全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2021解消しない男女の賃金格差  大谷碧

日本の男女格差は世界のなかでも大きい。世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が2021年3月に公表した「Global Gender Gap Report 2021」によると、日本は156か国中120位であった。この指数は、経済、教育、健康、政治の4つの分野からなり、各分野については、医療は65位、教育は92位、経済は117位、政治は147位と、特に経済と政治の分野でかなり低い順位となっている。

このうち、経済分野に着目すると、管理職の女性の割合が低いこと(14.7%)、72%の女性が労働力になっているものの、パートタイムで働く女性の割合が男性のほぼ2倍であること、女性の平均所得が男性より43.7%低くなっていることが指摘されている(WEF 2021)。このように、経済分野に限定してみても男女間の格差は様々な側面でみられるが、本コラムでは賃金格差に着目し、さらに詳細をみていく。

まず、日本における賃金格差の推移をみてみよう。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」から、男性の賃金を100とした際の女性の賃金は、2010年に69.5ポイント、2020年は74.3ポイントとなっており、格差は縮小しているものの、10年でわずか4.8ポイントしか縮まっていない(図1、今後の最新値は「定点観測 日本の働き方」の女性と男性の賃金格差を参照)。

図1 女性と男性の年収と賃金格差(男性=100)
女性と男性の年収と賃金格差(男性=100)

出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
注:賃金構造基本統計調査は、2020(令和2)年において、事業所票と個人票が統合され内容も若干変更されている。また推計で使用している復元倍率の算出方法も変更になっている。上記数値の2005~2009年は変更前の集計値を用いている。2010~2019年は、2020(令和2)年調査と同じ推計方法による集計である。

この賃金格差の程度は年齢、雇用形態、学歴などの属性により異なることが考えられる。そこで、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査(JPSED)2021」を使用して、2020年における各属性の賃金格差をみてみよう。まず、20歳から59歳の就業者について、各年代別にみてみると、20代は79.4ポイント、30代は54.8ポイント、40代は46.8ポイント、50代では42.1ポイントと、上の年代になるほど賃金格差が大きいことが示されている(図2)。

図2 女性と男性の年代別賃金格差(男性=100)
女性と男性の年代別賃金格差(男性=100)

注:XA21を用いたウエイトバック集計。

特に30代以降で賃金格差が大きいが、厚生労働省の「人口動態統計」で、第一子出生時の母親の平均年齢は30.7歳(平成30年)と示されていることからも、出産・育児などにより、女性が正規雇用で働き続けることが難しく、非正規雇用に転換したり、キャリアに中断が発生したりすることなどが背景として考えられる。

また、1986年に男女雇用機会均等法が、1992年に育児休業法(現育児・介護休業法)が施行されるが、その前後に働いていた世代の女性は、今よりもさらに働き続けることが困難であっただろう。年代が上になるにつれ賃金格差が大きくなっていることは、そうしたことも要因になっていると推測される。

賃金格差の要因の一つである非正規雇用の割合について男女別に確認すると、どの年代においても女性の非正規雇用者の割合は男性のそれよりも高いことが示されている(図3)。20代は、男性についても37.4%と非正規雇用の割合が高いが、30代になるとその割合が12.4%と大きく減少する。しかし、30代の女性は42.4%と、20代(46.7%)とほとんど変わらず、40代(54.7%)、50代(59.7%)と年代が上がるにつれ増えており、多くの女性が非正規雇用で働いていることがわかる。

図3 女性と男性の雇用者における非正規雇用の割合
女性と男性の雇用者における非正規雇用の割合

注:XA21を用いたウエイトバック集計。

そもそも女性が正規雇用で働き続けることが困難な状況であり、それが賃金格差の要因になっていること自体が問題であると言えるが、ここからはさらに正規雇用に属性をそろえた場合の賃金格差をみてみよう。図4の正規雇用における各年代の男女間賃金格差をみると、どの年代においても就業者全体(図2)と比較すると差は縮まっており、20代は86.4ポイント、30代は69.6ポイント、40代は68.4ポイント、50代では64.5ポインとなっている。女性の非正規雇用の割合が半数以上であった40代や50代で差が大きく縮まり、30代と近い値となっているが、それでも特に30代以降で大きな差が残る。

そこで、キャリアに中断がなかった者に限定するために、正規雇用かつ退職回数が0回の者に限定すると、20代は88.4ポイント、30代は70.6ポイント、40代は71.3ポイント、50代では75.0ポイントと、特に20代から40代は先ほどと比較してもわずかにしか賃金格差が減少しない。さらにそこから大卒に限定しても、やはり30代以降の差は依然として大きいままである(20代は92.1ポイント、30代は77.3ポイント、40代は77.2ポイント、50代は85.8ポイント)(図4)。

図4 女性と男性の年代・属性別賃金格差(男性=100)
女性と男性の年代・属性別賃金格差(男性=100)

注:XA21を用いたウエイトバック集計。
注:50代の「大卒・正規雇用(退職回数0回)」の賃金格差は、女性のn数が少ないので解釈には注意が必要。

こうした背景には、男女間での企業内の教育の差や、管理職に就く割合の差など様々な問題があると言いえる。また、残業を前提とするような長時間労働も関係しているだろう。長時間労働の場合、仕事と家庭の両立がより困難になるが、現状、家庭の負担は女性に大きく偏る傾向にある。たとえば、残業が常態化しているような職場で、女性が家事・育児などの理由で残業が難しい場合、同じ職場の男性と比較して労働時間が減少し、それが賃金や管理職への就きやすさなどの様々な要因に影響し、結果として賃金格差が生じることになるだろう。

賃金格差を少しでも解消していくためには、男女がともに仕事と家庭を両立しながら働き続けることができる環境の整備、たとえば、テレワークなどの柔軟な働き方の導入や、残業を前提とした長時間労働の是正のほか、女性だけではなく、男性の育児休業の取得を促進するなどを早急に進めることが必要であると言えよう。

参考文献
World Economic Forum (2021) Global Gender Gap Report 2021. https://www.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2021

大谷碧(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
大谷碧(2022)「解消しない男女の賃金格差」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2021Vol.7https://www.works-i.com/column/jpsed2021/detail007.html