米国企業の採用トレンド2022Kimberly-Clark Corporation ローリー・ジョン・ネルソン氏(北米人材獲得責任者)

積極的な人事異動で、従業員のキャリア形成を支援

ローリー・ジョン・ネルソン氏は、Johnson & JohnsonやPhilipsでリクルーティングディレクターや人材獲得プログラムディレクターを歴任後、2021年9月にKimberly-Clark Corporation(以下、Kimberly-Clark)の北米人材獲得責任者に就任した。インタビューでは、ネルソン氏のほか、レベッカ・ギッシュ氏、フラン・ウォルシュ氏、アンジェラ・スティーブンス氏の4名に、米国における採用状況や、採用部門のインハウス化、ハイブリッドワークモデル、人事異動などについて話を伺った。


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【Kimberly-Clark Corporation】1872年設立、本社所在地はテキサス州。おむつやティッシュペーパー、ペーパータオルなどを販売する大手日用品メーカー。Huggies、Kleenex、Cottonelle、Scott、Pull-Upsといったブランドを175カ国で展開している。世界約63カ国に216の拠点を構える。従業員数は約4万6000人。

――Kimberly-Clarkでは、タレントインテリジェンス職の新設も含め、北米の採用業務を自社で行うインハウス採用チームを新たに構築中とのことですが、その経緯を教えてください。

ネルソン氏:北米ではこれまで、採用業務をRPO(採用プロセスアウトソーシング)会社に外注していました。当社は、タレントアクイジションの専門家として助言もしてくれる会社を求めていましたが、その要望が満たされませんでした。
Kimberly-Clarkでは、人材育成を重視し、あらゆる分野の人材をスキルアップさせたいと考えています。それには、データやソーシャルプラットフォームなどのツールに精通したリクルーターが必要なため、採用業務を自社で行う体制に切り替え、採用チームを立ち上げました。さらに、採用活動にインテリジェンス機能を取り入れ、タレントインテリジェンス職も新設しました。
また、テックスタック(複数のテクノロジーを組み合わせて活用すること)もゼロから構築する必要があると考えています。たとえば、ATS(応募者追跡システム)やCRM(候補者管理システム)、ショートメール(SMS)など、採用チームが労働市場の変化に迅速に対応できるツールの導入も検討しています。

――2021年の採用人数を教えてください。 

ネルソン氏:2021年の北米での採用数は約1400人でした。2022年春に、営業やマーケティング部門などが拠点のコマーシャルセンターを、ウィスコンシン州からイリノイ州のシカゴに移転しましたが、転居を望まない従業員が自主退職したため、新たに180人の採用を行いました。2022年の採用人数は、前年から1~5%の増加で、ほぼ横ばいになる見込みです。

異なる分野への転職希望者が増加

――従業員が大量離職する「Great Resignation」が起きていると言われていますが、何が原因だと思いますか。 

スティーブンス氏:現在は売り手市場で、賃金が上昇しており、より高い賃金を求めて転職している人がいます。退職理由はさまざまで、技術系の人材は自分にとってやりがいのある仕事を重視する傾向があり、また、柔軟な働き方を求める人もいます。

ネルソン氏:パンデミックをきっかけに、多くの人が「自分はどこで働きたいか」「どのような仕事をしたいか」を考えました。私の周りにも、これまでのキャリアとは異なる仕事に転職したり、ずっと住みたいと思っていた場所に引っ越したりした人もいます。人々は、社会からの期待に応えるのではなく、自分が本当に望む生き方を模索しているのだと思います。
多くの企業と同様に、当社でも離職は増えています。2019年のおおよその離職率は、10%以下でしたが、約半年間で上昇しています。

ウォルシュ氏:新しいことに挑戦したい人が増えたと思います。これは、私たち人材獲得部門の課題です。事業部門のマネジャーは、退職者と同じレベルの経験を持つ人材を採用したがります。これまではそれが可能でしたが、異なる分野の仕事を求める人が増えているため、同じレベルの人材を確保することが難しくなっています。経験は浅くても、「本当にやりたいことにチャレンジしてみよう」という、従業員の仕事に対する意識の変化が見られます。私もその1人で、長年営業や経営戦略に携わってきた人が、人材獲得部門のリーダーに任命されることは少ないと思います。今後は、このような機会を意識的に提供することが大切だと思います。人材の定着化を図るには、異なる分野で経験を積んだ人であっても、基本的なスキルセットやアティチュード、高い学習意欲を持っていれば積極的に採用することです。

――Kimberly-Clarkでは、リモートワークの曜日や日数をチームレベルで決めるハイブリッドなワークモデルを取り入れているそうですが、これは候補者にとって魅力的な要素になっていると思いますか。 

ギッシュ氏:ハイブリッドワークなど働き方の柔軟性は、最低限必要な条件であり、導入する企業も増えているため、差別化にはつながらないと思います。リモートでの面接で採用のスピードは上がりましたが、今は売り手市場であり、優秀な人材を確保するためには選考プロセスにおいてさらなるスピードアップが必須です。私たちはマネジャーに、選考プロセスを速く進めるよう指導しています。

スティーブンス氏:私が信じていることの1つは、仕事は何をするかが大事であり、どこでするかは重要ではない、ということです。もう1つは、リクルーターの仕事は最高の人材を採用することであり、どこに住んでいるかは関係ないということです。どうすれば優秀な人材を引きつけ、定着させることができるか、何が差別化につながるのかを真剣に議論しています。

マネジャーが積極的にメンバーの異動を後押し

――パンデミックをきっかけに、社内モビリティ(配置転換)に注力する企業が増えていますが、人事異動は行っていますか。 

ネルソン氏:Kimberly-Clarkでは、人事異動を積極的に行っています。2021年の採用人数に占める社内からの登用(人事異動・昇進)の割合は、40%前後でした。人材を流動化するためにWorkday(※1)を利用し、社内向けのタレントマーケットプレイスを構築しています。

ギッシュ氏:当社の強みの1つは、社内の流動性です。従業員がさまざまな部門のプロジェクトに参加することで、幅広い経験を積むことができます。しかし、これは文化として根付いているもので、正式な制度ではありません。一般的には、チームリーダーが優秀なメンバーを自分のチームにとどめておこうとする行動が見られますが、ほかにやりたいことがあればリーダーがそれを支持し、新たな挑戦を後押ししてくれます。ウォルシュ氏のように、まったく新しい分野に異動するケースは、当社ではよくあることです。

ウォルシュ氏:流動性を重視し、メンバーに適切な機会を与えているかどうかが、リーダー自身の評価基準の1つとなっています。

採用ではスキルよりもコンピテンシーを重視

――今後も人材獲得部門のリーダーが成果を上げ続けるには、何が必要だと思いますか。 

ネルソン氏:フレキシブルワークを受け入れることです。リモートかハイブリッドかだけでなく、たとえば、午前数時間、午後数時間といったように、育児や家事などをはさみつつ細切れに働きたいといった要望に対応できるよう、勤務時間に柔軟性を持たせることが必要です。

スティーブンス氏:スキルではなく、コンピテンシー(行動特性など)をもとに人材を採用することです。スキルはいつか陳腐化しますが、コンピテンシーは変わりません。

ウォルシュ氏:同じ母集団から人材を採用し続ければ、同様のスキルセットを持つ人材しか採用できないでしょう。将来的に会社に必要なコンピテンシーを持つ人材を幅広く採用する必要があります。

ギッシュ氏:経営幹部は、採用の専門家である人材獲得部門を信頼して、必要なリソースを割り当てることが重要だと思います。私たちの課題の1つは、採用が人材獲得部門以外で頻繁に行われていることです。人材獲得をより効果的に行うには、採用活動を1つの部門に統合する必要があります。

インタビュアー=クリス・ホイト(CareerXroads) TEXT=杉田真樹

ポイント
  • 北米の採用業務をRPO会社に外注していたが、ニーズが満たされなかったため、採用業務を自社で行う体制に切り替え、インハウス採用チームを新たに構築中である。テックスタックもゼロから構築している。
  • パンデミックをきっかけに、異なる業種や職種への転職など、新たな挑戦を求める人が増えている。企業は、経験が浅くても学習意欲の高い人材も積極的に採用することで、人材の定着を促すことができる。
  • 人事異動を積極的に行っており、メンバーに適切な機会を与えているかどうかが、チームリーダーの評価基準の1つとなっている。

(※1)Workdayは、人事から採用、タレントマネジメント、ラーニング、労働力管理、給与計算管理、報酬管理までを網羅し、人材、労働力、コストを一目で把握できるHCMクラウドシステムである。