全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2018家事時間(前編) ―夫の積極的な家事従事に期待するワケ 孫亜文

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共働き夫婦では、夫の家事時間は妻より3時間も少ない

「社会生活基本調査」(総務省統計局)によると、1日あたりの平均家事時間は、男性19分、女性144分(2時間24分)と、男女間の差は著しく大きい。共働き夫婦では、夫14分、妻180分(3時間)と、その差はさらに広がる。過去20年間の変化をみてみても、共働き夫婦の夫の家事時間は、1996年(平成8年)で1日あたり8分、2016年(平成28年)で1日あたり14分と、わずか6分しか伸びていない。男性の家事時間の伸びは非常に緩やかであることがわかる。そもそも、なぜ男性の家事従事に期待する声が大きいのだろうか。本コラムでは、「全国就業実態パネル調査2018」を用いて、男性(夫)の積極的な家事従事がもたらす影響を確認していく。

男性の家事従事は、女性の就業を促進する

女性が結婚・出産を経験したのちも、働き続けられる社会を実現するためには、夫のサポートが不可欠であるとされる。家事の大半を担っている女性が働くためには、男性も家事を分担することが必須であり、そうすることで、女性が働き続けられるだけでなく、キャリアを積み上げていくことも可能になるだろう。

雇用者として働いている男性の家事時間別に、妻の就業割合をみてみた(図1)。家事をしていない男性(0分)よりも家事をしている男性(30分以内~2時間超え)の方が、就業割合は多い。また、男性の家事時間が長くなるにつれて、正社員として働く妻も増えている。男性が積極的に家事を行えば、多くの女性が働き続けられるようになるのだ。

図1 男性の家事時間別妻の就業割合および正社員割合
注:ウェイト値(x18)によるウェイトバック集計である。家事時間とは平均的な1日(働いている日)における時間数である。

男性の家事時間が長くなれば、世帯年収も増加する

しかしながら、共働きになっても、家事の大半を担っているのは、多くの場合やはり女性である。長い家事時間が就労や本人のキャリアアップの機会を妨げ、世帯収入を押し下げる可能性はないだろうか。

そこで、夫婦ともに雇用者として働いている男女について、家事時間と世帯年収の関係をみてみよう(図2)。すると、女性の家事時間が長くなるにつれて、世帯年収が大幅に減少していることがわかる。一方で、男性の家事時間は、長くなるにつれて世帯年収も増えていく傾向が見受けられる。男性の積極的な家事従事は、女性の就業だけでなく、家庭全体にとってもメリットになるようだ。では、どうすれば男性の家事時間は長くなるのだろうか。

図2 男女別の家事時間と世帯年収

注:ウェイト値(x18)によるウェイトバック集計である。男女では家事時間の分布が異なるため、横軸の区分が男女で異なっている。

労働時間が短くなっても、男性の家事時間が長くなるとは限らない

労働時間が短くなれば、男性でも家事に長く従事するようになると言われることが多い。そこで、夫婦ともに雇用者として働いている男女について、家事時間と週労働時間の相関関係をみてみた(図3)。男女ともに負の相関関係が確認できたものの、女性と比べると男性の相関係数は小さく、これは労働時間が短くなっても女性ほど家事時間が長くならない可能性を示している。また、労働時間別に平均家事時間をみても、女性ほど大きな変化は見られない(図4)。男性の家事時間はそう簡単には増えないことがわかるだろう。

男性が積極的に家事に従事すれば、女性の家事負担は軽減される。それは、働く女性のみではなく、世帯にとってのメリットにもつながる。しかし、男性の家事時間は容易に増えない。女性の家事負担を減らすためには、ほかの方法を模索する必要もあるのではないだろうか。次のコラムでは、男女の家事を重荷に感じている理由/感じていない理由を用いて、女性の家事時間を減らす方法を探る。

図3 家事時間と週労働時間の相関関係
注: ** 5%有意、*** 1%有意。

図4 週労働時間別の平均家事時間
注:ウェイト値(x18)を用いたウェイトバック集計。

孫亜文(リクルートワークス研究所/アナリスト)

・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。