人事変革のバディ楽天の「世の中を元気に」を目指す組織開発

課題の設定者組織文化の体現者
小林正忠氏 Kobayashi Masatada

楽天 常務執行役員 小林正忠氏楽天 常務執行役員CWO (Chief Well-Being Officer)
慶應義塾大学総合政策学部を1期生として卒業。97年楽天創業から参画し、ショッピングモール事業責任者として営業本部、大阪支社、マーケティング部門、国際事業等の立ち上げを行う。2012年春よりカリフォルニアに赴任し米州本社社長、2014年9月アジア本社社長を歴任。2019年、CWOに就任。


課題の解決者
日髙達生氏 Hidaka Tatsuo

日髙達生氏 楽天ピープル&カルチャー研究所 代表楽天ピープル&カルチャー研究所 代表
筑波大学卒業後、リンクアンドモチベーション入社。スポーツ事業の立ち上げ、大手企業の組織変革コンサルティングなどを数多く手掛け、執行役員、グループ会社取締役を歴任。2018年1月楽天入社。グローバルでの組織開発(理念共有、D&I、カルチャーPMIなど)を統括。同年「楽天ピープル&カルチャー研究所」を設立。

たった1人で人や組織を変えるのは簡単ではない。大きな変革を成すには、多様な知見や能力が必要だ。新連載『人事変革のバディ』では、志を持つリーダーと頼もしいパートナーの双方の視点から、人事変革に求められるパートナーシップのあり方、関係のつくり方を探っていく。

第1回のバディは、楽天の組織開発に挑む2人、CWO(Chief Well-Being Officer)の小林正忠氏と、楽天ピープル&カルチャー研究所(以下「ラボ」)代表の日髙達生氏だ。

楽天は現在、Well-beingの取り組みに力を入れている。創業時から受け継ぐ「楽天主義」をベースに、個人、組織、社会のWell-beingの実現を目指している。これを牽引するのが、楽天創業メンバーの1人であり、2019年、初代CWOに就任した小林氏だ。小林氏の管轄するコーポレートカルチャー部門は、人事部とは別に、企業文化の醸成を担う専門の組織である。
「まずは個人の心身の健康が基本にあり、そのうえで社員と会社が価値観を共有して強いつながりを保つことによって幸せな組織ができる。自分たちがハッピーであるだけでなく、会社と社会がより良い関係性を築いていくことで社会全体がサステナブルに発展する。コーポレートカルチャー部門では個人、組織、社会とそれぞれのWell-beingを実現しようと取り組んでいます」(小林氏)

こうした取り組みを体系的な理論にまとめ、ソリューションの創出につなげる位置付けにあるのが、日髙氏が代表を務めるラボということになる。

社外のパートナーとして長年仕事をともにしてきた 

組織開発の始まりは、2017年夏。三木谷浩史代表取締役会長兼社長からの電話だったと小林氏は振り返る。
「コーポレートカルチャーを再強化しようと。経営的にはアクセルを踏みまくってグローバルに急拡大していたので、多様な人々が働く組織での価値観共有の重要性をあらためて感じたのでしょう。そのミッションを受け、まずは1人でコーポレートカルチャー部門を立ち上げました」(小林氏)

とはいえ人事の経験もなく、自分だけで何をしたらよいのか。そのときに相談した1人が、当時は人事コンサルティング会社にいた日髙氏だった。楽天主義を伝える新入社員研修の企画・運営を任せるなど、クライアントとコンサルタントとして長く一緒に仕事をしてきた間柄だった。「私は完全に“右脳派”です。20代で楽天の創業メンバーとして加わって以降、常に“ゼロイチ”の立ち上げをしてきました。日髙は、そのとき考えていることを私がわっと話すと、『それはこういうことですね』と見事に整理してくれるのです。私の“左脳”を見つけた!と思いましたね(笑)」(小林氏)

一緒にやろうと誘われて、日髙氏の心も決まった。「コンサルタントとしてさまざまな企業の変革を支援してきましたが、次は事業会社で変革を推し進めたいと考え始めた頃でした。なかでも楽天は、即断即決し、その意思決定を組織の隅々まで行き渡らせて変革し、モデルケースとなって社会に影響を与えることのできる数少ない企業の1つ。それが大きな魅力でした」(日髙氏)

Well-beingを自ら実践し世の中に広めていきたい 

2018年、日髙氏が楽天に入社。小林氏のアイデアを、日髙氏が持ち前の論理性や実行力で精緻に組み立てていくことも多い。一方、もともと日髙氏が構想したラボの設立は、経営陣の説得やアドバイザリーボードの招聘など、小林氏の経験やネットワークなくして実現しなかっただろう。「右脳派と言いながら、小林はリアリストでもある。人と人の機微のなかで中核事業を育てあげ、異文化に直面しながら海外展開を進めてきただけあって、自己満足ではなくみんなにとってよいことを掲げて旗を振ってくれる。その絶妙なバランスに共感して、みんながついていきたいと思えるんだろうな、と」(日髙氏)

経営に直結する組織開発のテーマにおいて正解はない。当然ながら2人のあいだで意見がぶつかることもあるだろう。しかし、根底に信頼感があれば、意見の相違も問題にならない。「議論しているうちに、気付けば日髙の指摘通りになっている」(小林氏)と、知的スパーリングを楽しむときもあれば、「それでもやるんだ!と小林が言うなら、信じてコミットし、正解にするために力を尽くす」(日髙氏)という。 

2人の目標は一致している。Wellbeingを追求して、世の中を元気にすることだ。それは口で言うほど簡単ではない。「だからこそ、自分たちで体現して世の中に証明したい」と小林氏。一方の日髙氏は、「自分の役割は課題解決。世界の研究やそれによる知見などのリソースを駆使して、リーダーの描いた理想をいちばんよい形で実現したい」と意気込む。

2020年には、コロナ禍での働き方に対応した「コレクティブ・ウェルビーイング」に関するガイドラインをラボから発表した。「仲間」「時間」「空間」の「三さんま間」の設計と、それぞれに「余白」を設けることが重要だと、ニューノーマル時代のチームのあり方を提唱している。Well-beingな未来を切り拓くバディの挑戦は続く。

Text = 瀬戸友子 Photo = 楽天提供