コロナ禍の新人はどのように学んでいるのか職場のつながりをベースにしたアウトプットが自主的な学習者を育てる

コロナ下で入社した新人の学習プロセスから明らかになったこと

多くの職場でテレワークが当たり前になった。本プロジェクトでは、コロナ下で入社した新人らの1年間の学びのプロセスを知ることで、テレワーク環境下における新入社員の支援の在り方を明らかにすることを試みた。さらに、近年、「学習行動」の意味が多義的に捉えられていることから、研修や読書といった定式化されたインプット行動だけでなく、人からの学びや実践を通じたアウトプット行動についても学習行動とし、これら広義の学習行動がコロナ下でどのように変化したのか分析した。
本稿では、5回のコラムから明らかになったことを結論としてまとめた上で新人の職場への受け入れについてのヒントを取り出したい。

相談できるベースの関係性を同期とのON/OFF両方で構築

新人は、自分だけでは解決できない問題が起こった時に他の人に相談しているのだろうか。
分析結果からは、他者への相談行動は、他年度入社者と比べて大きな違いが見られないことが明らかになった。
ただし、同期と一緒に仕事をしたり、仕事の進め方について相談したりするONの場での交流機会がある人のほうが、人から学ぶ傾向にあることが明らかになっている。そして、目的以外の交流が発生しやすい、研修やオンライン飲み会、プライベートな場での会話といったOFFの場での交流機会がある人のほうが人から学ぶ傾向にある(第3回コラム参照)。
同期とのON/OFFの交流機会の有無は、他者から学ぶ行為に違いを生んでいる。ONだけでなく、OFFの交流機会を戦略的に設けることを提案したい。

1年後の自主的な学びのため、日常にアウトプットとフィードバックを組み込む

1年後に仕事に必要な学習を自主的にする力をつけているのは、アウトプット型学習とフィードバック獲得型学習の両方をしている新人だった(第4回コラム参照)。日々のアウトプット行動とフィードバック獲得行動にテレワークの有無による違いは見られないので、テレワーク環境であったとしてもいかにアウトプット機会やフィードバックを求めていく環境をつくっていけるか、が鍵になるということだ。
アウトプット型学習を促進するには、新しく理解したこと、獲得したスキルを使ってみる機会をつくることだ。例えば自身の学びを通じて同じチームの他の人に役立つ情報を要約して共有したり、会議の議事録をまとめて内容確認の機会をいかしながら社内ネットワークを増やす、職場のDXを推進したりするなど、新人の持ち味を生かしたレクチャーの場をアウトプットの場として設けることも一案だろう。自分の持ち味を生かせること、職場への貢献感が感じられることは帰属意識の醸成にも欠かせない(第5回コラム参照)。

建設的な意見のやりとりを学習する機会をつくる

気軽に各自の知恵を共有する前提としては、職場の同僚との信頼関係が欠かせないことが明らかになっている(第4回コラム参照)。では、どのように信頼関係を構築していけばよいのか。今回の調査では、上司とのコミュニケーション機会の充実度が1年後の仕事満足に影響することも明らかになっており、テレワーク環境のほうがよりコミュニケーション機会が充実していることが示されている(第1回コラム参照)。今後は、テレワークと対面のハイブリッド型を前提にしながら、いかにして互いの信頼関係を構築できるか、が鍵になってくるが、テレワークの新人のほうが、上司との間の「建設的な意見のやりとり」が難しい様子も明らかになっている(第2回コラム参照)。新人と上司との1on1の機会だけでなく、職場の先輩も加えた3人以上で、議論の仕方そのものを学ぶ機会が必要だ。その際、テレワークで働く新人は自分とは異なる意見を取り入れるスキルや他者からのフィードバックを吸収する力が高いので(第2回コラム参照)、彼らの持つ異なる他者とつながる力を生かして、仕事の手順や方法を任せつつ、その成長を見守るといったやり方もハイブリッドワークならではのマネジメントスタイルとして確立していく必要がありそうだ。

型を習得することだけでなく、仕事の中での問題解決を求める

分析の結果からは、「仕事の手順や方法を自分の判断で変えている」ことがテレワークで働く新人の特徴の1つとして明らかになっている(第2回コラム参照)。テレワークしやすい職務特性であるということもあるだろうが、一連の結果に基づくと、コロナ下で入社した新人らが、テレワークをしながら自主的に自分の仕事のやり方を考えつつ、必要な学びについても自主的に進めている様子がうかがえる。入社1年後の仕事のやりがいに影響しているのは、背後にある問題の解決を求められる仕事、決まったやり方だけでなく、改善することを求められるということであった(第5回コラム参照)。職場で新人に対して、問題解決や改善を伴う仕事を求め、その仕事を通じたアウトプット型の学習機会を設けることが1年後の仕事のやりがいに影響するということだ。

今後、オンラインと対面のハイブリッド型の働き方が検討される中、職場のつながりをベースに、議論の仕方を可視化・共有しながら、彼らの問題解決を伴うアウトプットを通じた環境をいかに構築していくか。職場が一体となった新たな育成の在り方が求められている。

辰巳哲子