世界の最新雇用トレンド多様なギグエコノミーを活性化するテクノロジーの活用

Collaboration in the Gig Economyの後編では、2日目に行われたセッションの中から筆者が視聴して興味深いと感じたものをいくつか紹介する。

プロフェッショナル&インディペンデント・タレント

ギグエコノミーで働く人の多くは、専門性の高いプロフェッショナルタレントである。一人でも多くのタレントを引き寄せ、タレントプールを充実させるために、スタッフィング会社は四苦八苦している。

パネルディスカッション「プロフェッショナルタレント&スタッフィング・プラットフォームの融合とイノベーション」では、プロフェッショナルタレント向けプラットフォームの現状について、SIA、Axiom、RGP、Heidrick& Struggles、Bussiness Talent Groupの5社のパネリストが意見を交わした。

5社のパネリストBusiness Talent Group(以下、BTG)は15年前の創業時からハイエンドのインディペンデント・コンサルタントを対象としたビジネスにフォーカスして計画を進め、インディペンデント向けのプラットフォームを立ち上げた先駆者だ。現在では、約9万人のインディペンデント・コンサルタントが同社の監修を受けて、プラットフォームに登録している。BTGは2021年、世界最大のリテインサーチ会社Heidrick & Strugglesの傘下に入り、EOR(Employer of Recordの略)を(※1)含む多角的な事業拡大を進めている。

1996年創業のRGPは、金融・財務部門を中心にプロジェクトベースのタレントを調達する会社で、最近はテクノロジー、デジタル、コンプライアンス、リスクマネジメント、ビジネス・トランスフォーメーションなども手掛けている。同社は2021年10月に金融・財務プロフェッショナル向けのHUGOという新しいプラットフォームを立ち上げた。3~7年の経験を有し、ポートフォリオのキャリアを築きたいと考えているタレントが対象となる。HUGOはオープンマーケットプレースだが、タレントは精査と監修を受けており、誰もが自由に登録できるわけではない。また、仕事はポートフォリオベースであっても、RGPが雇用主としてタレントに福利厚生などを提供するという点において、Upworkのモデルとは異なる。

しかし、プロフェッショナルタレントの領域は、軽工業やオフィス事務などに比べると、複雑な要素が大きい。そのため、プラットフォームはユニークなものとなり、構築するのに時間がかかる。世界的にはインディペンデント・モデルが拡大しているが、純粋なテクノロジーだけを考えると、それはプロフェッショナルの領域にマッチしないものだと、同セッションのパネラーたちは考えているようである。顧客側のニーズを正しく把握するためには、顧客との綿密な対話と深い人間関係が不可欠であり、その部分をテクノロジーでカバーするのは難しい。ただ、テクノロジーを候補者の経験やコミュニケーションの面で活用することは有益であり、それがスタッフィング全体の次の潮流になると期待できる。

ビッグテック

2日目に行われた、パネルディスカッション「ギグエコノミーのビッグテック」はデジタルトランスフォーメーションに精通したパネラーが参加した、興味深いセッションだった。

デジタルトランスフォーメーションに精通したパネラー

モデレーターは最初のテーマとし2021年秋から顕著となっている大量自主退職と労働力不足の問題、それに対する各企業の対策を取り上げた。Digital Future ConsultingのJennifer Byrne氏はビッグテックが教育訓練の強化と拡大に投資を続けており、その一例として大学と連携して、コンピューター科学の学位を取得する学生を増やす努力をしていることなどを紹介した。また、教育訓練は世界的にこれまでにない形態へと移行しつつあり、大学における学位取得以外の新しい形の教育訓練が広がっていることに言及した。ビッグテックは大学を含む教育機関と企業の間のリエゾンになれるとByrne氏は期待しているという。
Byrne氏の話を受けて、LinkedInのKimberly Miller氏が同社の取組みを紹介した。LinkedInでは、4年前から転職をサポートするプログラムを運営し、キャリアチェンジのための教育訓練の場としてLinkedInラーニングというコースを提供している。LinkedIn ラーニングでは数々のコースを準備しており、「このコースを修了すると、この企業のこの仕事に応募できる(企業は修了者が応募すれば、必ず選考しなければならない)」というように、道筋を立ててコース参加者のモチベーションとエンプロイアビリティを高めているという。実際にこのコースを修了して転職した人は、通常の採用過程を経て転職したよりも、良い成績を出しているということだ。

元アリゾナ州立大学教授のPhil Simon氏は、Amazon.comやGoogleも社員のための実用的な教育訓練サポートプログラムを開始し、アップスキリングとリスキリングを後押ししていることを強調した。

パネルディスカッションの様子(ビッグテック)

パネルディスカッションではビッグテックのイノベーションに話が及んだが、テクノロジーの進化、クリエイティビティの深化、そして、アプリケーションの増加がさらに加速し、テクノロジーはより消費しやすく使い勝手の良いものになっていくという点でパネラーの意見が一致した。これは、ギグエコノミーにおいては、専門家でない人や経験の浅い人でもAIやVRを使って、短期間でアプリケーションを使えるようになるというメリットがある。さらに、AIを利用すれば、より精度の高いマッチングが可能となる。

ビッグテックは膨大なデータを有しているため、そのデータを使えば何でもできる立場にあるが、プライバシーと透明性の維持がより一層求められるようになってきており、データの濫用と搾取がないよう監督を受ける必要がある。しかし、ビッグテックはその点を理解し、データを経済全体の利益になるように活用していくだろうという共通認識でパネルディスカッションは締めくくられた。

(※1)Employer of Record(EOR)は、書類上の雇用主という意味で、Professional Employer Organization(PEO)とも呼ばれる。契約に基づいて、顧客企業のために、労働者の給与の支払いや諸給付、その他雇用主としての法律上および管理上の責任を継続的に引き受ける事業形態のこと。

TEXT=Keiko Kayla Oka (客員研究員)