労働政策で考える「働く」のこれから派遣と同規模まで拡大した外国人材 労働市場政策は新局面へ

日本における外国人受け入れの変遷

日本は積極的に移民を受け入れていないため、外国人の受け入れに関する政策も遅れていると思われがちだ。しかし、外国人の受け入れに関する政策の変遷を調べると、おそらく世間で認知されているよりもずっと広範な検討がなされ、確実に変化してきたことがわかる。

1990年の入管法改正、2006年の入国ビザの要件変更、2017年の新たな外国人技能実習制度施行。これらは外国人受け入れ政策のごく一部にすぎない。政策の変遷は、仔細は割愛するが、国立国会図書館「人口減少社会の外国人問題:総合調査報告書」の「PART1 我が国における外国人問題. 外国人政策関係年表(1945.8-2007.9)」などで確認できる。

外国人受け入れの変化はデータ上も明らかだ(図表1)。たとえば、永住者は、かつては在日韓国人の方々などの「特別永住者」が大半だったが、今では「一般永住者」が半数を超えている。1992年は10万人だった「留学生」が、2016年に28万人まで増えている。その一方、1993年のピーク時には30万人いた「不法残留者」は、2016年には6万人にまで減少している。近年、注目が集まっている「技能実習」は、従来の「研修」制度が2010年に統合されて以降、右肩上がりで人数が増え、2016年には23万人となっている。

図表1 日本に在留する外国人画像をクリックいただくと、大きいサイズでご覧いただけます出所:法務省入国管理局「在留外国人統計・旧登録外国人統計」より作成
注:2011年以前は登録外国人統計、2012年より在留外国人統計として公表。2005年以前の統計値は「出入国管理(白書)」(法務省入国管理局)を参照。不法残留者数は、各年のプレスリリース「本邦における不法残留者数について」(法務省入国管理局)を参照。

外国人は「派遣」や「失業者」と匹敵する規模に

2017年末時点で、在留外国人は約256万人、外国人労働者は約128万人と、いずれも過去最多である ※1。国内において、派遣労働者は134万人、失業者は190万人、情報通信業の就業者数は213万人なので、外国人の受け入れはすでにかなりの規模となっている。

失業対策は、古今東西、労働政策上の極めて重要な課題である。労働者派遣制度も、2012年、2015年、2018年と大きな法改正が続いており、労働政策上の重要課題である。外国人の受け入れは、すでに国内の労働政策上重要なテーマに匹敵する規模になっているのである。

外国人材の受け入れにあたっては、在留資格の整備や入国・在留管理、就労管理、子弟の教育機会の担保、家族の帯同の是非など、多面的な制度検討が不可欠だ。しかも、日本のみならず、送り出し国の法制度とも密接に関係している。外国人材の受け入れの仕組みを整備するためには、具体的かつ技術的な精緻な検討が求められ、限られた関係者による議論とならざるを得ない面がある。しかし、それにより、外部からは内実が見えにくくなり、「外国人政策は遅れている」と思われる一因となってきたのではないだろうか。

しかし、ここまで規模が拡大すると、これまでは、関係者だけの限られた課題であった外国人材の受け入れは、もはや、日本の労働市場における重要な政策課題に位置づけを変える局面に入ったといえるだろう。

「新たな在留資格制度」は、業種ごとに検討

しかも、政府の2018年の「骨太方針」では、「新たな外国人材の受け入れ」が掲げられた ※2。とりわけ注目すべきは、「新たな在留資格制度の創設」と並び、「業種別」に検討するとの方針が示されたことだ。

4.新たな外国人材の受け入れ
真に必要な分野に着目し、移民政策とは異なるものとして、外国人材の受入れを拡大するため、新たな在留資格を創設する。また、外国人留学生の国内での就職を更に円滑化するなど、従来の専門的・技術的分野における外国人材受入れの取組を更に進めるほか、外国人が円滑に共生できるような社会の実現に向けて取り組む。

(1)一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れる新たな在留資格の創設
受入れ業種の考え方
②政府基本方針及び業種別受入れ方針
③外国人材に求める技能水準及び日本語能力水準
④有為な外国人材の確保のための方策
⑤外国人材への支援と在留管理等
⑥家族の帯同及び在留期間の上限

(2)従来の外国人材受け入れの更なる促進
(留学生の就職促進や、EPA介護福祉士候補者の受け入れなど)

(3)外国人の受け入れ環境の整備
(2006年策定「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」51抜本的見直しなど)

外国人材の受け入れに対する思惑は、現状、ステークホルダーの立場によって、随分と異なっている。日本に働きにくる外国人材は、賃金などの労働条件が一定以上であることを望む。受け入れ企業は、人件費や諸経費をおさえたいと考える。人口減少が著しい地域によっては、外国人の定住を望むこともあるだろうが、定住に対して否定的な考えをもつ人もいる。日本人労働者としては、働き口を取り合うことは避けたい。

外国人材の受け入れ環境を健全に整備していくには、多様なステークホルダーの思惑を調整し、1つの方向にまとめあげていく必要がある。とりわけ知恵をしぼらなければならないのは、常にトレードオフになりえる、労働者保護と産業発展の両立をいかにはかるかという点である。業界ごとに、労働者と使用者双方が納得できるやり方を、具体策のレベルで検討していくことは、この隘路を突破する有効な方法だろう。

「日本人を確保できない」ことが意味すること

外国人材受け入れの門戸を拡大するのは、現在、深刻な人材不足にあり、さらに将来にわたって人材確保の目途が立たない業種である。具体的には、建設、農業、宿泊、介護、造船業などが想定されている※3

外国人材の活用は、制度上どうしても、日本人の雇用管理よりも複雑にならざるを得ない。受け入れの対象となる業種は、そもそも、現状、日本人を十分に確保できておらず、改善する目途が立っていない。このことが意味するのは、日本人にとって、より魅力的な仕事内容や労働条件、就労環境は、ほかにあるということだ。つまり、ほかの業種と横並びで比べると、労働者にとって、企業の人材マネジメントが相対的に劣後している業種に、雇用管理が複雑な外国人材を受け入れるといっているのだ。

日本人を確保することさえ困難な企業が、日本人よりも雇用管理が複雑な外国人材を活用するとなると、課題は倍増するといっていい。外国人材を適切に活用するためには、日本人の人材マネジメントも併行して高度化していく必要がある。

外国人材の受け入れ施策として何を行い、その前提となる国内人材向けの人事施策をどう高度化かしていくのか。外国人材の受け入れ拡大にともなう労働政策には、国内人材向けと外国人材向けの二層構造があることに留意し、関係者の利害を調整して、就業環境を整備していく時期に来ている

※1:法務省「平成29年末現在における在留外国人数」2017年末時点、厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」2017年10月末時点、総務省「労働力調査」2017年平均より。
※2:「経済財政運営と改革の基本方針 2018―少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現―」下線は筆者による。
※3:骨太方針の発表時点では5業種だったが、その後、製造業や水産加工業なども追加されることになった。(2018年7月31日時点)

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中村天江(文責)
大嶋寧子
古屋星斗

次回 日本が「外国人材を獲得できない日」が来る前に  8/21公開予定