機械化・自動化で変わる働き方 ―運輸・建設編用語解説【運輸編】

フィジカルインターネット

インターネット通信では、データの塊をパケットという形で定義し、パケットのやりとりを行うための交換規約(プロトコル)を定めることにより、回線を経由する不特定多数での通信を実現した。フィジカルインターネットとは、このインターネット通信の仕組みをフィジカル、つまり物流の世界に適用しようという考え方のことである。

フィジカルインターネットは、「コンテナ」「ハブ」「プロトコル」という3つの基本的要素で構成される。「コンテナ」は規格化された輸送容器で、パレットなどが代表的だがこれのサイズ、規格の定義・統一化が重要な鍵となる。「ハブ」はコンテナの結節点となる場所で効率的な積替作業を行う。「プロトコル」は貨物や情報を連携するための統一規約で、これらの整備が物流業界全体の自動化・機械化の前提条件となる。

港湾における荷捌きはかつて手積み・手降ろしで行っていたが、海上コンテナがISO規格化されたことにより、過去50年間で港湾における荷捌きのコストは10分の1になっており、フィジカルインターネットはこうしたシフトをイメージしたものと言える。

SIPスマート物流サービス

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は、内閣府の「総合科学技術・イノベーション会議」が府省の枠や旧来の分野を超え、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクト。各分野の課題を強力にリードするプログラムディレクター(PD)を中心に、産学官連携を図り、基礎研究から製品・サービス開発、実用化・事業化までを一気通貫で推進する。「SIPスマート物流サービス」では、オープンでセキュリティの担保された物流・商流データ基盤を構築、サプライチェーン全体の最適化を図り、物流分野でのデータを活用した新しい産業や付加価値の創出を図る。これにより、物流・小売業界の人手不足や低生産性といった課題の解決を目指す。また、構築したデータ基盤内のデータのうち公開可能なものを広く開放し、大学などのアカデミア、ベンチャー企業に対して活用を促すことにより、若手研究者の育成、新産業創出、災害時物流確保などにつなげていく。

後続車無人隊列走行システム

トラックの隊列走行は、複数のトラックが連なって自動で車間距離を保って走行すること。なかでも「後続車無人隊列走行システム」は、後続トラックには運転手が乗らずに、先頭車両のドライバーだけで複数台のトラックを追従走行させるシステムを指す。

経済産業省・国土交通省では、トラックドライバーの不足や高齢化、燃費の改善など物流業界が直面する課題の解決に向けて、高速道路におけるトラックの後続車無人隊列走行技術を実現することを目標として、車両技術の開発・実装実験を行っている。2020年には新東名高速道路の一部区間において、実際に後続車運転席を無人とした状態での後続車無人隊列走行を実現した。今後の取り組みとしては、「2025 年度以降の高速道路におけるレベル4自動運転(走行ルートなど特定条件下での完全自動運転)トラックの実現を目指し、高性能トラックの運行管理システムについて検討を行う」ことが掲げられている。

AI活用によるラストワンマイルのスマート化

ラストワンマイル(1マイル=1.6㎞)とは、物流プロセスにおいて配送の最終拠点から事業所や個人宅などへ商品を届けるまでの最後の1区間のことを指す。この領域はEC(電子商取引)の拡大で荷物数が増え続ける一方、再配達などによる非効率が課題となっており、宅配事業者などはAI活用によるルートの最適化に取り組む。

例えば佐川急便では家庭の電力使用状況を分析して在宅なのか不在なのかを予測するAIを活用し、再配達や車両の走行距離を減らすための最適な配達ルートを示すシステムの開発に取り組む。日本郵便では物流スタートアップと連携し、AIを使って自動作成した配達ルートをドライバーがスマートフォンで確認できるシステムを試行している。

自動配送ロボット

自動配送ロボットとは、郵便配達や通販で購入したものの配達などを人に代わって行う自律型のロボットのこと。宅配需要の高まりと担い手不足が同時に進むなか、ラストワンマイル配送網を維持することへの貢献が期待されている。既にイギリスでは宅配ピザを届けたり、中国ではECサイトが配達に使ったりと実用化されている例もある。ただ現状では到着までに時間がかかることから、配送圏を限定したり、施設内のみで運行するといった利用法も期待される。国内では2022年4月、低速・小型の自動配送ロボットの公道走行に関する規定の整備を含む、道路交通法の一部を改正する法律が成立、2023年4月までに施行される見込みである。これにより一定の要件を満たす自動配送ロボットは、届出制のもと、人による遠隔操作で、歩行者と同じ歩道などを、最高速度6km/hで通行できるようになる。2023年全面開業予定の「東京ミッドタウン八重洲」では、館内のデリバリーや清掃、運搬をロボットが行う予定。経済産業省では、複数台のロボットを、同時に、少人数で遠隔操作を行うための技術開発・実証に対する支援や、官民が連携したコスト低減策の整理など、社会実装に向けた取り組みを進めている。

ドローン物流

ドローンは、無線操縦が可能な無人航空機の総称である。国土交通省は、2022年度中に「有人地帯での補助者なし目視外飛行」(レベル4飛行)を実現することを目標に法整備を進める。この目標が実現すれば、都市部でもドローンを用いた無人配送が可能になる。ドローンを物流に活用するメリットとして、①交通渋滞の影響を受けない、②荷物の運搬に人の手を必要としない、③専用空域が道路より低コストで整備可能などがある。山奥や離島などへの配送が可能で、災害時に緊急物資を運ぶ手段としても利用できる。

中国では既に医療物資を販売業者から病院へ運搬するのにドローンが活用されている。日本では離島や山間部での補助者なし目視外飛行(レベル3)が認められており、日本郵便の奥多摩町でのドローン&配送ロボットの配送実験や楽天の「そら楽」による試験サービスなどが始まっている。普及に向けた課題としては、安全性の確保や事故発生時の補償をどうするか、技術的にはドローンの大型化、自律飛行中に他の電波干渉に遭わないための対策をどうするかといったことがある。

ドローン物流は将来的に人手不足が深刻なトラック輸送などを一部代替すると期待されており、調査会社の試算では、国内ドローンビジネスの市場規模は2019年度の1409億円から2025年度に6427億円まで拡大する見込みである。