フレキシブル・ワーク最前線 ~新しい働き方が組織を変える~日本マイクロソフト株式会社 コーポレートコミュニケーション部 部長 岡部一志氏

テレワークで個人のポテンシャルを最大化

「働き方改革週間2016」を開催

日本政府が提唱する「世界最先端IT国家宣言」では、2020年までにテレワーク導入企業を2012年度比で3倍、雇用型在宅テレワーカーを全労働者数の10%以上にすることを目標に設定している。2016年8月には安倍首相が日本政府の一億総活躍による未来への挑戦の最大のチャレンジとして、テレワークを含む「働き方改革」を掲げた。これに呼応する形で日本マイクロソフトでは2016年10月に「働き方改革週間2016」を実施、テレワークを「実践する」「学ぶ」「応援する」の3カテゴリーで賛同法人を募り、推進を加速する。2015年には「テレワーク週間2015」として同企画を実施しており、コニカミノルタはじめ大手企業や地方自治体など 651の法人の参加を得た。賛同法人はセミナー参加のほか特定部門でのテレワーク実証実験などに取り組み、実施後のアンケート調査によれば86%の法人が「社内でのテレワーク推進の助けになった」と答えた。

コーポレートコミュニケーション部部長の岡部一志氏は「われわれ自身も全社員テレワークを実施し、品川本社オフィスの一部をテレワークスペースとして開放したほか、賛同法人のカラオケルーム歌広場(株式会社クリアックス)と連携してカラオケルームでのテレワーク実践などにも取り組みました」と語る。同アンケートでは『経費の削減効果』では全体の約3割以上が10%以上の削減効果を実感、『時間の削減効果』では過半数の賛同法人が同じく削減効果を実感、さらに60%の賛同法人が『生産性の向上、効率化効果』を実感したと答えた。

東日本大震災発生後、3日間を全員在宅勤務に

日本マイクロソフトがテレワークに本格的に取り組み始めたのは2011年2月。日本法人設立25周年を機に「より日本に根差した会社になろう」という方針のもと、社名変更(マイクロソフト→日本マイクロソフト)と品川本社へのオフィス統合を行った。オフィス統合にあたっては、「最先端のITをフル活用したオフィス」「お客様の役に立つオフィス」「働きがいのあるオフィス」の3つの目標を掲げた。社内はフリーアドレスとして一部を除いて固定のデスクや固定電話を廃止、自社の統合型情報共有クラウドサービス「Office 365」とコミュニケーションプラットフォーム「Skype for Business」のフル活用により、コミュニケーション環境を整備した。ところが新オフィスが稼働して約1カ月の3月11日、東日本大震災が発生。計画停電などで生活が混乱する中で「日本に根付く会社」としてフルタイムでお客様支援を行うため、対策本部が設置された。「震災の翌週3日間は社長命令で全員在宅勤務とし、テレワークでお客様支援に当たりました。各自がリモートで会議に参加したり、自宅で本社とやり取りしながら支援プログラムを作成するなどで業務を続けました。あれだけの混乱の中でも業務をしっかりとこなせたことから『テレワークはもっと活用すべき』という認識を全員が共有できたと思います」と岡部部長は振り返る。

生産性が26%アップ、女性の離職率は4割改善

日本マイクロソフトでは、震災の経験からテレワークをもっと社内に根付かせて今後に活かそうという趣旨で、2012年3月に全社員が出社せず働く「テレワークの日」を設定。翌2013年にもゴールデンウィーク中の平日3日間を「テレワークの日」とした。さらに2014年にはそれまでのワークスタイル変革の取り組みの経験知をお客様にも共有していただくため、「テレワーク週間」としてテレワーク推進を見込む賛同法人を募集、初年度として32法人の賛同を得た。岡部部長はワークスタイル変革を実現するためには5つの要素が必要と説明する。「経営ビジョンの一環としてトップ自らが率先すること、ICTの活用、オフィス環境整備、社員が本気で取り組むマインド、そしてそれらを制度・ポリシーとして仕組み化することで、このどれかが欠けても今の状態は実現できなかったと思います」。導入以前の2010年からの5年間での成果を見ると一人あたりの生産性(社員一人あたり売上)は26%アップ、社員アンケートによる働きがいは7%アップし、世界最大級の意識調査機関Great Place to Work®の「2016年版日本における『働きがいのある会社』ランキング」では1位に選出された。移動や出張の時間が減ったことから残業時間が5%減少し、旅費・交通費も20%減少した。在宅勤務が可能になったために育児休暇取得後の離職がほぼなくなり、女性の離職率は4割も改善され、経済産業省主催の「ダイバーシティ100選」にも選ばれた。2016年9月には日本における多様な働き方の実現及び生産性の向上に寄与したことが認められ「平成28年度情報化促進貢献個人等表彰『総務大臣賞』」を受賞している。

調整や稟議にかけるパワーはもはや過去のもの

「実は在宅勤務制度自体は2007年からあったのですが、当時は育児中の社員ぐらいにしか利用されていませんでした。この5年間で実態がかなり先行して進んできたため、2016年5月に就業規則を変更、従来の「利用は週3日まで」とか「2週間前までに要申請」といったルールを取り払い、「最大週5日、1日のうち必要な時間だけでもOK」「前日までに上長承認でOK」といった形に変え、個人のポテンシャルを最大限発揮できる環境を整えました」(岡部部長)。

日本マイクロソフトの「働き方改革」のゴールは、最終的には日本の労働生産性向上への貢献。改革の目的は育児や介護といった個人の事情に合わせた働き方の工夫に止まらず、個人、チーム、組織としての業務効率や生産性の向上、さらには企業成長など会社全体の競争力に結びつけることである。テレワークを日々の通常業務の中で活用していれば、「例えばお客様との商談中に専門的なことで疑問が出てきたらその場で、Skype for Businessを利用して専門部署につないで『専門の担当から一言説明させます』といったこともできるし、出張中の役員に参加してもらうことも可能です」と岡部氏。コミュニケーションのスピードという観点でいえば、社長が直接現場の担当社員に問い合わせることもでき、逆に現場社員が社長に直接メッセージを送り、状況を伝えたりアドバイスを得たりすることも可能だ。フラットなコミュニケーションが定着した日本マイクロソフトでは、会議の調整や稟議にかけるパワーはもはや過去のものになろうとしている。

テレワークを企業変革の入り口に!

「テレワーク週間2015」から「働き方改革週間2016」へとテレワーク推進を加速する日本マイクロソフト。「テレワーク週間2015」では「オフィス移転を機に働き方改革に取り組んでみたい」「病院の訪問医療にテレワークが利用できないか」「離島の村の存続のためにテレワークで人を呼び込みたい」などさまざまな理由で多くの法人の賛同を得た。岡部部長は「今年は実践する、試してみる方々を少しでも増やしたい。そのために開催告知段階から、自社のクラウドサービス『Office 365』の3か月無料のトライアルサービスや実施マニュアルなどを賛同法人向けに用意しています」と語る。

「働き方改革週間2016」ではテレワークによる生産性向上や個人のポテンシャル最大化をより強くメッセージしていくという。「今後人工知能などが発達していくと今まで人が行っていたこともロボットがこなしていくようになるでしょう。そうなるとこれまで通りの働き方では、"人でなければできない新しい価値創造"といった分野で能力を発揮することは難しいかもしれません。テレワークがそういった自分の働き方を見直す機会になるかもしれません。またこれまで取り組んできた大企業での「働き方改革の推進」に加えて、日本で最も企業数の多い中小規模企業における「働き方改革」や公的機関における公務員の働き方改革などにも一層貢献していければと考えています」。組織や個人が業務の効率をあげる、企業が生産性を向上し、競争力の強化を目指す、変革に取り組むといった局面で、テレワークがその入り口の1つになるのかもしれない。

プロフィール

岡部一志氏
日本マイクロソフト株式会社
コーポレートコミュニケーション部 部長
略歴:
・1991年慶應義塾大学商学部卒業
・同年横河・ヒューレット・パッカード(現 日本ヒューレット・パッカード)入社、広報室配属
・1999年マイクロソフト入社
・2000年広報グループ長
・2008年広報部長
・2010年コーポレートコミュニケーション部長