全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2018転職経験によって人は学ぶようになる 茂木洋之

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「全国就業実態パネル調査2018」では「社会人の学び」について特集が組まれた。そこでは学生時代に学び習慣がある人は、社会人になってからも学びの意欲が失われていないことが発見された。しかしそのような人であっても、場合によっては学びの意欲が失われてしまう可能性がある。本コラムでは学ぶ意欲を維持するための条件について考えてみたい。

日本的雇用慣行と学び

人が学び続けるためには学びを促進する環境が重要となる。その場合、終身雇用や年功賃金を基礎とする日本的雇用慣行は学ぶ意欲を削ぐシステムとも考えられる。特段、学ばなくても定年まで会社に在職し続けることができ、給料も年齢に応じ一定レベルで増加するため、学び続けるためのインセンティブが弱いのだ。このような企業に入ると学生時に学び習慣をもっていた人でも、それが失われてしまう可能性がある。

この仮説を検証してみよう。学生時代から学び習慣があった人、かつ現在就業している人に対象を限定し、これまでの退職回数が現在の学び習慣に影響を与えているかどうかを分析した。

図 現在の学び習慣が継続する確率(%)
※比較対象は退職経験2回
※注) 被説明変数に現在の学び習慣についての二値変数を入れた。現在の学び習慣がある場合を1として、ない場合を0とした。説明変数に退職回数に関する変数を入れ、また性別、年齢、学歴、企業規模などをコントロールしOLS分析をした。ウエイト付けした分析やプロビット分析も試みたが、結果は頑健だった。サンプル数は3,536である。結果は退職経験なしと3回以上のみ10%有意。

結果は、退職経験のない人は同2回の人と比較して、今も学び習慣をもっている確率が4.0%ポイント低いと出た。一方で退職経験が3回以上ある人と同2回の人を比べると前者のほうが4.3%ポイント高かった。この結果は一つの企業に在職し続けると学び習慣を喪失する可能性があることを物語っている。退(転)職に代表されるキャリアの変化が多いと、新しい環境に対応するために学び続けなければならない。もちろん、学び習慣のある人ほど転職しやすいという逆の因果関係も考えられる。いずれにせよ、この結果は終身雇用に代表される、日本の雇用システムが学ぶインセンティブを阻害する可能性を示唆している。転職のようなステップアップを機会に、新たに学ぶというストーリーに違和感はないだろう。

それでもやはり強固な学生時代の学び

なおコントロール変数に企業規模や雇用形態(正規雇用者か否か)、初職の企業規模や雇用形態も入れたが、これらは有意では出ない。また上述した通り、学生時代に学び習慣のあった人のうち、実に83.3%もの人が現在も学び習慣があるのだ。社会人になってから学ぶインセンティブを与えることは確かに重要だが、やはり学生時代にしっかりと学んでおくことも重要である。社会人になってからも熱心に学ぶ人を採用したい企業は、学生時代の成績などを採用条件に取り入れることも有効かもしれない。

茂木洋之(リクルートワークス研究所/研究員・アナリスト)

※本稿は「どうすれば人は学ぶのか―『社会人の学び』を解析する」に掲載されている分析の抜粋(一部調整)です。

・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。