何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―コロナ禍における、企業規模間格差 茂木洋之

2020年、人と人の接触抑制により、生産活動の多くが機能不全に陥り、経済が著しく停滞した。ソーシャルディスタンスとテレワークが注目され、雇用形態や業種の観点からコロナ禍の影響が考察された。一方、企業規模に着目した研究は少数にとどまっている。実際には、雇用調整助成金など、中小企業の雇用を救済・維持することを目的とした政策も多く実施されてきた。そこで書籍の第5章では、全国就業実態パネル調査(JPSED)のパネルデータの特性を活かして、企業規模間格差について考察している。本コラムでは、その一端を紹介する。

公的データでみる規模間格差

日本における規模間格差を公的データでみてみよう。図1は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」でみた、1980年以降の規模間賃金格差の推移である。まず一般労働者の、1000人以上規模の推移についてみると、1980年以降格差は拡大しており、バブル期のさなかである1987年に、最大の1.78まで拡大する。バブル崩壊後から2010年頃までについては、1.65程度の水準を維持している。しかし2010年以降は平均で1.55となっており、下降トレンドに入っていると言えそうだ。特に、2019年の1.49から、コロナショックのあった2020年には1.40へと、0.09ポイント低下している。つまりコロナ禍によって、格差は縮小したと言える。
また100~999人規模については、比較的安定している。全体的にみれば約40年にわたり、常に1.2付近を維持している。またコロナショックにおいても、ほとんど変化していない。

図1 規模間賃金格差の推移(一般労働者、短時間労働者)
図1 規模間賃金格差の推移(一般労働者、短時間労働者)

注1:2020年調査から推計方法や調査対象が変更になった。2020年調査以降の方法での遡及集計は現時点では2010年以降しかない。そのため2010年以降は改訂された集計法による遡及集計を、2010年以前は2019年調査までのもともとの公開データで集計している。2010年については、改訂集計法と改訂前の集計法の2通りを掲載している。
注2:1000人以上、100~999人規模の賃金を、10~99人規模の賃金で除して、その比率を計算している。一般労働者と短時間労働者でそれぞれ別に計算している。
出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

つまり1000人以上規模のみ、相対的に賃金が低下した。その理由を識別することは難しいが、一つの仮説として考えられるのは、労働分配率の低下である。2010年以降、様々な理由により労働分配率が低下していることが知られているが、特に1000人以上規模のような大企業に顕著に見られた。実際に、財務省「法人企業統計調査」で2009年と2018年の労働分配率を比較したところ、特に資本金10億円以上の規模の大きい企業について、労働分配率が64.8%から51.3%へ-13.5%ポイントと、他の規模の企業と比較して大きく低下していることがわかる。
詳細は割愛するが、短時間労働者については、一般労働者における規模間格差とは異なる傾向をもつ。コロナショックの前後でもそこまで大きな変化はなく、極めて安定していると言える。

パネルデータで、規模別の詳細をみる

次に、JPSEDを使用してこの実態をさらにみてみよう。表1は収入の変化を、規模を詳細に区分してパネルデータでみたものだ。

表1 平均収入の推移(企業規模別)表1 平均収入の推移(企業規模別)

注:xa20、xa21で各年それぞれウェイトバック集計をしている。

全体の変化は-0.2%となっており、コロナ禍で収入が減少していることがわかる。ただ、規模群ごとの内訳は非常に多様である。たとえば、5000人以上の大企業では、継続就業者は収入が+0.4%と伸びていた。パネルデータで考察しないと、低い収入で大企業に新たに雇用された人々が集計対象に入るため、このような事実はわからない。100~299人規模の企業についても、同様に収入が+0.2%と増加している。
このように収入の変化は規模によって、大きく異なるうえに、中小企業に勤める労働者ほど大きな打撃を受けた、というような話でもない。コロナ禍は規模に関して、不均一なショックだったことが見て取れる。企業規模で一律に区切って金銭補償するような政策が必ずしも正しいとは限らないことが示唆される。

茂木洋之(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
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