未来創造 キャリアの共助が広げる、働き方の可能性女性の再就職支援で「キャリア共助」が鍵となる理由 大嶋寧子

コロナ禍で大きな影響を受けた、女性の就業

コロナ禍により対面でサービスを提供してきた小売業、飲食業、宿泊業などが大きな影響を受け、これらの業種で家事や育児を担いつつパート・アルバイトとして働いていた女性の雇用が悪化している。総務省「労働力調査」と用いて、2人以上の世帯で世帯主の配偶者である女性について、2019年と2020年の就業状況を比較すると、正社員が若干増える一方、非正規雇用者や就業希望者が15歳以上人口の1%ポイント近く減少し、非就業希望者が1%近く増えている。

かつて配偶者のいる女性は、雇用情勢悪化時に家庭に戻る傾向があり、これが日本の失業率を安定化させる要因にもなってきた。その後、女性の就業が当たり前になる中でそのような効果は失われてきたものの、コロナ禍は学校の一斉休校や感染症への懸念など新たな問題を発生させ、多くの女性が仕事を離れたり、働く希望を一旦脇に置かざるを得なくなったと言える。

しかし、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が進み、経済が正常化に向かえば、再び仕事に戻る人も増えるだろう。コロナ禍以前の日本は深刻な人手不足の状況にあり、女性支援や地域経済の担い手確保の観点から、地方自治体が再就職を希望する女性の就労支援を充実させる動きも広がると予想される。

その時にどのような支援があればいいのだろうか。リクルートワークス研究所「ブランクのある女性のキャリア3千人調査」によれば、3年以上の離職期間を経て再就職した女性のうち約3割はその後に再び仕事を離れており、女性の就労支援においては単に仕事に就くことだけをゴールにするのでは不十分である。そこで以下では、再就職した女性が安心して働き続け、納得感のある仕事に就くためのヒントを、仕事や人生に関する選択を支え合う「キャリアの共助」という視点から考えたい。

再就職経験者のデータが示す、キャリアの共助の重要性

再就職前にどんなことをしていると、再就職後に働き続けたり、仕事に満足感や納得感を得やすいのだろうか。そんな観点から分析を行った結果見えてきたのは、自分ひとりでキャリアを築くのではなく、他者と仕事の希望を支え合う関係性を持つことが、再就職後に安心して働き続けて、納得感のある仕事に就くことに関わっている、ということである(※1)。

そんな関係性の一つは、夫婦間のキャリアの共助だ。再就職の時に夫が家事・育児に協力的だった女性とそうでない女性の2つのグループに分けて、再就職後の離職に関わる要因を分析した。すると、夫が協力的なグループでは女性がより長時間で再就職しても、仕事を続けやすいことがわかった。また、再就職時に夫が協力的だったことは、今の仕事を「大切な仕事」だと感じること、仕事で自分の持ち味を生かせていると感じること、自分なりの働く見通しを持つことと関わっていた。

とはいえ、男性が長時間労働であるなど、誰もが夫婦間でキャリアを支え合えるわけではない。しかしキャリアの共助という関係性は、家族・親族の外側にも作ることができる。再就職の際に夫が家事・育児に協力的でなかった女性に限定して分析をすると、再就職後にこれからの人生やキャリアについて「家族・親族のみに相談」した人と比べると、「家族・親族以外に相談した」人の方が働き続ける確率が高いという結果が得られた(図表1)。

図表1 再就職後の仕事やキャリアについての相談と離職

図表1.png出所:大嶋寧子(2019)「再就職した女性の就業継続と仕事満足 ―学び直し、仕事と育児の両立負担との関わりに着目して―」Works Discussion Paper Series No.28

キャリアの共助の重要性は、再就職前の学びの効果を分析した結果からも見えてくる。再就職前の独学や学校での学びは再就職後に仕事を続ける確率を高めていなかったが、大学や自治体講座での学びは再就職後に仕事を続ける確率を高めていた(※2)。大学・自治体では女性の再就職にフォーカスしたプログラムが提供されることがよくある。これらのプログラムでは、自分の状況にあった内容を学べるだけでなく、同じ境遇の人と知り合うこともできる。そうした関係性を伴う場だからこそ、これらの場所での学びが再就職後の女性のキャリアにプラスの影響を持ち得たのではないだろうか。

キャリアの共助はなぜ、再就職後の女性を支えられるのか

それではなぜ、キャリアの共助があると、女性が再就職後に仕事を続けやすかったり、仕事満足を感じやすいのだろうか。

第1に考えられるのが、キャリアの共助が心のよりどころ、仕事や人生を俯瞰してみる機会、ロールモデルとの出会い、新たな選択肢の発見などのきっかけを提供するということだ。再就職後も女性は家事・育児の大部分を担い続けるケースが多く、再就職後は家事や育児に十分な力を割けないストレスを感じやすい。
その時に家族・親族だけに相談しているとどうしても辞めるという選択が浮上しやすいのに対し、仲間がいることが勇気や客観的なものの見方、あの人も頑張っているから私もと思えるような内発的な動機をくれるのだろう。

もう一つ、キャリアの共助は再就職後のキャリアの探索を後押ししてくれるからこそ、納得感や満足感のある仕事を得やすくなると考えられる。夫との間に家事・育児の協力関係があれば、仕事と家事の両立ストレスは軽減される。失敗しても励ましてくれる仲間がいれば、新たな挑戦に踏み出しやすい。自分のちょっと先を行く知人がいれば、自分が新しいことに挑戦した時に、どんな結果になり得るのかを見通せる。

大事なのは、女性の就労支援に「キャリアの共助」を埋め込むこと

以上を踏まえると、これからの女性の就業支援においては、プログラムに支援者と参加者、あるいは参加者同士でキャリアを支え合えるような関係づくりの機会を設けることが重要ではないか。もちろん、これまでの就労支援でも結果的にそのような関係性が生まれるケースはあっただろう。しかし、再就職希望者同士の関係構築を目標の一つに位置づけることで、場の設計は大きく変わるはずである。

このようなキャリアの支え合いを大切にし、女性支援のプログラムを行う事例を紹介したい。釧路市の事業として行われ、株式会社MOKA.(釧路女性プロジェクト)が運営する女性支援プログラム「MOKA’s SCHOOL」がそれだ。このプログラムでは、女性が再就職について相談する相手がおらず、自分の働き方の希望を思い描きづらい状況を克服することを目的に開催され、参加者は全15回(期間は2カ月)の講座を通じて、キャリアカウンセリングを受けたり、悩みを共有したり、自分たちで学びたいテーマを決め、その講座の企画と準備、運営などを行う。

このスクールの特徴の一つに「つながりの重視」があり、参加者は講座修了後も続くネットワークを作れるだけでなく、アフタースクール制度によりその後もキャリアについて相談できることとなっている。このスクールを運営するMOKA.の森崎三記子代表によれば、講座修了後も相談できる仲間や場があることによって、次の一歩を踏み出しやすくなるという。このスクールは、必ずしも修了後すぐに参加者が就職することを目指すものではないにもかかわらず、これまでに開催された5回の参加者(累計65名)の約9割は仕事に就いており、起業したり、地域の子育てに関わるコミュニティ誌の立ち上げを行う人もいる。

図表2 MOKA’s SCHOOLの様子

リサイズ_MOKA's SCHOOL写真.jpg出所:MOKA’s SCHOOL提供

コロナ禍により、対面で人に会うことや新たな人間関係を構築することが難しくなっている今だからこそ、つながりを重視した就労支援が大事なのではないだろうか。つながりを重視した就労支援が、コロナ後の日本で増えることを期待したい。

大嶋寧子

(※1)分析の詳細は「【分析編】再就職後の女性のキャリア~データで読み解く「就業継続・仕事満足」~」参照 https://www.works-i.com/project/blank/deta.html
(※2)ここで示しているのは何も学んでいない場合と比べた結果である。