜわざわざオフィスに出社してやらなければいけないのか? なぜ「対面」や「会う」ことにこだわるのか? その明確な理由が説明できない以上、メンバーは納得できないものだ。

その一方で、オンラインだろうと、対面だろうと、うまく集まることができている人や組織もある。この問題のポイントは、集まる手段をどうするか、ということではなく、平時にはあまり考えてこなかった、「集まること」の本質をどう捉えるかにあるのではないだろうか。

そもそも、私たちは集まることの本当の意味がわかっているだろうか。集まることの意味さえ明らかになれば、その意味を満たすための最良の方法を考えればよいのであって、リアルかオンラインかという議論ではなく、それぞれのよいところを選びつつ、不足を埋める方法を生み出せばよいはずだ。

集まる意味とは何だったのか

人間が社会的動物である限り、人と人との連携や協力する喜びを手放すことはできない。
本来、組織としての一体感や帰属意識は、他者との関係のなかで、仕事を通じて自分を生かせること、その関係のなかに所属していたいと思えることで高まるものだ。
ただし、関係は目に見えない。実体のない「関係」を実感できる唯一の場、それこそが会議など、組織で集まる場なのである。

しかし、「一言も声を発しない会議」「自分がいてもいなくても結論に影響しない集まり」「参加者の意見が反映されない結論ありきの場」など、私たちはこれまでにも、集まる意味がよくわからない場に多く参加していたのではないだろうか。このような場はこれまでにも存在していたはずだが、オンラインになったことで、その存在がより明らかになった。

データが語る「集まる意味」で明らかになったことを概観すると、コロナ下で「集まり方」が大きく変化し、伝達を目的とした集まりはオンラインに置き換わったことで参加しやすくなり、これまでオフィスで集まることが難しかった個人にとっては仕事の成果を上げやすい環境になった。一方で組織としての成果に着目すると、雑談などの非公式の集まりが減ったことで、組織としての新たな意味や価値を付与し合う、「意味生成の場」としての集まりは減少した。そして、そのことによって職場の一体感やチームワークについての懸念が高まっていることが示唆されている。

そこで、どのような集まる場が個人や組織のパフォーマンスに影響しているのか、集まる場とその効果の関係について分析した(図表2)。

図表2 集まりとパフォーマンスの関係

集まりとパフォーマンスの関係注:n=4,204を集まりの因子得点別に3群に分け、高群と低群を比較した。***は統計上有意な差がある。

気づき・自己開示・一体感・感情共有の場があることが、仕事の効率性、職場の一員であること、新たな取り組み、生き生き働く、それぞれのポイントを押し上げていることが示されている。

組織課題としての「集まる」を攻略する

リアル/リモート問わず、組織で集まることの意味は、見えない関係を可視化することにある。職場の心理的安全性が組織のパフォーマンスに影響するように、「集まり」もまた、組織戦略の一部であると考えられる。本プロジェクトでは、紹介した企業以外にも、日々の「集まり方」の工夫について聞いている。最後に、集まることに課題を感じ、その方法を考え始めた組織の事例の一部を紹介する。

◎大人数で事業部の期初方針を聞いた後、以前ならそれに対し、どう考えたのか、お互いの意見を議論する時間があった。今はオンラインなので、他の人がどう聞いたのか、わからない
・「他の人がどう聞いたのかがわからない」ことで不安になることがある。そのため、オンラインの一斉配信で聞いた後、役職が混在したブレイクアウトルームで集まり、今の話をどう聞いたのか、今後どのように仕事に生かすのか、話し合う時間を作っている。

◎オンラインで定例mtgを行っているが、結果の共有が効率よく行われるようになったメリットがある一方で、プロセスの共有ができなくなった
・「しくじり先生」と題して部長の仕事でのしくじり経験を話してもらう場を設けた。
・先輩たちがオンラインで指導を受ける場を新人にも公開。新人が自分の将来イメージを持ちやすくなり、どうすればそこにたどり着けるのか、が可視化された。

◎他者からどのように見られているのかがわからなくなった。思い込みで、事実確認のないまま議論が進んでしまうことも。互いの誤解が生まれやすい
・認知バイアス(情報を誤って解釈してしまう思考エラー)にどのように影響されているか、自覚的になるように組織に「理論」を共有した。他者への反応や感謝を丁寧に伝えるようにした。
・オンラインだけでは、相手の目に映る「自分」のことがわからなくなる。気軽な提案とフィードバックを得るための時間を設けるようにした。

◎偶発的な場を作りづらくなった
・誕生日順、動物占いのグループなど、ランダムグループを作るような仕掛けをし、社の方針を話すような場ではランダムグループで議論してもらうようにしている。
・社内の勉強会をワークショップ形式にし、その時のグループで勉強会後に定期的な振り返りをしてもらうように。普段つながりのなかった他者とつながるきっかけづくりとして。
・オンライン学習を取り入れ、希望者を募った上で学びについて情報交換できるチャットグループを作っている
・全社の「係活動」を始めた。指定された係に入ってもよいし、自分で作ってもよい。係活動にしたのは、どの社員にも貢献できる役割があることを重視しているから。小さなリーダー経験の場として機能している。


◎単発の情報共有は増えたがストーリーがつながらず、成功をともに喜ぶ機会が減った
・営業成績のよい人を表彰するときに、その人の日々の営業ストーリーを3年目までの若手社員でビデオ制作。共有の場を持った。
・「誉れ感」を出すために、授賞式では受賞者はリアルで集め、ストーリーを語ってもらった。他のメンバーは視聴者としてオンラインで参加。

◎採用活動の際に1on1では社風が伝わりづらい
・オンラインとリアルのいずれの場合でも、社内の関係性が伝わるように2名以上の社員が会話をしながら進めるようにした。
(※)

何より大切なのは、「集まる場」をすべての人にとって意味あるものにすることだ。それには、個人がその人らしさを発揮することと、場への貢献感を引き出すことが欠かせない。

意味ある集まりにするために

これまでに見てきたように、組織にとって「集まること」は、組織としての実体を確認する場面である。
集まることの意味は、常に流体のように動的に作り出される。変化し続ける個人が異なる視点や新たな経験を持って集まることで、集まったときに紡ぎだす組織としてのストーリーもまた変化し続けるだろう。

カンパニー(company)の語源は、「コミュニオン」、すなわち「ともに集まる仲間」だという(中原,2022)。新たな時代のコミュニオンをどのように作るのかが、私たち一人ひとりに問われている。

(※)スペースの関係で詳しくは触れていないが、こうした事象の一部は、「共通知識」「センス・メイキング」「メンタルモデル」「システム思考」「認知的不協和」「認知バイアス」「差異の意味づけ」「共有ビジョン」「クリエイティブテンション」などの理論・キーワードで説明することが可能だ。場を改めて記したい。

調査概要
■調査名称:学習の阻害要因に関する調査(調査の一部で「集まること」について尋ねた)
■手法:株式会社インテージのモニターを用いたインターネットモニター調査。
■期間:2022/03/23 ~ 2022/03/28
■対象:従業員100名以上の企業で働く大卒正社員20-69歳。年代と性別で割付
■有効回答数:1771名(回収率 9.2 %)