コロナ禍の新人はどのように学んでいるのか新人の自主的な学習行動を促進する、「アウトプット」と「フィードバック」

第4回の今回は、コロナ下で入社した新人のパフォーマンスと学習行動の関係を取り上げる。「学習行動」は近年多義的になってきており、知識を吸収するということだけでなく、学んだことをいかにアウトプットして活用するか、フィードバックを得て、どのようによりよいものにしていくか、その一連の行動を指すようになってきている。本稿での学習行動とはこの一連の学習プロセスを取り上げ、どのようなアウトプットが新人のパフォーマンスに影響するのか、検討したい。

「正解主義」から「修正主義」へ

尾原(2021)は、日本の学校教育がたった1つの正解に向かって突き進む「正解主義」にとらわれてきたことに触れ、変化が激しい時代にはその定義自体が変わること、β版でもいいからとりあえず表に出して、多様な人たちからフィードバックを受けながら柔軟に修正していくことの重要性を述べている。
ウトプット型学びのサイクルでも示したように、変化の激しい時代には正解の定義自体が変わってしまうため、修正を前提にしながらのアウトプット行為こそが個人の日々の学習サイクルを回し、成長を早めると考えられる。オフィス環境では、新人のアウトプットに対し、上司や職場の先輩からのこまめなフィードバックが期待できるが、テレワーク下でアウトプット型の学びサイクルがどのように行われ、パフォーマンスにつながっているのか明らかではない。そこで、個人のアウトプットとそれを支援していると考えられる、職場の関係性について分析を実施した。

「アウトプット」と「フィードバック」を伴う学習行動

2020年度入社の新人へコロナ禍でテレワークが続く中でどのように学んでいるのか、予備調査を行った。その際、インプット型の学習だけでなく、自分の持つ知識をどのように使っているのか、それを仕事の中でどのように修正しているのか、という観点から調査項目を作成し、結果について因子分析を行った。結果を図表1に示す。

図表1 学習行動の因子分析結果
学習行動の因子分析結果注1)注)主因子法、プロマックス回転

この結果からは、第1因子として、学んだことについて活用する、獲得したスキルを試しに使ってみる、事象だけでなく背景の本質を理解しようとするなど、アウトプットを通じて実践場面とその意味を結びつける行為が見いだされ、「アウトプット型学習」とした。第2因子として、主に社外や自分とは異なる人たちからフィードバックを得る行為が見いだされた。これを「フィードバック獲得型学習」とした。

テレワーク環境は、アウトプット・フィードバック学習の阻害要因となるのか

次に因子分析の結果を基に、各項目に対する回答得点から、アウトプット型学習得点とフィードバック獲得型学習得点をそれぞれ算出した。各設問「あてはまる:4点」から「あてはまらない:1点」の得点を上記の学習タイプ別に合計し、各タイプの得点をプロットしたのが、以下図表2だ。

図表2 アウトプット型およびフィードバック獲得型の学習得点の分布
アウトプット型およびフィードバック獲得型の学習得点の分布

ここからは、アウトプット型学習については、中心化傾向が見られ、フィードバック獲得型学習のほうが分散していることが示されている。この結果について、「在宅あり」と「在宅なし」の違いを分析したが、図表3の通りで有意な差は確認されていない。

図表3 テレワークによる、アウトプット・フィードバックの違い
テレワークによる、アウトプット・フィードバックの違い

2種類の学習行動とパフォーマンスの関係

次に、2種類の学習行動とパフォーマンスの関係を分析した。年度末時点での目標達成状況に対して、普段の学習行動や職場の信頼関係がどのように影響しているかを分析したのが、以下の図表4だ。過去1年間の仕事の出来について、0~10点の得点で評価してもらった。この結果からは、学習行動のうち、アウトプットだけがパフォーマンスに影響していることが示され、職場の信頼関係では、「自分が信頼している」ことよりも「他者から信頼されている」と思えることのほうが、パフォーマンスに影響していることが示された。

図表4 学習行動および職場の信頼関係が新人1年目の仕事のパフォーマンスに与える影響
学習行動および職場の信頼関係が新人1年目の仕事のパフォーマンスに与える影響

「アウトプット」だけがパフォーマンスに影響するということについて考察する。今回の設問では特にフィードバックの獲得については「多様な他者から」フィードバックを得るということについて尋ねている。多様な他者からのフィードバックは、仕事のパフォーマンスを発揮するための必要条件ではないと考えられているということだ。次にこの1年間に獲得した自主的な学習力を従属変数に、影響関係を分析した。

1年間の自主的な学習力には、「アウトプット」と「フィードバック獲得」が必要

新入社員だった1年を振り返って「仕事に必要な学習を自主的にする力」を獲得した人の学習行動を分析した(図表5)。その結果、「仕事に必要な学習を自主的にする力がついた」人はアウトプットとフィードバック獲得の両方をしており、職場の同僚を信頼していることが示された。つまり、主体的な学びには、アウトプットをするだけでなく、それを多様な他者に伝えて、フィードバックを得ることが欠かせないということだ。さらに、学びの共同体として「職場の同僚を信頼している」ことが欠かせないことも明らかになった。

図表5 学習行動のタイプが「自主的な学習力」に与える影響
学習行動のタイプが「自主的な学習力」に与える影響

修正主義の時代の学習行動

正解の定義が変化する時代においては、自分の考えや仕事の成果をアウトプットし、それに対する修正をもらいながらより良いものを創造するプロセスが欠かせない。本稿では、今の時代の学習プロセスのうち、「アウトプット型学習」と「フィードバック獲得型学習」が、新入社員の1年後の成果にもたらす影響を明らかにすることを試みた。
結果として得られたのは、1年間の仕事のパフォーマンスに対しては、アウトプット型学習だけが影響を及ぼしている一方で、自主的な学習力に対しては、アウトプット型学習とフィードバック獲得型学習の両方が必要だということだ。これはつまり、会社から期待される成果を生むには「アウトプット型学習」でよいが、自分自身の成長のために主体的な学習能力を獲得するにはアウトプットをするだけでなく、フィードバックを積極的に獲得する必要があるということだ。

主体的な学習行動の重要性が指摘される中、新人時代にこそアウトプットやフィードバックまで含んだ学習習慣を身につけてほしいものだ。ただし、新入社員が多様なフィードバックを得るには限界もあるため、フィードバックのための場のサポートを考える必要があるのではないだろうか。その際、分析結果からも明らかになった、職場の同僚との信頼関係をベースにした学習の場をつくるなど、場づくりに対して企業が支援するということも考えられる。既にグーグルでは何年も前から実施されており、そのことが帰属意識の向上にもつながっている。テレワーク時代の新たな取り組みとして、検討してみてもよいのではないだろうか。

辰巳哲子

引用文献 
尾原和啓『プロセスエコノミー』幻冬舎、2021