米国企業の採用トレンド2022Quadient シェリア・グレイ氏(グローバル人材獲得担当副社長)

LinkedInを使ったダイレクトソーシングやリファラル採用が人材獲得に効果あり

シェリア・グレイ氏は、Citrix、AMD、GE Appliancesなどの人材獲得グローバルリーダーを歴任後、2019年にQuadientのグローバル人材獲得担当副社長に就任した。グローバル規模での採用部門の立ち上げや統括において長年の経験を持つ同氏に、米国における採用状況やテクノロジーの活用などについて話を伺った。

【Quadient】1924年設立、本社所在地はフランス・バニュー。郵便に関するITサービス・コンサルティングおよび、売掛・買掛金管理ソフトウエアを開発する。もともとは郵便料金メーターなどのハードウエアを開発・販売していたが、会計ソフトウエアの開発・販売も始め、ソフトウエアエンジニアの採用を増やしている。世界の主要都市に約40の拠点を構え、90カ国で事業を展開している。従業員数は5800人超。

――2021年の採用人数を教えてください。

2021年の採用人数は1000人未満で、前年より増やしました。2022年は前年比の6~10%増の採用を予定しています。

――米国では人材獲得競争の激化により、退職者を再雇用する企業が増えているそうですが、Quadientでは再雇用は行っていますか。 

再雇用の正式な制度はなく、あまり行っていません。2021年の採用数に占める元従業員の割合は、5%以下です。

――採用難に加えて、従業員の大量離職「Great Resignation」が起きていると言われていますが、離職は増えていますか。 

離職は増えています。2019年のおおよその離職率は、21~25%でしたが、約半年間で上昇しています。当社の従業員が離職する理由には、給料面のほか、研修などキャリア形成の機会が足りないことが挙げられます。

――パンデミックをきっかけに、社内モビリティ(配置転換)に注力する企業が増えていますが、Quadientでは人事異動や昇進は行っていますか。 

パンデミックの間は、外部からの採用を停止し、社内からの人材登用にシフトしました。2021年は、1300件の社内公募に対し、約300人の従業員から応募がありました。2021年の採用人数に占める社内からの登用の割合は、5%以下でした。
2年前にはPhenom Career Pathing(※1)を使って、内部登用専用のプラットフォームを開設し、チャットボットや、LMS(学習管理システム)と連動させて、従業員におすすめの学習コースを提示する機能を備えました。このプラットフォームでは、ほかの従業員を検索して、詳しい業務内容を教えてもらったり、人脈を広げたりすることもできます。開設後の1年目は、従業員によるシステムの使用率(スキルやプロフィールを入力した従業員の割合)の目標を20%としていましたが、これを上回る27%に達しました。

バーチャルジョブフェアの活用が成功

——どのソーシング方法に高い効果が見られますか。

当社では、人材を発掘するため、LinkedIn(※2)などのツールを使って、ダイレクトソーシングを行っています。チームのリクルーターは全員、AIRSの資格(ADPが提供するリクルーター向けの資格)を取得し、LinkedIn上で人材を発掘する際のブーリアン検索(※3)の方法を学びました。人材紹介会社はほとんど利用していません。
この2年間、バーチャルジョブフェアの活用も急激に増えています。Indeed(※4)が開催したジョブフェアに数回出展したところ、数百人もの応募があり、大きな成功を収めました。
また、以前は各国の拠点ごとに、従業員によるリファラル制度が20もありました。そこで、私がグローバル共通のリファラル制度を整備し、紹介ボーナスの金額の引き上げなどを行ったところ、採用決定率が向上しました。ソーシングの最も効果的な方法は、人と人とがつながり、信頼関係を築くことだと思います。

——ATS(応募者追跡システム)にはどのツールを利用していますか。

以前は5種類のATSを併用していましたが、Workday(※5)に切り替えて、グローバル標準ツールとして利用しています。今後はこれに加えて、社内外のデータベースから関連性の高い候補者を見つけ出す、自動ソーシングツールのHiredScoreなどの導入を考えています。現在のテックスタック(複数のテクノロジーを組み合わせて活用すること)に加えるべき最高水準の製品はどれか、社内で議論を重ねています。

——人材の供給パイプラインを構築するCRM(候補者管理システム)にはどのツールを利用していますか。

Phenom CRM(※6)を使っています。Phenomはオンラインコースが多くあり、リクルーターは採用ファネルの「認知」の部分で興味喚起を行う方法や、候補者へのメッセージを個別化して、エンゲージメントを高める方法を学んでいます。Quadientでは、人手不足に対応するため、採用の基本に立ち返り、候補者の関心を引く努力を行っています。今後は、応募条件の緩和も必要となるでしょう。

——企業の多くが対面からリモートによる採用にシフトしました。Quadientでは、面接方法はオンラインと対面のどちらですか。面接ツールは使用していますか。

ほとんどの国では、すべてオンラインで面接をしています。パンデミック以前からMicrosoft Teamsを利用していましたが、マネジャーの多くがオンライン面接に慣れていなかったため、研修部門と連携して、テクノロジーの使い方や、面接方法などをまとめたガイドブックを作成しました。
現在は、シミュレーションによるアセスメントや、求職者が面接開始前に会社の紹介ビデオを視聴できるなど、より豊富な機能を備えた面接専用プラットフォームの導入を検討しています。主にカスタマーサービスやカスタマーエクスペリエンス(CX)など、大量採用を行う職種について試験運用する予定です。

ポテンシャルを測るアセスメントツールの導入を検討

――どのようにアセスメントを行っていますか。

Plum(※7)を利用し、求職者のソフトスキルを評価しています。今後は、グローバル標準ツールとして、社内の優秀な従業員と同じ特性や能力を持つ人材を特定する、アセスメントテストプラットフォームのInforの導入を検討しています。私がQuadientに入社したときに、すべてのアセスメントツールを見直しました。以前は、性格診断など、社風への適合性を測るツールを6種類利用していたこともありましたが、それだけでは必ずしも入社後の活躍を予測できないため、利用を中止しました。現在は、ポテンシャルやコアコンピテンシーを測るアセスメントツールを導入するよう社内で働きかけています。
エンジニアの採用は、コーディング試験やハッカソン(※8)でハードスキルを評価しています。

――従業員の離職防止や生産性を向上させる取り組みとして、EX(従業員体験)が近年重視されています。従業員の満足度を測る従業員サーベイには、どのようなツールを利用していますか。

社内の多様性を測る調査と従業員のエンゲージメント調査に、Culture Amp(※9)を利用しています。会社に対する満足度について従業員の声を集め、改善点を明らかにしています。

起業家精神や未来志向を持つ人材を重視

――Quadientでは、採用の際にどのような点を重視していますか。

当社では、「エンパワーメント」「パッション」「インスピレーション」「コミュニティ」の4つのコアバリュー(EPIC)を掲げています。新製品の開発を行っているため、起業家精神が必須です。また、次に来るテクノロジーの波を見抜く先見性や、社内では5、6カ国語が飛び交うため、高い協調性も必要です。
さらに、50代以上の従業員が多く、高齢化が課題であり、幅広い年齢層から採用したいと考えています。Quadientは、100年の歴史とスタートアップのような環境を併せ持つ会社です。このような企業に興味がある人材を探しています。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン(CareerXroads) TEXT=杉田真樹

ポイント
  • パンデミックの間は、外部からの採用を停止し、社内からの登用にシフトした。Phenom Career Pathingを使って内部登用専用プラットフォームを開設し、社内の人材モビリティの活性化を図っている。2021年は、1300件の社内公募に対し、約300人の従業員から応募があった。
  • LinkedInで人材を発掘するダイレクトソーシングや、従業員のリファラル採用など、人と人とがつながり、信頼関係を築く方法で高い成果が見られる。バーチャルジョブフェアの活用も増えている。Indeed開催のジョブフェアに参加したところ、数百人からの応募があった。
  • Workday、Phenom CRM、Plum、Culture Ampなどを利用して、人材の獲得や定着を図っている。

(※1)Phenom Career Pathingは、Phenom Peopleが提供する従業員向けタレントマーケットプレイスで、社内のギグやポストの検索、経験やスキルや興味関心などのプロフィールをもとに、従業員におすすめのポストを示すレコメンデーション機能がある。
(※2)LinkedInは、ビジネスに特化した大手SNSで、世界200以上の国と地域に7億7400万人のメンバーを有する。
(※3)ブーリアン検索は、「OR」「AND」「NOT」などとキーワードを組み合わせた検索方法である。
(※4)Indeedは、ウェブ上のあらゆる求人情報をまとめて検索できるジョブボードアグリゲーターである。
(※5)Workdayは、人事から採用、タレントマネジメント、ラーニング、労働力管理、給与計算管理、報酬管理までを網羅し、人材、労働力、コストを一目で把握できるHCMクラウドシステムである。
(※6)Phenom CRMは、キャリアサイトなどを経由して収集した求職者と応募者の情報を一括管理できる。スキルや居住地など特定の条件を満たす人材をAIがスコア付けし、フィットの高い順に表示する機能などを備える。
(※7)Plumは、産業組織心理学の知見をもとに開発したアセスメントで、個人の性格と問題解決力、状況判断力および社会的知性を測定する。
(※8)ハッカソンは、決められたテーマをもとに短期間に集中してアプリケーションなどを開発し、成果を競うイベントのことを指す。
(※9)Culture Ampは、経営幹部やマネジャーやチーム、職場の多様性や包括性についての従業員の満足度調査を行うプラットフォームで、各従業員の退職リスクの予測などに活用できる。