「働く」の論点コロナショックで顕在化する高校卒就職システムの抜本的課題

2022年卒の高校生の就職について、求人倍率は好転しコロナ禍前の水準に戻っているが、一点だけ大きな懸念がある。以前のコラムにおいて提示した「景気後退・変動局面で、ハローワークと学校が生徒に対して就職先を紹介できなくなる」という懸念である。まず最新のデータから、その懸念が社会問題として顕在化したことを明らかにしたい。

コロナショックで大きく低下したハローワーク・学校の就職斡旋率

2021年卒の学校基本調査のデータから見てみよう。高校生の就職においては、大学生等の就職とは異なり、ハローワーク・学校による就職先紹介が主な就職経路となっている。その比率はおよそ8割前後 (※1)であり、2000年代は8割弱で推移し、2010年代は8割強となっていた。学校推薦や指定校制度(※2) 、「一人一社制(※3)」という仕組みと合わせて、このハローワーク・学校による就職斡旋は高校就職の根幹となる仕組みと言って良いだろう。こうした仕組みによって高い就職内定率を誇るのが、日本の高校就職システムであった。
他方で、この仕組みはこれまでも指摘される通り、「急激な景況感悪化・人材需要減少の局面において(中略)機能しない恐れ」(※4)があった。図表1をご覧いただければわかる通り、事実としてリーマンショック期の2010年卒、2011年卒においては急激なハローワーク・学校による斡旋率の低下が見られたためである。2010年卒では前年(77.3%)よりも10.3%ポイント低下し67.0%、さらにその翌年2011年卒では61.7%まで低下していた。その結果として、大量の「就職をあきらめた」高校生が出て、また多くの進路未決定者が出ることとなった。
そして、事実上コロナショックの影響を直接受けた2021年卒についても、やはりリーマンショック期と同じ現象が起こってしまっていた。2021年卒のハローワーク・学校による斡旋率は74.8%と実に前年(86.2%)よりも11.4%ポイントも低く、リーマンショック期よりも下がり幅が大きい状況である。
以前より、現行のハローワーク・学校斡旋のみを頼りにする高校生の就職システムは「急激に求人が減少した際に高校生に就職先が紹介されなくなる」懸念があったが、現在も同様の問題点があることがわかる。実際、「指定校求人の枚数が急速に減った」、「紹介先が現業系公務員しかなくなった」、といった現場の先生方からの声を聞くことも多く、この点について検証の必要性を痛感していた。

図表1 高校卒就職者のうちハローワークまたは学校を通じて就職した者の割合(卒年)(※5)

高校卒就職者のうちハローワークまたは学校を通じて就職した者の割合(卒年)

サポートが本当に必要なときに斡旋率が低下する

高校生の就職に関しては、申し合わせ・慣行が多数存在しており(※6)、ハローワーク・学校以外の支援者・事業者が介在するハードルが高いと考えられてきた。そのためほとんどの高校生はハローワーク・学校の斡旋システムを活用せざるを得ない。そのメインの就職ルートが、「求人が減少する」という最も生徒たちがサポートの必要なときに機能低下を起こしている。その結果として乏しい支援のもと自力での就職先探しを余儀なくされたり、就職をあきらめ、意中の進路が閉ざされ進路未決定(※7)の状態で卒業せざるを得ない状況にあるのではないだろうか。
図表2の通り、コロナショック後の2021年卒の高校生において、統計上も近年の傾向とは異なり、「就職活動をしていたが途中でやめた」(とハローワーク・学校が考えている)者が6千名近く確認されていることも、重要な課題である。2022年卒の高校生たち以降にもこうした影響が残る可能性がある。また、今後再び求人動向が急変した際の大きな問題となるだろう。

図表2 「就職活動をしていたが途中でやめた」高校生の数(9月末時点求職者-3月末時点求職者)(人)

「就職活動をしていたが途中でやめた」高校生の数(9月末時点求職者-3月末時点求職者)(人)

なぜ景気後退時にハローワークは高校生に就職先を紹介できなくなるのか

それでは、なぜ景気後退局面に人材需要が減少するとハローワークは高校生に就職先を紹介できなくなるのだろうか。
ひとつの理由として考えられるのは、ハローワークが高校生の就職先の求人を「取りまとめる」機能しかもたない、という点がある。ハローワークや学校は高校就職の求人開拓機能をおおよそ保有しない。景気後退局面でも潜在的な高校生の採用ニーズを持つ企業に働きかけ、高校卒採用をするという意思決定を促し、その求人を高校生につなぐ、一連の求人開拓機能を保有しないのである。現代においては人手不足が長く続いたこともあり、最近新たに採用を始めた企業のなかには求職者への訴求力が高いとは言えないハローワークの求人を使ったことがない企業も多い。新たな求人が出てこない情勢では、生徒にとって魅力的と感じる新たな求人を開拓することが必要になるが、その機能がないのである。これは景況感が後退する際に求人需要が減ることへの対応が難しいことを示している。
なお、この点についてかつては学校が求人開拓を行っていた例が多数存在した(自校の生徒の就職先がないので、学校の教員が地元企業の工場の門前で社長を待ち構えて採用してもらえるよう口説いた話など(※8))が、学校教員の労働過負荷が議論される昨今では求人開拓機能まで教員に担わせようというのは現実的ではないだろう。しかし、かつて高校の先生が求人開拓をしていたという事実は、大学生等の就職だけでなく高校就職の分野においてもこの求人開拓機能が必要であるということを示している。待っているだけでは生徒にとって良い求人は集まらない。
また、地域横断的な紹介機能がほとんどないことも指摘できる。今回のコロナショックの特徴は飲食・宿泊業等の特定の業種において大きな影響があったことだが、そうした業種の採用割合が高かった地域では特に就職が厳しい状態にあった。もちろん高校就職全体では求人数は十分にあった(図表3の求人倍率を参照)が、地域間を横断して就職先を紹介する機能が乏しいために、コロナショック下でも全く県外就職率は変動しなかった(図表4)。急激な景気変動は今回のコロナショックからもわかる通り、一律で悪影響を受けるものではなく、特定の業職種から生じるものである。その際に、地域横断で就職先を探すことができれば求職者にとって影響を受けていない企業の存在がセーフティネットとなるが、高校就職は地域横断的な紹介機能が弱く、結果として「この地域では就職先を紹介できない」という状況に陥っていると考えられる。
第三に、コロナショック後の産業構造・採用構成の変化に対応できていない点もいえよう。第一の理由(求人開拓機能をもたない)があるため、ハローワークが保有する求人は業種が偏在しており、結果として高校生の約4割が製造業、約2割が建設業へ就職している(※9)。しかしコロナショック後は例えば情報通信業が旺盛な採用意欲を示す傾向が続いており(※10)、こうした新たに採用意欲を示している企業の需要を取り込めていない(※11)ことが、2021年卒の高校生へ就職先が紹介できないという現状として浮かび上がっている。

図表3 ハローワーク・学校斡旋率と求人倍率の推移(卒年)

ハローワーク・学校斡旋率と求人倍率の推移(卒年)

図表4 高校就職における県外就職率の推移(卒年)(※12)

高校就職における県外就職率の推移(卒年)

現状の高校卒就職システムは持続可能か

今回論じてきた通り、コロナショックを経てあらためてわかったのは、急激な景況感悪化・人材需要変動の時期には現状の高校生のハローワーク・学校を中心とする斡旋システムでは“紹介をしてもらえない高校生たちが生まれてしまう”、ということである。そして、高校生の就職において近年9割近くの生徒がこの斡旋システムを用いて就職していたことからわかる通り、他の仕組みはない。景気の良いときの斡旋は当然のこととして、生徒に公平な機会を与え・確実な卒後の進路を確保する(※13)という趣旨からは、景気が悪くなったときこそむしろ斡旋率を上げなくてはならないのではないか。これと逆の動きをしている過去・現在の状況を見れば、ハローワーク・学校による斡旋の単線型の仕組みでは限界が来ていることは明らかであろう。求人開拓機能をもたず、昔から求人票を送ってくれる企業との関係に支えられ、地域横断的な就職先紹介機能ももたないという今の仕組みが、限界が来ているのである。
また、11%もの高校卒者が正規社員で就職した会社を半年未満で退職していることも明らかになっており(※14)、ハローワーク・学校に過度に依存した仕組みの再検討は喫緊の課題である。
現在、DXや人材のリスキリングが大きな話題となっている。若者を採用してくれる企業の顔ぶれも変わりゆくなかで、現在のハローワーク・学校による斡旋システムのみで、高校生たちに十分な就職先を提供し続けられるのだろうか。

解決策の方向性は2つ挙げられる。①学校連携による就職支援センター機能の設置と、②求人開拓機能を有するキャリア支援団体や民間企業の活用である。①は特に進路多様校が増え、就職者が少数派の学校では教職員が就職支援に専任できないケースが増えていることから、学校連携により支援資源を集中することを目的とする。こうした機関ができれば、こうした組織を中心に求人開拓機能をもつことが可能になるかもしれないし、今後必要性が増す地域横断の取り組みも可能となる。②は、ずばり求人開拓機能と斡旋機能両方をもつ機関を民間の力を活かして作るということである。
高校生の職業生活の第一歩を支えるために、現状の単線型の就職チャネルが2020年代の職業社会で持続できる可能性は低い。まずは現状のシステムに欠落した機能をどう補完していくのか、抜本的な検討が求められている。

(※1)文部科学省,学校基本調査
(※2)特定の学校の在校生にのみ求人票を開示する高校就職独自の仕組み
(※3)学校やハローワーク経由での企業の選考を一度に1社までとする申し合わせ

(※4)古屋星斗,2021,「高校卒就職の最新状況と、浮かび上がるひとつの『懸念』」
(※5)文部科学省,学校基本調査より筆者作成
(※6)法令面の詳細については拙稿「高校就職・採用に関する法令を整理する」
(※7)なお、文部科学省の学校基本調査上、進路未決定者は「左記以外の者」となっている。この「左記以外の者」について厳密な定義はないが、就職希望だが就職先が決まらなかった生徒、進学希望だができなかった生徒のうち専修学校一般課程等入学者(大学受験の予備校に入った者)として算定されていない生徒(自宅浪人生)などの合計と考えられる。このため“その他、高校が進路を把握できない者”という性質が強く、国による「就職できなかった生徒」の統計は事実上存在していないのが実態である
(※8)苅谷剛彦,1991,「学校・職業・選抜の社会学 高卒就職の日本的メカニズム」,東京大学出版会
(※9)文部科学省,学校基本調査
(※10)日銀短観(2021年12月)によれば、情報通信業のうち特に情報サービス業の雇用判断D.I.は-38(実績値。マイナス方向に大きいほど人手不足)と全体でも厳しい人手不足の状況におかれている
(※11)本稿で述べたように、高校生の就職のメインルートであるハローワーク・学校が開拓機能を近年失ったことで、比較的新しい業種である情報通信業において「高校卒を以前も今後も採用しない」という企業の割合が73.2%と全体(33.8%)に比べて著しく高い現在の状況に影響していると考えられる(データは、リクルートワークス研究所,2021,「採用見通し調査(新卒2023年卒)」より)
(※12)文部科学省,学校基本調査より筆者作成
(※13)なお、東京都高等学校就職問題検討会議の申し合わせを例に挙げれば、「公平かつ公正な採用選考の実施を徹底するとともに、就職の機会均等の確保と求人秩序の確立を図り…」、と申し合わせの趣旨が記載されている。
(※14)リクルートワークス研究所,2021,「高校生の就職とキャリア」

古屋星斗

※本稿は筆者の個人的な見解であり、所属する組織・研究会の見解を示すものではありません。