HR Technology 2021ダイレクトソーシングプラットフォーム

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代表的なサービス

ダイレクトソーシングプラットフォームは、フリーランサー、コントラクター(契約社員)、アルムナイ(OB・OG、定年退職者、コントラクター経験者)といった外部人材から成る自社独自のプライベート人材プールを構築し、新規プロジェクトを立ち上げた時に適切な人材をすぐに調達できる、SaaS型プラットフォームである。「トラッキングシステム」のカテゴリーに含まれる。
企業はプラットフォームを利用して、過去に協働したコントラクター専用の招待制登録サイトや新規の外部人材向けプロジェクト検索ページの制作、リファラル採用(従業員に人材の紹介を依頼)の導入などを行い、人材プールへの登録を促す。Google for Jobs、Indeed、LinkedInといったジョブボードやSNSへの求人情報の掲載機能を備えるプラットフォームも多く、企業は新たな人材を広く発掘して採用における母集団を増やすことができる。
スキルテスト機能を備えるプラットフォームもあり、企業は自社のプロジェクトに関心をもち、なおかつ募集条件を満たす人材を選別することができる。
プラットフォームに搭載しているAIが、人材プールの登録者と求人をマッチングし、個人に合った求人情報をメールやショートメッセージ形式でプッシュ通知することで、登録者とのつながりを維持する。登録者は、企業の新規求人情報が一般公開される前に、いち早く情報を入手することができる。
ほとんどのプラットフォームが主要な応募者追跡システム(ATS)、ベンダーマネジメントシステム(VMS)、人事管理システム(HRMS)と提携しており、企業は人材プールと社内の人事システムを連携させることで、従業員の情報とともに外部人材の情報を一元管理できる。

人事との関連性

ダイレクトソーシングプラットフォームに自社での就業実績のある外部人材の情報をプールすることで、新規プロジェクト立ち上げ時にスクリーニングされた適任者を発掘し、即座にオファーすることができるため、採用にかかる日数を短縮できる。
また、外部人材のソーシングは、業務委託会社やスタッフィング会社などを利用するのが一般的だが、そうしたサードパーティを介さずに、自社独自の母集団を形成できるため、採用にかかる時間や契約に至るまでのコストを削減できる。
さらに、プラットフォームと社内の人事システムを連携させることで、スキル、興味関心、希望報酬額、稼働状況などの人材に関するデータを一元管理でき、外部、内部にかかわらず、人材をより効率的に活用できる。

サービス例

1.Elevate Direct

AIや機械学習技術を搭載したタレントインテリジェンスプラットフォーム。アイルランド発祥の企業。求人検索ページの制作や、750種類以上のジョブボードに求人情報を掲載する機能を備える。AIが候補者と求人情報をマッチングした適合度をジョブマッチスコア、カンパニースコア、スキルスコアの3種類で提示する。スコアの高い候補者には求人情報を自動通知する。
英国の大手製薬会社GlaxoSmithKline(GSK)、Land Rover、Coupa Software、Volt International、英原子力廃止措置機関(NDA)といった企業、マネージドサービスプロバイダー(MSP)、政府機関が主要な顧客である。GSKは、Elevate Directのプラットフォームを活用し、コントラクターから成るコミュニティを構築している。コントラクターがプロジェクトの求人検索ページからプロフィールと履歴書を登録すると、AIが個人に合ったプロジェクトを探し、メールなどでマッチングされた情報を配信する。登録者は、研究開発、エンジニアリング、製造などGSKの最先端プロジェクトに関する情報を、いち早く入手できる。
2021年2月現在、データサイエンティスト、臨床試験マネジャー、微生物工学研究者など、約50件のプロジェクトメンバーの募集情報が掲載されている。プロジェクト期間は2~12カ月で、報酬は日給125~865ポンドまたは時給10~57.5ポンドとなっている。

ttl02_1.jpg出所 https://gsk.contractorcommunity.uk/

Elevate Directのサービス利用料金は、各企業の採用プロセスや達成したいゴールについて十分にヒアリングした後に、決定される。「スタンダード(スタートアップ向け)」「プラス(成長企業向け)」「エンタープライズ(大手企業向け)」の3種類の料金プランがあり、プランによって、ソーシング経路の範囲やプラットフォームで管理できる登録者数の上限などが異なる。

2.TalentNet

フリーランサーやコントラクターなど外部人材の企業独自の人材プールを構築できる、SaaS型のタレントキュレーションプラットフォーム。カナダ発祥の企業。2000種類以上のジョブボードやSNSや検索エンジンへの求人情報の掲載人材と求人のマッチング、応募者を適合度の高い順に表示するといった機能を備える。人材プールの登録者数、応募者数、応募経路などのアナリティクス機能もある。TalentNetは、BeelineやSAP Fieldglassといった大手VMSと提携しており、企業は社内のVMSと同じインターフェイスとログイン情報で自社の人材プールにアクセスできる。
Facebook、Pfizer、Amazon、Thomson Reuters、CapgeminiなどがTalentNetを利用している。Facebookは、TalentNetの技術をもとにコントラクターを対象とする求人検索ページを制作している。掲載されている求人の職種はプロダクトデザイナー、ソフトウェアエンジニア、ブランドマーケティングマネジャー、UXデザイナー、広告運用スペシャリストなどで、プロジェクト期間は30日から12カ月となっている。求職者は、履歴書をアップロードし、職種、スキル、希望勤務地、報酬額(時給または日給)を入力し、人材プールに登録する。AIおよび機械学習技術が登録者個人に合ったプロジェクト情報を自動表示する。

3.WillHire

SaaS型のタレントプールマネジメントプラットフォーム。企業は、外部人材向けにプロジェクト情報をまとめた検索ページを制作し、人材を募集する。100以上のジョブボードやSNSや専門スキルを持つ人材向けネットワークサイトの中から、ワンクリックでウェブサイトを選択し、求人情報を一斉掲載する。さらに、自社の従業員に人材の紹介を依頼して、人材プールを構築する。
ATSやVMS上で人材の募集が社内承認されると、求人情報が人材プールに自動フィードされる。そして、登録者に合った情報がプッシュ通知される。登録者が応募すると、VMSなどに自動的に反映される。
AIによるセルフアセスメント技術で、企業は自社の募集条要件を満たした人材を選別して、人材プールの価値を高めることができる。また管理画面で、人材プール登録者の氏名、スキル、経験年数、就労資格、資格や免許、マッチする採用情報など、登録状況を確認できる。また勤務先名、スキル、居住地域、キーワードなどで登録者の中から人材を検索し、応募を促すことができる。
主要な顧客は、画像診断装置などの医療機器メーカーSiemens Healthineersなど。Siemens Healthineersの米国法人は、募集条件を満たさない応募者が増加し、採用単価が業界水準を上回るといった課題を解決するため、WillHireのダイレクトソーシングプラットフォームを導入した。CT技術者、超音波検査者などコントラクター向けの求人検索ページの制作、ジョブボードへの求人情報の掲載などにより、アルムナイなどから成る「タレントネットワーク」を構築している。Siemens Healthineersは募集条件を満たす人材をより早く集めることができ、採用にかかる日数を32%も短縮できた。また、WillHire経由で求人の約70%の人材を補充し、採用コストも20%削減した。

ビジネスモデル(課金形態)

企業が、サービス事業者に人材プールを構築するSaaSサービスの利用料を支払う。
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今後の展望

Intuitの「Intuit 2020 Report」によると、2020年時点で米国の就業者の約25~30%をフリーランサーやコントラクターといった非雇用人材が占めており、大手企業の80%以上が今後数年間で外部人材の活用を大幅に増やす計画だと報告している。Deloitteの「Workplace 2030」では、非雇用人材が占める割合は2025年までに45%にまで増えると予測している。

Staffing Industry Analystsの「Workforce Solutions Buyer Survey 2020」は、従業員数1000人以上の大手企業に対して現在導入している外部人材のマネジメント戦略について尋ねているが、企業の29%がダイレクトソーシングを「現在導入している」と回答し、また49%が「2年以内に真剣に導入を検討する」と回答している。
ダイレクトソーシングプラットフォームは、AIで自社のポジションと人材プールの登録者をマッチングし、コア業務を担う優秀な外部人材を短期間かつ低コストで確保できる。非雇用マーケットとともに中期的に最も成長が期待されている領域である。

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