シンポジウム動画・報告 「つながりの時代ーキャリアの共助が未来をひらくー」【事例紹介】デジタル時代の関係人口の創り方

リクルートワークス研究所では、2021年7月に3日間のオンライン・シンポジウムを開催しました。以下に、7月16日に行った「DAY3 地方を元気にする『オンライン関係人口』と『非営利の仕事』」の事例紹介の動画とサマリーを公開します。

デジタル時代の関係人口の創り方(事例紹介)鳥取県関係人口推進室長 岡本圭司氏

県と県外の人をつなげる。日本初の関係人口推進室創設

鳥取県の最大の問題は、深刻な人口減少です。1988年の61.6万人をピークに、約55万人まで減少しました。移住政策に力を入れ、毎年2,000人近い移住者を獲得しているものの、過去25年で人口は1割以上減り、全国最少となっています。高校を卒業した人の約半数は県外に流出し、企業は後継者不足に悩まされています。

そうした中で2019年7月、日本で初めて、県外にいて鳥取県と何らかの関わりを持つ人々、つまり「関係人口」をテーマとする「関係人口推進室」を設置しました。当室では若者の定着促進のほか、ワーケーションなどを通じた関係人口の形成に取り組んでいます。

関係人口とのつながりは、リアルな場でこそ成り立つ、というイメージがあるかもしれません。私たちもコロナ禍までは、ワーキングホリデーや交流会など、対面を前提に施策を進めていました。しかし昨年2月のコロナ禍以降、オンラインで県外の人とつながる機会が急激に増えています。


オンラインとオフラインを組み合わせる

コロナ禍以降、自治体は主に4つの段階を踏んで、関係人口のオンライン化を進めてきました。

最初はリアルの場を、そのままオンラインに置き換えました。鳥取県でも相談会や会議などがすべてオンライン化されました。すると対面の場を作るよりコストが安く、離れた地域の人同士が簡単に一堂に会せるといった、オンラインのメリットが浮かび上がりました。

次にオンラインを通じて、コミュニケーションが拡張しました。ワーケーションなどのセミナーも場所代が浮いた分、有償の講師を招いて内容を充実させたり、回数を増やしたりできるようになりました。大都市圏で開いていた若者交流会も、オンライン化によって全国から参加できるようになりました。

その結果、昨夏ごろには旅行や宿泊なども含めてとにかく何でもオンライン化するという、3段階目の動きも起こりました。

そして最終段階として、オンラインとリアルを組み合わせ、それぞれの特性を生かすようになりました。例えば旅行するにしても、事前に地元の人とオンラインで顔合わせをしてから現地で交流し、その後もオンラインでつながりを維持するといった形です。


自分らしい関わり方を、人材の側が提案

鳥取県の事例をご紹介しますと、副業・兼業人材の受け入れ事業「とっとり翔ける複業」では、副業人材が事前に受け入れ側の企業・団体とオンラインで関係を築いた上で、現地でフィールドワークを行い、自分らしい鳥取との関わり方を提案してもらいます。

鳥取市と鳥取県、長野県塩尻市の有志が毎週1回オンラインで交流する「オンライン関係人口未来プロジェクト」でも、お互いの地元を訪問するリアルな行き来が生まれました。

国土交通省によると、オンラインを使った関係人口の拡大は、県外に住む参加者側のハードルを低くして、気軽に参加しやすくなるメリットがあります。

一方、自治体などがつながりを形成するためには、必要な情報をいつでも得られる場をオンライン上に設け「固着性」を確保することと、コミュニケーションを円滑にするファシリテーターを置くことが重要だとされています。


緩やかでオープンな「地域アルムナイ」

どちらかというと懐古的なコミュニティだった県人会にも、SNSを基盤とする地域アルムナイという新しい形態が生まれています。

鳥取県の関連でも、若い鳥取県応援団、Hot Place Tottori、Tottori Amazing Friendsといった団体が活動しています。例えば、若い鳥取県応援団は20代~30代の鳥取県出身の社会人、大学生など約120人のコミュニティです。普段はSNSで連絡を取り合い、鳥取県の食や民工芸の魅力を紹介するイベントや、地元の企業経営者の講演会などを開いています。オンラインを前提とし、必要に応じてオフラインで集まっています。

最初は鳥取から都会に出てきた者同士の、心理的な支え合いが中心でしたが、次第にお互いのキャリアを助け合う関係になります。さらに、ふるさとの鳥取に何か貢献できないかと考えた人たちによって、地元との交流やI・J・Uターンへ発展する流れが生まれ始めました。

ただ新しい県人会は、緩やかなつながりが前提となっています。関係の基盤も、趣味や関心プラス地縁で、会員同士の関係も対等です。運営も、関心のあるメンバーが自然発生的に集まってプロジェクトに取り組むという形で、人も入れ替わります。過度に束縛されない、緩やかでオープンなシステムであることが、心理的安全性を作り出している面もあります。

1つの地域にさまざまな関連人口の団体が生まれ、多様なネットワークが広がっていくという姿が、望ましいと思います。

自治体が関係人口のコミュニティと結び付くには、団体の自主性や多様性を重んじることが基本です。

行政は、地域アルムナイなどのコミュニティを傘下団体のように考え、活動に関与しようとしがちです。しかしこうした団体とは、対等な関係を築いた上で、双方の必要に応じて緩やかに協力し合うことが大事です。それによってコミュニティを、地域の力に変えていけると考えています。

執筆:有馬知子