「働く」の論点どうなる?コロナショックと高校卒就職。リーマンショックから考える4つの提言 古屋星斗

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、就職活動には大きな影響が出ている。オンライン説明会の浸透や、一度も対面せずに内定まで出す大手企業も多数出てきており、大きな話題となっている。他方で、採用選考スケジュールが例年通りとはいかず、長期化することを懸念として話す企業も多い。景況感の変化から不安を抱える学生も多いだろう。2022年卒のインターンシップは例年通りに進められるのか、9月入学や留学生対応等、将来の課題もある。ただし、こういった話題はほとんど「大学卒就職」についてである。
今回取り上げたいのは「高校卒就職」である。大学卒の話題に隠れ、ほとんど取り上げられることがないが、非常に多くの問題が発生している(※1)。今回は、今年の就職活動に向けて最も大きな課題となる「地域間格差の発生」と「新型コロナ対応によるスケジュールの圧迫」を提起し、その対応策を提言する(※2)。

特定都道府県で就職内定率の低下が起こる

今般の新型コロナウイルス感染症により、日本経済は大きなダメージを受けた。その雇用への影響の程度はいまだ不確定要素が多いと言わざるを得ないが、過去に類似の状況であったリーマンショック時の2010年卒就職に起こったことを鑑みると、今回も「都道府県格差」が生じる可能性が高い。
図表1に直近の高卒就職状況と、リーマンショック時の状況を整理した。プロットは各都道府県を示しており、軸は比較しやすいよう同一の数値で作図している。上図(2019年卒)では内定率が都道府県によってほとんど差がなく、上辺にプロットが固まっていることがわかるだろう。高卒求人倍率も2~4倍前後に固まっている。
他方で、下図(2010年卒)では、求人倍率が全体的に低下していることはもちろんのこと、最も顕著なのは「就職内定率のバラつきが大きくなっている」ことである。2019年卒とあまり変わらず100%に近かった都道府県もあれば、70%台となっていた都道府県もある。

図表1:高卒求人倍率と就職内定率(上図2019年卒、下図2010年卒)(※3)
図表1-①.jpg図表1-②.jpg
図表2に高い都道府県・低い都道府県とその内定率を掲載している。2010年卒の数字の差が顕著であることがわかるだろう。2021年卒に向けて、これと同じ状況が迫っている可能性がある。

図表2:就職内定率の高い・低い都道府県(卒年別)
図表2.jpg
この特異性を確認するため、大学卒についても地域別の就職内定率を掲げておく(図表3)。大学卒と比較すると高校卒は、「好況時には内定率は全国的に高いが、不況時には特定の地域で内定率が大きく低下する」という特徴がある。

図表3:就職内定率の高い・低い地区の比較(学歴別)(※4)
(大学卒が地区別のデータであったため、高校卒のデータを筆者加工し比較可能とした)
図表3.jpg(なお、低い地区は大学卒でともに九州地区、高校卒でともに北海道・東北地区であった)

以上のことから、好況期には想像もできなかったスピードで、高校生の就職の地域間格差が広がる可能性がある。

「景況感悪化」と「新型コロナ対応によるスケジュール圧迫」の複合ダメージ

さらに、今回の状況は単なる景況感悪化による状況変化に留まらない。新型コロナウイルス感染症への対応が、学校現場及び企業の採用、両面に影響を与えている。具体的には、スケジュールの問題である。
既に学校においては休校や分散登校などの措置が取られ、6月前後より徐々に開校に向かいつつある。しかし通常高校3年生の1学期に行われる、進路希望聴取やそれに基づく進路相談、面談等、7月に開始される就職活動の前に行われていた取組については未着手の学校がほとんどであろう。各教科の進捗もままならない中、そうした活動に手が回らないことはやむを得ない。
さらに今後を考えれば、そういった状態で7月に求人票を見ても企業を選ぶことが可能なのか、夏休み期間が短縮される中職場見学ができるのか、といった問題も想定できる。

また、企業側についても、中小企業を中心に、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言への対応で経営的にも人事的にも手いっぱいの企業が見られる中、①求人票作成・提出等の事務処理を6月にできるのか、②夏休み期間に職場見学を受け付けることが可能なのか、そして③そもそも高校生の採用にすぐに目を向けることができるのか(採用ニーズはあるのに手が回らない企業が増えるのではないか)、といった問題に直面している。

こうした緊急事態宣言による「空白の2か月」によるスケジュール上のダメージは、7~9月に実施される高校生の就職に対して、大きなものとなる。
今回のコロナショックは高校生の就職に対して、「景況感の悪化による内定率の地域間格差の発生」に加え、「“空白の2か月による学校・企業の準備不足」という課題を同時に突き付けている
我々はこの課題を認識したうえで、早急に対応策を検討する必要に迫られている。

4つの対応策

①教員のサポートを手厚く
スケジュールが圧迫されていること、夏休み期間が短くなったことなどがあり、職場見学を平日に行くことをはじめとして、イレギュラーな対応が発生する可能性が高い。ただでさえ、4・5月の遅れを取り戻すことで教員の方々に負荷がかかることが想定されることから、進路指導担当や担任の先生の努力を期待するだけでなく、外部のキャリアアドバイザーや就職先開拓の力を借りることを考えるべきであろう。それにより、先生方は自身の強みに集中できる。
行政には、学校が外部の力を借りるため、必要な予算措置をするなど、非常事態に合わせた大胆な対応が求められる。特に就職先開拓については県内では求人が集まらない情勢となる都道府県が存在する可能性が高いことから、地域横断で求人を開拓できるようなサポートが必要となる。

②スケジュールの調整
既に本年2月の申し合わせにより、高校卒就職のスケジュールは9月16日の選考解禁を軸に設定されている。当然ながら、その前の段階で進路決定、企業選び、応募を済ませておく必要がある。これは休校解除のタイミングによっては相当にタイトである。高校生が十分な準備をした上での選考機会を確保する観点では、選考解禁のタイミングを遅らせる、もしくは企業の選考期間を長くすることにより機会を確保することが対応の方向性となる。
しかし、「企業の選考期間を長くすること」については、強制することはできず「お願い」となり実効性確保は難しい。まずは選考解禁のタイミングについて、都道府県ごとに柔軟な対応ができるよう措置を取るべきではないだろうか。

③複数応募の早期化
高校生の選考機会確保の観点では、各都道府県が任意に設定している「2社目の応募解禁のタイミングを早期化」することは有効である。例えば、9月16日の選考解禁後、10月1日から2社応募を解禁している都道府県をイメージすると、これを9月16日から2社応募開始とする、などである。
なお、この場合には、教員の面接前後の調整や生徒のフォローの負担が増す可能性が高いため、①で述べたような教員のサポート体制の拡充とセットで実施する必要がある。

④オンライン面接・オンラインでの職場見学等の推進とルールの周知
大学卒では当たり前になった「オンラインでの就職活動」を活用することで、高校卒の来るべき課題に対応できないだろうか。
高校卒就職において、オンライン面接や職場見学等を実施したい企業は潜在的に存在している可能性があるが、様々な国や都道府県の申し合わせによって「面接のやり方」が設定されてしまっている高校卒就職においては、大学卒とはハードルの高さが大きく異なると言えよう。
しかし、感染症対策も含め、就職活動のやり方が変わりつつある中、高校生だけが無理をして従来通りのやり方で選考されるべきという道理は立たない。遠隔地への参加など選考の不平等性も指摘される中で、例えば「生徒が学校のPCを使ってオンラインで面接するのはOK」「オンライン説明会はOKだが生徒の情報取得はNG」などのガイドラインを行政が提示することで、アフターコロナ時代の高校卒就職の仕組みを作ることができる。

いま打てる「先手」を

歴史的に、若年雇用の問題は「発生してから対応」してきた。ニート・フリーター然り、就職氷河期然り、リーマンショック後の内定取り消し然りである。
しかし今回は、これまでの経験を糧にすることができる。今年の高校3年生たちの就職について、私たちは「先手」を打つことができるのではないだろうか。


古屋星斗

※本稿は筆者の個人的な見解であり、所属する組織・研究会の見解を示すものではありません。

(※1)詳細な問題点については、「高校卒就職の視点から見た、新型コロナウイルスの影響と懸念点」,2020年5月1日 も参照頂きたい。https://schooltowork.or.jp/blog200501/
(※2)本稿の提言の内容にあたっては高校生の就職のサポートを行う多くの方々の意見を参考にさせて頂いている。中でも特に、株式会社アッテミーの吉田優子代表と、公立高校教諭の新井晋太郎先生には、本稿の提言の内容について多くの示唆を頂いた。
(※3)厚生労働省, 高校新卒者の地域別求人・求職・就職内定状況 平成22年3月卒、平成31年3月卒 図表2も同様。
(※4)文部科学省, 大学等卒業者の就職状況調査 平成21年度、平成30年度