コロナ禍の新人はどのように学んでいるのか入社1年後、「帰属意識」や「仕事のやりがい」を感じられている新人の学び方

コロナ下でテレワークが増加する中、新入社員の離職傾向が高まるのではないか、という懸念があった。実際には、コロナ下で入社した大卒新入社員の退職者は11.5%であり、テレワークなど勤務形態の変化による影響も指摘されているものの、コロナ前とは大きな変化が見られないことが明らかになっている(※1)。同調査では、現在の勤務先を辞めたいと思う理由についても尋ねており、「仕事が合わない」との回答が最も多く、34.1%であった。自由記述を確認すると、「仕事が合わない」理由としては、量が合わない(多すぎる、少なすぎる)、質が合わない(難しすぎる、やさしすぎる)が挙げられている。
本稿では、こうした入社1年後の「退職意向」について、それを説明する職場の要因(仕事内容や配属プロセス)だけでなく、「学習行動」を取り上げる。さらに「仕事のやりがい」を説明する職場の要因と個人の学習行動を明らかにする。コロナ下で入社して、1年後に「仕事のやりがい」を感じることができているのは、どのような環境でどのような学習行動をしている新人だろうか。

退職意向がみられる新人の職場環境と学び

連載第5回目の今回も「新入社員の学習に関する調査」の分析結果から、退職意向と学びの関係を見ていこう。
退職意向については「この職場を1年以内に辞めたいと思っている」に対し、「まったくあてはまらない」から「非常にあてはまる」までの7段階で回答を促した。分析では、退職意向に影響する要因として、入社後最初の本配属の経緯、仕事の特性、職場のつながり(定例会、メンター制度、懇親会など)そして、現在の学び方を分析に用いた。
図表1の分析結果から入社後1年間の行動を見ていこう。まず、退職意向に大きな影響を及ぼすと考えられる配属プロセス、仕事特性を見ると、仕事では「手順通りを常に求められる」特徴があることが示されている。個人の工夫や、自分で仕事を見なおし、改善するといった行動は求められていない仕事であることがわかる。
次に配属プロセスの3つの項目について確認すると、配属理由の説明は退職意向にプラスの影響をもたらしている。そして、その内容が「納得できない」「希望と一致しない」ことは退職意向を大きく高めることになっている。

次に学習行動を見てみよう。長期の学習行動として「社外にキャリア相談」、アウトプット型の学習行動として「理解を深めるために他者に説明する」「SNSWEBなどで自分の考えを定期的に発信する」が影響していることがわかる。自身の理解を深めるためにその内容を他者に伝えることができておらず、職場でのコミュニケーションがうまくいっていないことが明らかだ。職場のつながりに関しては有意に影響する要因は見いだされなかった。

図表1 入社後1年間の行動と退職意向の関係入社後1年間の行動と退職意向の関係注1) 重回帰分析(ステップワイズ法)
注2) *p<.05,**p<.001,***p<.000

1年後に帰属意識を持って働ける、新人の学習行動の特徴

それでは入社後1年間でどのような学習行動をしている新人が、会社への帰属意識が高いのだろうか。「もう一度就職するとしたら、やはりこの会社に入る」に対して、「全くそう思わない」から「とてもそう思う」までの5件法で尋ねた。さらに、影響要因として、学習行動だけでなく、配属プロセス、職場のつながり、仕事特性について影響要因を分析した(図表2)。
結果を見てみると、1年後の帰属意識に対して、配属プロセスの「本配属の結果に納得した」「配属内容が希望と一致している」はプラスに影響していた。仕事の内容は、「より複雑な問題解決を求められる仕事」であると認識されていることが帰属意識に影響している。職場のつながりについては、退職意向の影響要因としては確認されなかったが、帰属意識に対してはオンラインでの歓迎会や懇親会が帰属意識を高めていることが示されている。
学習行動については、定期的に自分の意見を世の中に発信していることに加え新たなアイデアを創出するために、多様な人と会話することは、帰属意識に対して一定程度の影響を持つことが明らかになっている。これらの結果からは、他者との会話や懇親会を通じたつながりの機会が帰属意識を高めているということが示されている。

図表2 入社後1年間の行動と帰属意識の関係
入社後1年間の行動と帰属意識の関係注1) 重回帰分析(ステップワイズ法)
注2) *p<.05,**p<.001,***p<.000

1年後に「仕事のやりがい」を持って働ける、新人の学習行動の特徴

次に仕事のやりがいに影響する要因を明らかにすることを試みた。仕事のやりがいについては、入社から約1年が経過した3月時点で「現在の仕事にやりがいを感じている」に対して、「全くそう思わない」から「とてもそう思う」までの5件法で尋ねた。

図表3 1年間の行動と「仕事のやりがい」の関係
1年間の行動と「仕事のやりがい」の関係キ注1) 重回帰分析(ステップワイズ法)
注2) *p<.05,**p<.001,***p<.000

図表3からは、入社1年後の仕事のやりがいに対しては、特にインプット型の学習行動(必要な知識を効率よく吸収する)だけでなく、アウトプット型の学習行動(多様な人と会話する、考えを世の中に発信する、スキルを使ってみる)が影響していることが明らかだ。仕事の特性では、決まったやり方だけでなく、個人の工夫や背後にある問題の解決を求められている。職場で新人に対して、その新人にしかできない仕事を求め、その仕事を通じたアウトプット型の学習機会を設けることも1年後の仕事のやりがいに影響することが示された。

入社1年後に個人としてのやりがいを持ちつつ、職場といい関係で働くために

本稿では、個人としての「仕事のやりがい」や帰属意識に対する影響要因を分析した。分析の結果、インプットに限らない、アウトプット型の学習行動が帰属意識や1年後のやりがいに影響していることが示されている。帰属意識にもやりがいにも影響していた学習行動は「多様な人と会話する」「自分の考えを定期的に発信する」ことであった。そして、「オンライン歓迎会や懇親会」といった職場のつながりを感じられる機会も影響していることを考慮すると、職場の他者とのつながりを感じられる場を持ちながら、自分ならではの考え方を発信しつつ、多様な他者の意見にふれる機会が重要だ。今後、オンラインと対面のハイブリッド型の働き方が検討される中、職場のつながりを保ちつつも、いかに新人らが自身の個性を発揮できるような環境を構築するのかが課題となるだろう。

辰巳哲子