研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.4テレワーク最低週3日を義務化したフランス──田中美紀

2021年12月、フランス政府は新型コロナウィルスの感染者数が1日10万人を突破した事態を受け、最低週3日、可能ならば週4日のテレワークを義務化した (※1)。規定に違反した場合は、違反1人につき1000ユーロ、1社最大で5万ユーロの罰金が適用されるなど、とても厳しい内容となった。こうしたフランス政府の決定からも、テレワークがウィズ・コロナ時代における最も有効的な働き方として認識されていることが改めて理解できた。

長期化するテレワークで深刻化するメンタル面

大半の企業で強制的にテレワークが導入されてから既に2年が経とうとしている現在、テレワーク期間が長期化すればするほど「孤独感」などから引き起こされる鬱病など、テレワークを行う従業員のメンタルヘルスに関する問題が浮き上がっている。労働省が2021年12月に行ったテレワークを行う従業員を対象にしたアンケート調査では、週3日の周期でテレワークを行う従業員はテレワーカー全体の60%であるが、その内の41%がテレワーク中に「『孤独感』を感じて辛い」と表明している。

こうした状況を受けて政府は、最低週3日のテレワークは義務であるが、新型コロナウイルスに感染するリスクと同様に、メンタルヘルスのリスクも重要と捉え、職業上テレワークは可能だが「孤独感」などに苦しむ従業員に対しては、企業が従業員の状況を配慮して検討できる余地を残した。ある社員はフル・テレワークを希望し、また別の社員は週1回のみを希望するなどしても、組織の全体的な平均が週3日以上であれば良いということだ。ボルヌ労働相は、労働局による企業でのテレワーク最低週3日敢行を監督する検査の際にも、こうした状況を含み「人間的な裁量」を行うよう指示を出している。

テレワークが本格的に導入された2020年春は、テレワークによる仕事の生産性の低下が指摘されていたが、テレワークが長期化している現在は、テレワークを行う従業員のメンタルヘルスというより深刻な問題について議論が移行している。このメンタルヘルスの問題は業務レベルのみならず、事業レベルでも支障が生じる。ひいては企業の存続にも影響を及ぼす恐れがある。

長期のテレワークが原因で引き起こされる症状と言えば、睡眠障害、肩こり、腰痛、アルコールやタバコへの依存などであるが、昨今のフランスでは「テレワーク鬱」という言葉もメディア等でよく聞かれるようになった。

OpinionWayがEmpreinte Humaine社のために実施した、コロナ危機時における従業員のメンタルヘルスに関する調査(※2) によると、2021年10月時に100%テレワークをしているテレワーカーの58%が「心理的に何らかの苦痛を抱えている」としている。これは、テレワークとオフィス出社を組み合わせた「ハイブリッド勤務」の従業員(53%)と、フルオフィス出勤の従業員(47%)を大きく上回っている。

また、テレワークを行う従業員で精神セラピストなどとのセッションが必要と診断された従業員数は2020年12月時の21%から一年で36%に増加し、深刻な鬱病と診断された従業員数は一年で2倍に膨れ上がった。この傾向は29歳以下の若者層、特に女性でとても顕著だ。

テレワークにおける労働環境の曖昧さを避ける

こうした精神的困難の原因の一部は、テレワーク時の曖昧な労働環境にあると言われてる。曖昧とは「必ずしも違法ではないが、詳細が十分に明確化されていない状態」のテレワーク労働状況を指す。2年前の春、多くの企業では十分な準備期間を設けられずテレワークを見切り発車せざるを得なかった。その後、テレワーク実施方法に関する企業内労使合意が正式に結ばれた企業もあるが、2年経った現在も曖昧なテレワーク労働環境を余儀なくされている従業員も多く、その数はなんと3人に1人の割合である(※3)。

企業内労使合意が存在しない場合、マネージャーと従業員の間でインフォーマルなやり取りのみでテレワークがスタートしてしまい、作業内容や作業量を明確にせず、労働時間の監督もきちんとなされないまま継続されている。こうした労働状況下では、仕事とプライベートの区切りをつけられない従業員も多く、既出の調査によると、テレワークを行う従業員で何らかの精神的困難を訴える人の30%は「仕事が頭から離れない」と訴えている。

更に20%は、仕事の疲れを癒すための「十分な時間を持つ」ことが出来ていないとしている。なお、精神的困難を訴える人の63%が「生活の中で仕事が占めるウェイトが大きすぎることは良くないこと」と、危機感は認識しているものの、「マネージャーから依頼された仕事の量が多過ぎて、夜中も仕事をしています。ノーと言えずストレスが溜まります」と嘆く30歳のIT関連勤務の男性の声もある。

こうした曖昧なテレワーク下では、従業員の60%が「働きすぎ」であると感じ、50%はオフィス出勤時より「早く仕事を始め、遅く終了する」と答えている。また、33%は「労働法が守られていない」という印象を持っているという。「曖昧なテレワークのせいで、合法に働いていないという状況自体にストレスを感じています」と答える従業員も多く、雇用者はこうした従業員達がいつまでも黙って仕事を続けるだろうと軽んじてはならない。何故なら、こうした企業ではターンオーバー率が35%も高いからだ。

労働心理カウンセラーのクリストフ・グエン氏は「警戒を怠り、良い模範を示すことができないマネージャーと、自分自身に過度のプレッシャーをかけてしまう従業員、これが事態を深刻化させているのです」と述べる。

各従業員が事態改善のための努力をすることはもちろん必須であるが、個人レベルでは限界がある。そのため、ターンオーバーなどのリスクを避けるためにも、雇用主側がテレワークの監督責任を遂行する意義は大きい。テレワークを成功に導くためには、以下の項目を徹底しなければならない。

  • ジョブ・ディスクリプション(作業内容の詳細)明確化
  • 作業量の把握
  • 達成すべき業績目標の言語化
  • 労働時間管理の徹底
  • 「接続を切る権利」の提示(企業サーバーを切断してしまうなどの対応法もある)を徹底することにある。

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(※1) 2月2日付けで最低週3日テレワーク義務から推奨というレベルに緩和されている。
(※2) http://courriercadres.com/wp-content/uploads/2021/03/eh-2021.pdf
(※3) https://www.latribune.fr/entreprises-finance/teletravail-cote-protection-des-salaries-la-france-a-la-traine-de-l-europe-863064.html