北米のスキル重視採用-デジタル人材は学歴不問-Manulife トラヴィス・ウィンドリング氏、ナヴィード・ザヒッド氏

アセスメントとペアプログラミングによるスキル評価で、即戦力になる人材を採用

Manulifeはデジタル人材の初期選考において、職務経歴ではなくテクニカルアセスメントの結果で面接に進める候補者を選定している。また、導入研修の試験結果や入社後の働き方を可視化したデータから、適切なスキルを持つ人材は早期に戦力化することを検証している。採用戦略を率いるトラヴィス・ウィンドリング氏と、デジタル人材の配属後のパフォーマンスまでをサポートするナヴィード・ザヒッド氏に、話を伺った。
digital_009_01.jpg

【Manulife】1887年設立、本社所在地はカナダ・トロント。世界で約3000万人の顧客に保険および金融サービスを提供する。従業員数3万7000人超。2021年、Forbes誌より「世界の優秀雇用主」に、Mediacorp Canada Incより「カナダの優秀ダイバーシティ経営企業」に選出された。

――スキルを重視した採用をするために、どのような選考プロセスをとっているのでしょうか。

Manulifeでは、デジタル人材を年間約1500~2000人採用します。採用規模としては、オペレーション職に次いで2番目に多い数です。選考では、アセスメントツールを使ってテクニカルスキルを測定しており、今後はソフトスキルを測るツールの導入も検討しています。

テクニカルアセスメントにはHackerRankを利用しているのですが、その理由はアセスメントの結果をレジュメと切り離して確認できるためです。当社では、業務を遂行できる人であれば経歴を気にしません。また、ダイバーシティ&インクルージョンの観点からも、候補者の前職の社名や経歴のバイアスを受けることなく、純粋にアセスメントの結果で判断できます。

HackerRankの結果によって、技術面接に呼ぶ候補者を決めます。当然、点数の高い候補者を呼ぶ可能性が高いですが、能力があってもテストが苦手な人もいるため、3問のうち1つ正解していることを最低条件としています。これまで、アセスメントは候補者数を効率的に絞るためのものでしたが、現在は正反対で、多くの候補者を次の選考プロセスへ進めるものとして使用しています。

ペアプログラミングで候補者の思考プロセスを言語化

――技術面接では、どのように候補者のスキルを把握していますか。

技術面接で確認するのは、職務経歴と、問題解決力や論理的思考力です。経歴については直接質問して確認できますが、後者2つの能力については、ペアプログラミングで評価します。これは、面接担当者と候補者が二人一組で、特定の問題に対する解決方法を会話しながら、コードを書いていくものです。人は通常、思考プロセスを声に出しませんが、候補者が論理的に問題を解いているかどうかを知るために、面接担当者は会話をリードする訓練を受けています。この段階で、日常的にペアプログラミングをしたい相手かどうかも考慮して、採用の判断をします。

緻密な導入研修プログラムで修了後の活躍を支援

――入社後は、テクノロジーエンジニアの全員が「Manulife University」という導入研修を受けるそうですが、どのようなプログラムなのでしょうか。

Manulife University(以下MU)は、当社で使用しているテックスタックを学ぶ、エンジニア向けの導入研修およびスキルアッププログラムです。受講する内容は職務により異なりますが、フロントエンドとバックエンドの開発で使う技術、プラットフォーム・エンジニアリング、セキュリティ・エンジニアリングなど、開発に関わるトピック全般を網羅しています。ソフトウエア開発者のプログラムは大体1週間で、修了後には各自が自分の業務を遂行できるようなプログラム設計になっています。

まずは、全員がインストラクターによる講座を受けます。次はラボで、個人の学習スタイルに合わせて、3つの学習方法から選択することができます――①インストラクターの真似をすることで学ぶ、②ほかの受講生とペアを組んで作業する、③自習する。最後に、1週間で学んだことを応用する試験があります。

最終試験のスコアは、私たちの選考プロセスの妥当性を検証する材料にもなります。アセスメントと技術面接の結果を採用部署以外のマネジャーに共有すると、「自分ならその候補者を採用する」と答えた対象の人材は、MUのスコアが高い傾向にあります。つまり、その人材は必要なスキルを持っていて、私たちの採用選考での判断が正しかったといえるのです。

キーボードの使用状況から入社後のパフォーマンスを把握する

――新入社員の経験やスキルのレベルは多様ですが、個別の導入研修は行っているのでしょうか。

当社は従業員数が多い会社ですので、個別の導入研修はありませんが、新入社員を育成するマネジャーをサポートするために、私たちのチームではPluralsight Flowというツールを活用し始めました。エンジニアのキーボードの使用状況をモニターして分析するツールで、既存のコードをリファクタリングしているのか、新規のコードを書いているのか、あるいはコードをあまり書かずに同僚にコーチングしているのかなど、入社後の働き方を把握できます。また、ほかのエンジニアとのペアプログラミングなど協働作業の状況も知ることができます。

Pluralsight Flowを活用して、ソースコード・レポジトリで新入社員がコードを100行書くのにかかった時間を計算します。私たちはそれを基準値として、新入社員がチームに馴染んで活躍するまでの期間を判断したり、マネジャーへ指導や育成に役立つフィードバックを提供したりしています。マネジャー自身も自分のチームのメトリックスを確認できるよう、私たちがツールの使い方や測定の仕方を説明します。

このように、私たちのチームでは採用から導入、配属後のパフォーマンスまでのサイクルをデータで測定し、新入社員が高い業績を上げられるようにトータルでサポートしています。必要なスキルを持つ人材を採用して導入研修を行うことで、戦力になるまでの期間が短いことを、データとアナリティクスで検証できています。

インタビュアー=デビッド・クリールマン(Creelman Research) TEXT=石川ルチア

ポイント
  • 候補者のレジュメと紐づけないテクニカルアセスメントと、候補者の論理的思考力やチームとの相性を認識できるペアプログラミングを選考に活用する。
  • 入社後は、独自の導入研修でエンジニア全員の知識とスキルをアップグレード。個人のスタイルに合わせて学習方法を選択させ、学習効果を上げている。
  • アセスメントや導入研修の試験結果、キーボードの使用状況などから得られるデータを、選考プロセスの検証や新入社員の業績管理に活かしている。