労働需給シミュレーション20402040年の生活維持サービス充足率(都道府県別シミュレーション)

生活維持サービスの労働需給を予測する

リクルートワークス研究所が2023年に発出した「未来予測2040」では、生活を担うサービス(生活維持サービス)に注目し、生活維持サービス7分類と事務、技術者、専門職を加えた計8分類で需給シミュレーションを行った。ここで私たちの日々の生活を支える「生活維持サービス」として分析した職種は、「輸送・機械運転・運搬」「建設」「生産工程」「商品販売」「介護サービス」「接客給仕・飲食物調理」「保健医療専門職」の7職種である。この7職種の日本全体の労働需給シミュレーションについては、未来予測2040報告書をご覧いただきたい。労働供給制約に直面しつつある日本で、2040年には特に生活維持サービスの労働供給制約が深刻な状況に陥ることがわかっている。

本レポートでは、生活維持サービスについて都道府県別にシミュレーションした結果を示す。上記7つの職種「生活維持サービス」について各都道府県でどの程度足りる・足りないのかをシミュレーションした結果である。なお、詳細な各分類に含まれる職種および推計概要については脚注をご覧いただきたい(*1)(*2)

職種別シミュレーション結果

「未来予測2040」報告書に掲載した、全国における職種別シミュレーションの結果を解説する。

まず「輸送・機械運転・運搬」職種である。既に人材の大きな不足が顕在化している職種であるが、2030年に37.9万人、2040年には99.8万人の労働供給不足に達することが推定される。2040年の労働需要(413.2万人)に対する不足率は24.2%に達し、つまり「4人必要な仕事に3人しかいない」状況だ。特にドライバーの供給制約が顕著となる地方部などでは、配送が全くできない地域、著しく遅配することが前提となる地域が生まれてくるだろう。

「建設」では、2030年に22.3万人、2040年に65.7万人の労働供給不足が推定される。2040年の労働需要(298.9万人)に対する不足率は22.0%であり、道路のメンテナンスや災害後の復旧に対して手が行き届かず、重大な事故の発生や崩落したままにせざるを得ないインフラが生じる可能性が高い。

「生産工程」では、2030年に22.1万人、2040年に112.4万人の供給不足が見込まれる。2040年の労働需要(845.0万人)に対する不足率は13.3%で、2040年の日本社会においては比較的足りている職種と言えるかもしれない。しかし、不足しているのは確かで、海外から生産拠点を戻したり、新規に大規模な生産工場を建設する際には労働力の確保がボトルネックとなり断念せざるを得ないかもしれない。また、生活面では国内生産が中心の製品で、徐々に品不足が顕在化する恐れがある。

「商品販売」では、2030年に40.2万人、2040年に108.9万人の供給不足。2040年の労働需要(438.5万人)に対する不足率は24.8%で、特に地方の小売店は無人化によるサービス水準の低下は避けられない。

「介護サービス」職種は、介護職員や訪問介護従事者を指すが、2030年に21.0万人、2040年に58.0万人の供給不足が見込まれる。2040年の労働需要(229.7万人)に対する不足率は25.2%であり、全国で平均しても例えば「週4日必要なデイサービスに、スタッフ不足で3日しか通えない」という状況が“標準的な”状態となってしまう。

「接客給仕・飲食物調理」職種は、2030年に17.0万人、2040年に56.6万人の供給不足。2040年の労働需要(374.8万人)に対する不足率は15.1%である。

「保健医療専門職」は、医師・看護師・薬剤師等の医療従事者だが、2030年に18.6万人、2040年に81.6万人の供給不足。2040年の労働需要(467.6万人)に対する不足率は17.5%である。今後更に高齢化が進む中、否応なく人の力が必要な職種であるが、供給不足が慢性化することで、診察を受けることが難しくなり、救急車を呼んでも受け入れられる病院がないなど、私たちの生活に大きな悪影響を及ぼす恐れがある。

都道府県別 生活維持サービス充足率シミュレーション

日本全体で、2030年に341万人余、2040年に1100万人余の労働供給が不足することを「未来予測2040」報告書は示している。しかし、都道府県別で見ていくと産業構造が異なれば、働いている人の多い・少ない産業や職種も当然異なる。そこで、上記で示した生活維持サービスについて、都道府県別でシミュレーションを行った。ここではその結果を説明する。上述のとおり、生活維持サービスに分類される7職種の値を合計した形で都道府県別に状況を示していく。

まずは以下の図表をご覧いただきたい。都道府県別の生活維持サービスの充足率予測を示した(なお、示したものは充足率であり、この数字を100%から除したものが不足率と言える)。

本データのポイントは、都市圏と地方圏で需給ギャップの傾向が異なることである。東京都、千葉県、神奈川県、大阪府といった特定の都市圏では、2040年段階で他のエリアに比べて労働需給ギャップがあまり発生していない。また、2030年時点では福岡県でも需給ギャップがあまり大きくないようである。この背景には人口の流入がある。総務省統計局による住民基本台帳人口移動報告 2020年(令和2年) 結果を見ると、上述の都市圏では若年層の人口流入が多くあった。このような流れで、都市圏では比較的需給ギャップが大きくならないのであろう。

図表: 都道府県別「生活維持サービスの充足率」 シミュレーション結果(*3)

2030年 2040年   2030年 2040年
北海道 91.7% 65.3% 滋賀県 92.7% 76.7%
青森県 88.1% 64.7% 京都府 86.0% 58.6%
岩手県 85.5% 59.1% 大阪府 充足 充足
宮城県 93.9% 70.7% 兵庫県 88.4% 62.9%
秋田県 89.6% 73.7% 奈良県 92.7% 77.6%
山形県 87.4% 65.1% 和歌山県 93.6% 77.3%
福島県 83.1% 62.9% 鳥取県 88.4% 69.0%
茨城県 91.3% 69.1% 島根県 95.7% 89.1%
栃木県 88.9% 67.6% 岡山県 91.8% 70.2%
群馬県 92.0% 70.0% 広島県 90.9% 69.0%
埼玉県 95.8% 95.6% 山口県 88.9% 69.4%
千葉県 充足 充足 徳島県 86.6% 65.7%
東京都 充足 充足 香川県 89.5% 73.6%
神奈川県 充足 充足 愛媛県 87.9% 63.6%
新潟県 84.8% 58.0% 高知県 89.0% 69.2%
富山県 90.6% 73.1% 福岡県 充足 93.1%
石川県 95.6% 79.0% 佐賀県 93.0% 80.2%
福井県 94.1% 82.0% 長崎県 90.5% 73.8%
山梨県 94.0% 79.2% 熊本県 90.2% 69.7%
長野県 86.3% 60.1% 大分県 93.9% 79.3%
岐阜県 88.3% 64.1% 宮崎県 85.1% 65.3%
静岡県 91.7% 70.3% 鹿児島県 89.8% 71.1%
愛知県 92.9% 70.4% 沖縄県 91.9% 71.8%
三重県 93.5% 81.6%

シミュレーション結果と向き合う

本レポートの締め括りとして、本シミュレーションモデルの構築方法を踏まえた、結果の受け止め方について概括しておく。シミュレーション結果を検討するにあたって大切なことが2つあると考える。シミュレーション結果が「2040年に絶対そうなる」ことを示すものではないということ、また、それを踏まえて自分たちができることを考えるため出発点としたいということだ。

ここでのポイントは大きく2点。第1に、シミュレーションモデルは「過去の社会」を前提にして、将来を予測しているということである。冒頭で述べたとおり、本シミュレーションでは、2019年までのデータを用いてモデルを構築し、将来の労働需給を予測している。つまり、過去を起点にしたモデルが将来においても成り立つという仮定を、このシミュレーションモデルがもっているということになる。具体的な例を1つ挙げたい。労働供給のシミュレーションにおいては、女性のみ有配偶と無配偶を分けたモデルになっている。一方、男性では配偶者の有無を考慮したモデルにはなっていない。つまり、男性では労働力率と配偶者有無が無関係であるのに対し、女性では配偶者有無によって労働力率の要因や構造が異なることを意味している。従来の日本社会における典型的な性役割分業が反映されたモデルとしては妥当と言えるだろう。

これに対し、「日本では共働き世帯が増加トレンドにある。それを踏まえると、将来の日本では男性も女性も配偶者有無にかかわらず労働参加するようになる可能性が高いので、今回のシミュレーションモデルでも、男性、女性ともに配偶者有無を考慮しなければ良いのでは?」という指摘が考えられる。確かに、労働政策研究・研修機構(JILPTが労働力調査をもとに集計したデータを見てみると、共働き世帯は2000年頃から専業主婦世帯を上回りはじめ、2022年時点では共働き世帯が1262万世帯、専業主婦世帯が539万世帯と、共働き世帯の方がかなり多くなっていることがわかる。

ただ、そうした直近の変化や理想をもとに、女性の労働力率のシミュレーションモデルを変更しようとすれば、そのモデルは恣意的な仮定を重ねたモデルになってしまう。結果、過去の社会や労働、雇用等の実態とかけ離れたモデルとなり、シミュレーションの精度自体が悪くなってしまう可能性もある。今回のモデル作成にあたっては、先行研究を踏まえた理論的な枠組みを大切にすることで、多くの人が理解しやすく、議論が発展していくことを重視した。

もちろん、2040年の未来において、今回構築したモデルの前提となる社会や労働の状況が現在と同じかと言えば、そうではないであろう。男性だけでなく女性においても、配偶者有無で分割しないモデルの方が高い精度を実現できるかもしれない。このような変動の可能性は、様々な仮定をもとに行う、数値的なシミュレーションがもつ制約の1つとも言える。逆に言えば、社会や労働のあり方にアプローチすることで、労働供給制約という問題に立ち向かうことができるという事実を示すものでもある。シミュレーション結果は確かに1つの予測ではあるが、解決可能であり、働き手が足りないことに悲観的になりすぎる必要はないのである。

我々が考えるべきことは、「座して待てば」起こってしまう労働供給制約社会の未来に対して、社会や労働のあり方をどう変えられるかということだ。どのようにすればより多くの人が労働に参加できるようになるか。参加できないとしたら壁は何か。我々はどのような手を打てるのか。

データがあれば、数字があれば、私たちは議論を始めることができる。シミュレーションの結果に、ただ悲観したり諦観したりするのではなく、予測される未来を数字で直視し、今から具体的な一歩を踏み出すことで、未来を変えるために動いていきたい。

執筆(シミュレーション WG 担当):中村 星斗

(*1)主に以下のような分類となっている。「輸送・機械運転・運搬」: 自動車運転従事者、配達員、倉庫作業従事者、鉄道運転従事者等 「建設」: 建設・土木作業従事者、電気工事従事者等 「生産工程」: 製品製造・加工処理従事者、機械組立従事者、機械整備・修理従事者等 「商品販売」: 小売店主・店長、販売店員、商品訪問・移動販売従事者等 「介護サービス」: 介護職員、訪問介護従事者 「接客給仕・飲食物調理」: 飲食物調理従事者、接客・給仕職業従事者 「保健医療専門職」: 医師、歯科医師、看護師、薬剤師、保健師、助産師、臨床検査技師等
(*2)職業別の労働需給予測は、国勢調査を用いて産業ごとの職業構成比を作成し、その構成比を用いてシミュレーションモデルから得られた労働需要および労働供給の値を按分することで行った。なお労働供給は性・年齢階級別に求めているため、それらの合計をまずは産業別に按分し、産業別の労働供給を求めてから職種別に按分している。按分の方法について、労働需要では生活維持サービスに必要な労働需要の割合は一定であるという前提のもと、令和2年国勢調査の職業構成比を2040年まで単純延長した。労働供給では、労働条件や労働環境等の諸要因から、労働需要側の変化にかかわらず労働力が移動あるいは離脱しているといった状況を想定した。この想定を予測に反映するため、平成27年、令和2年の国勢調査から職業構成比の平均変化率を求め、その数値を用いて2040年までの職業別労働供給を計算した。
都道府県×職種別シミュレーションにおいては、按分に用いた産業ごとの職業構成比が、産業ごとの「都道府県×職業構成比」になっており、これを用いて産業ごとの労働供給を都道府県×職業のデータに変換した。ただし、都道府県・職業構成比の平均変化率を計算する際、区分を細かくすることでサンプルサイズが小さくなり、極端な平均変化率を示す都道府県・職種が発生することが想定された。その値によって非現実的な推計になってしまうことを避けるため、前年からの変化率が+0.3%を上回る場合は+0.3%を変化率の上限とする制約を適用している。本来+0.3%を超えていた分は、総務省統計局発表の住民基本台帳人口移動報告の結果を踏まえ、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、福岡県に分配した。
(*3)充足率(%)=労働供給推計量÷労働需要推計量×100。なお、充足率が96.0%以上のものについては労働需給が均衡可能な状況とみなし、「充足」と表記した。