研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.3 アウトプットから始める学び 辰巳哲子

今年のSXSW EDU(※)では、学習テクノロジーを前提にした「Personalized Learning」の話題が中心だった。近年の学習テクノロジーに関する議論は、「Personalized Learning」=個別化された学習を中心に、「自分にあう時間」「自分にあう場所」「自分にあう分量」「自分にあうレベル」「自分の興味にあう」など、より細分化された個別化が進んでいる。今年発表されていた学習サービスを見てみると、ビッグデータに基づいた個人の経験ログからの学習のリコメンドや、ゲーミフィケーションを使った学びと遊びの境界を越えた学習スタイル、学びの成果を使う機会を設定しながら学べる大学や講座、毎日10分ずつの細かい学習歴の蓄積がジョブマッチングにつながるサービスなど、個人の学習スタイルも急速に変化している。以前は、いつか使う、「貯蓄型」の学びであったが、最近は「使いながら学ぶ」もしくは「使う場面を設定した上で学ぶ」といった、いま使うための学びへと変化してきている。

新たな学びの兆し

リクルートワークス研究所では2019年4月『創造する』大人の学びモデルvol.2をリリースした。報告書を作成する中であわせてわかってきたのは、すでに学び行動は若い人を中心に変化してきている、ということだ。学ぶことを柔軟にとらえている人たちに「自分らしい学び方を教えてください」と尋ねたところ、「自分の得意分野について社内講座を受け持つ」「セミナーに出席した後、SNSで参加者同士議論を深める」といった、"知識を使ってみること"や"人との関わり"が「学び」として挙げられていた。彼らとの対話を通じて見えてきたのは、日常的にうまく学びを取り入れている人たちの学び方は、以下図のように変化しているという点だった。

引用:「創造する」大人の学びモデルvol.2~アウトプットからはじまる、学びのサイクル

そして、職種や働き方を問わず、第一線で活躍し続けている人の学び方には次の3つの共通点があった。

「発信することから学ぶ」とはどういうことか。どのようなプロセスなのかを、具体例とともに記しておこう。

アウトプット型学びの特徴

これまでの学びは、決められた日程で、研修や勉強会といった場に「正解」を持った講師がいて、その正解をインプットすることだった。しかし、「正解」と思っていたものが急に変化したり、人によって違っていたりする時代の学びは、自分の疑問や気づき、考えを発信しながら他者と一緒に考え、新たな考えを創造することになる。

アウトプット:疑問や気づき、考えや仕事の成果を発信する
フィードバック:発信したものに対する社会や人からの反応を受けとめる
アンラーニング:反応と自分の考えを融合させ、考えの枠組みを再編集する
クリエーション:再編集された考えの枠組みをもとに新たなものを創造する

アウトプット型の学びの特徴は、学びのすべてのプロセスが外部に開かれているということだ。他者の存在を前提にした学びのプロセスのため、周囲から介入しやすい。アウトプット型の学びサイクルは職場でもすぐに実践できる。アウトプットしさえすれば、他者との会話を始めることができる。フィードバックをしながら、お互いにこれまでとは違う新たなものを創っていくことができる。

詳細は、「『創造する』大人の学びモデルvol.2」をご覧いただきたい。新年度のこの時期に新たな学びの形を取り入れてみてはいかがだろうか。

(※)SXSW EDU 世界最大級の音楽やフィルムのイベントSXSWの一部として世界中の教育関係者や学習科学の研究者、学習テクノロジーのベンダーやスタートアップ企業が集まる場

辰巳哲子

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